【Mobile World Congress 2018】

5G実用化に向けた最終段階の展示を行うクアルコム

クアルコムブースの受付。「5G」と大きく書かれている、というか「5G」しか書かれてない

 クアルコムはMobile World Congress 2018(MWC)において、同社の5Gへの取り組みなどを展示している。今年のMWCでは5Gをアピールするメーカーは多いが、クアルコムも同様に5Gの展示に力を入れている。

 5Gは導入スケジュールの前倒しが各社から発表されており、最速では2019年にも商用サービスが開始される見込み。つまりあと1年ほどで通信キャリアは商用サービスのため基地局などのインフラを敷設し、端末メーカーは端末を開発・生産しないといけないわけだ。

左右ともに5Gの端末のプロトタイプ。左は2016年ごろ、右は2017年秋ごろのもの。各種の試験などに用いられている

 2017年12月に商用サービスで用いられる5Gの規格が発行され、2018年2月現在は、その規格をベースとしたチップセットや機器の開発が本格化している段階で、チップセットレベルでの相互接続テスト、「IoDT」が行われている。

 IoDT(Interoperability Development Test)はクアルコムなどのモデム・チップセットメーカーと、エリクソンやファーウェイ、ノキアなどのインフラ機器メーカーとの間で行われる試験だ。ここでモデムチップと基地局インフラとの相互接続性を確認し、不具合があれば修正していく。スマートフォンの開発や基地局インフラの敷設の前段階となる、非常に重要な試験である。スマートフォンメーカーと通信キャリアのあいだで、スマートフォンとネットワークの互換性を確かめるIoT(Interoperability Test)というのもあり、IoDTと名前は似ているが、IoDTの方がはるかに前段階で行うものになっている。

IoDTの紹介。ミリ波に近い28GHzで、エリクソン、ノキア、サムスンの3社との内容が紹介されている

 クアルコムブースでは、5GのIoDTについて、ミリ波とサブ6GHz(sub-6)の2種類のIoDTが紹介されていた。それぞれについて、基地局インフラベンダー各社と個別にテストを行っており、ブースではその模様も紹介されていた。

 周波数の新しい帯域を使う5G、いわゆる「5G NR(New Radioの略)」は、大きく分類すると6GHz未満の「sub-6」と、30GHzなどの高い周波数帯を使うミリ波帯の2種類に分けられる。sub-6は現行の4G/3Gと電波特性に大きな差はないが、ミリ波はより「光」に近い電磁波で指向性が強く、建物の影などに回り込みづらいなど、まったく異なる電波特性を持ち、通信エリアを広げたり端末を開発したりするのは難易度が高くなっている。

5Gフィールドテストの紹介。こちらはフランクフルトで行われたsub-6でのテスト

 5Gの規格策定段階でもミリ波に積極的な企業と消極的な企業に分かれていたというが、ミリ波にも積極的なクアルコムでは、サンフランシスコで行ったフィールドテストの結果を公表し、ミリ波の有効性をアピールした。サンフランシスコのフィールドテストでは、既存基地局にミリ波を追加する形式で、既存エリアの65%がカバーできたという。

 65%をカバーできるからといって、1.5倍の基地局を用意すれば100%近いカバーができるという話ではない。建物の影などがエリア外になっているので、建物の影に向けて基地局を設置しないとカバーエリアは広げられず、こうしたスポット展開は少なくとも初期段階では現実的ではない。

 しかし65%のユーザーが高速通信できるミリ波を使えば、4G側の混雑が緩和され、ミリ波のエリア外のスループットも向上する。このように、4Gとは異なる帯域を使う5G NRは、4Gの置き換えではなく、4Gと併存し、4Gを補うものとして位置づけられている。そのため、4Gの改良も平行して行われていく見込みだ。

ミリ波の5Gのデモ。端末が回転するようになっている

 クアルコムブースでは5Gのプロトタイプ端末を使ったミリ波の通信デモも行われていた。ミリ波は遮蔽物の存在のほか、電波とアンテナの方向の関係でも利得(ゲイン)が変わるが、デモでは端末をグルグル回したり、仮想基地局とのあいだに手をかざしたりできるようになっており、そうした変化で通信速度がどのくらい変わるか、安定するかを確認できるようになっていた。

 ミリ波は、通信では世界的にもあまり使われておらず、使える帯域に余裕があるため、1つの搬送波あたり100MHz幅が想定されている。4G(LTE)では20MHz幅などなので、それに比べると非常に余裕を持った使い方だ。さらにデモでは8つの電波をキャリアアグリゲーション(CA)にすることで、最大で4.4Gbps程度のスループットが出ていた。

ミリ波5Gデモのリアルタイム速度表示。手をかざすと速度が落ちる

 このデモでは「Snapdragon X50 5G Modem」を搭載したプロトタイプ機が使われていた。5Gサービスが開始される最初の段階では、Snapdragonのアプリケーションプロセッサー自体には5Gのモデム機能は搭載されず、既存のSnapdragonにX50のような5Gモデムを接続する形式になる見込みだ。現在の4Gのように、Snapdragonアプリケーションプロセッサーのチップセット自体に5Gのモデム機能が搭載されるのは、その次の世代以降になると見られる。

4Gの5CAデモに使われていたNETGEARのモバイルルーター

 4Gや3Gの時を振り返っても、新しい通信規格が導入されるタイミングでは、単体のモデムチップが先行して新しい通信規格に対応するため、スマートフォンなどよりも先にWi-FiルーターやUSBドングル型のデータ端末から展開するケースが多かった。しかし5Gでは、当初から5G対応のスマートフォンを用意するとしているメーカーも多いのが特徴だ。

4G 5CAのデモでの実効速度のリアルタイム表示

 このほかにも既存4Gの高速化への取り組みとしては、最大2.0Gbpsに対応する「Snapdragon X24 LTE Modem」のデモも行われている。前世代のX20 LTE Modemあるいは現行のSnapdragon 845チップセットは、3波のCAで最大1.2Gbpsに対応しているが、X24 LTE Modemでは、CAを最大5波とすることで、ほかのスペックはそのままに最大2.0Gbpsに対応するというわけだ。5波のCAはオーストラリアの通信キャリアTelstraが今年中に運用を開始するという。ちなみにTelstraは帯域を豊富に持つキャリアらしく、これまでも新しい通信規格には真っ先に対応してきた実績がある。

 早い地域では来年から5Gのサービスが開始されるとされ、これからこうした展示会での5Gは、どんどん商用段階に近いものの展示になる見込み。2019年のMWCでは商用直前、あるいはほぼ商用段階の端末などの登場も期待される。日本で5Gが使えるようになるタイミングはまだわからないが、今後の展示会などでの5G展示の進展には注目だ。