石野純也の「スマホとお金」

「povo2.0」→「povo3.0」でどんな進化を遂げる? 3周年を迎えたpovoのこれからを徹底解説

 KDDIのオンライン専用ブランドとして誕生した「povo2.0」が、サービス開始から3年を迎えました。前身となるpovo1.0はahamo対抗の20GBプランでしたが、povo2.0に進化するに伴って仕組みを一新。トッピングを自由に買い足していける、既存のキャリアにはない仕組みを導入して、今に至っています。そんなpovoが、コンテンツやサービスを手がける企業、コミュニティの黒子になって回線を提供する新たなビジネスモデルを導入し、 povo3.0に進化 する方針を打ち出しています。

 その構想が明らかになったのは、2月にスペイン・バルセロナで開催されたMWC Barcelona 2024。

 そして、9月にKDDIが主催した「KDDI SUMMIT 2024」では、povo3.0のより具体的な方向性が披露され、現在協議中の企業として、Abemaや富士ソフト、ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)といった名称も挙げられました。ここからさらに一歩進み、povoのSDKを使ったサービスがローソンで提供されることも発表されました。ここでは、その具体的な中身を見ていきます。

KDDIが共同経営に乗り出したローソンで、povoが新サービスの提供を開始する

サブ回線狙いのギガチャージ専用eSIM、容量不足を補完

 povoとローソンの取り組みは、主に3つに分かれています。

 1つ目は、「ギガチャージ専用eSIM」の店舗販売。これは、いわゆるPOSAカード(Appleギフトカードのような金券)で、ローソンの店舗内にカードがつるされます。と言っても、SIMカードが入っているわけではなく、名称どおりeSIMのプロファイルをダウンロードするためのコードをレジで購入する形が取られます。このカードは、あくまでレジに持っていくための見本のようなものと捉えればいいでしょう。

ローソン店舗では、このようなカードが販売される。中にSIMカードが入っているわけではなく、レジに持っていき、データ通信専用のeSIMを購入する仕組みだ

 povoを運営するKDDI Digital Lifeによると、レジに持っていきデータ容量を指定して代金を支払うと、利用が可能になるとのこと。契約は必要になりますが、簡易的に済むよう、本人確認が不要なデータプランが採用されています。そのため、主回線として電話などを使う用途には向きません。

 ギガチャージという名前が示しているように、これは、普段使っている回線のデータ容量が足りなくなったときに買い足すためのもの。大手キャリアのメインブランドではデータ容量が無制限の料金プランが一般的になっていますが、低価格な段階制の料金プランも残されており、こちらには容量の制限があります。当のKDDIにも、以前本連載で取り上げた「スマホミニプラン」があり、4GBで上限に達します。

大手キャリアではデータ容量無制限が一般的になりつつあるが、段階制の料金プランも残されている。また、若年層向けの料金プランにも、データ容量に制限がある

 また、UQ mobileやワイモバイルといったサブブランドには小容量~中容量の制限があるのが一般的。ahamoやLINEMOといったオンライン専用プラン/ブランドにも、一定の容量上限が設けられており、これを超えると通信速度が低下します。MVNOも同様。こうした料金プランで データ容量の上限に達してしまった際にそのキャリア/MVNOで500MBなり1GBなりを買い足すのではなく、容量あたりの単価が安いpovoに切り替えて使ってもらう というのがKDDIの狙いです。

 KDDIの代表取締役社長CEOの高橋誠氏は、「あらゆるキャリアのサブ回線」としつつ「ドコモのユーザーにも、ソフトバンクのユーザーにもセットアップしていただき。速度制限の問題を解決していきたい」と語っていましたが、KDDIの念頭には他社のユーザーがあるようです。最近では、キャリアが販売するスマホの多くがeSIMかつデュアルSIMに対応していますが、ギガチャージ専用eSIMはこうした土壌の上で成り立つサービスと言えそうです。

ドコモやソフトバンクのユーザーにもセットアップしていただきたいと語るKDDIの高橋社長

 現時点での料金体系は不明ですが、povo2.0と同料金だったとしても、メインブランド/サブブランドで500MBなり1GBを追加するより割安。無制限プランを契約していないユーザーのニーズをつかめれば、商機につながる可能性はありそうです。オンライン専用ブランドだったpovoにとっては、リアルな販路が増えることにもなり、これまで気づいていなかったユーザーを振り向かせる効果も大きいでしょう。

大手キャリアでは、おおむね1GBを1100円で追加できる。画像はUQ mobile。LINEMOのように、1GBを550円に設定しているキャリアも存在するが、いずれにしてもpovoでデータ容量を追加した方が安上がりだ

無料で月1GBまでもらえる、povo Data Oasis

 もう1つ大きいのが、 「povo Data Oasis」 の存在です。これは、KDDIがローソンへの集客を図るために導入されるサービス。ローソン店舗でボタンを押すだけで、1回につき100MBをもらうことができます。料金は無料。先に挙げたギガチャージ専用eSIMと組み合わせれば、お金をかけずにデータ容量不足を解消できます。povoをメイン回線にしているユーザーが、足りないデータ容量をまかなうために利用するといった使い方もできそうです。

ローソンに来店するたびに100MBがもらえるpovo Data Oasis

 仕組みとしては、GPSによる位置情報に基づき、ローソンにいるかどうかを判定して、データ容量をチャージするためのボタンを表示するようです。位置情報には多少の誤差もあるので、厳密に言えば店舗外でもチャージができてしまいそうですが(笑)、基本的には来客者向けのサービスと位置づけられているといいます。

スマホの位置情報を用いてローソン内かどうかを判定するという

 狙いは、ローソンでの“ついで買い”。povo Data Oasisを目当てに店舗に来たユーザーが、何らかの買い物をすることで売上げをアップしていくというのがその目的です。ただし、高橋氏が「みなさん、そこでチャージしたら何か物を買わないと申し訳ないとなるのではないか。ぜひともお買い求めていただければ(笑)」と語っていたように、これは強制ではありません。あくまで来店のきっかけを与えるためのサービスで、言い換えるなら、ユーザーの善意に委ねられているということです。

 発表会では、筆者がギガ活(au PAY方式)の終了でショックを受けていたことを知るKDDI Digital Life関係者が、「ぜひこれを使ってください」と語っていました。このことからも分かるように、povo Data Oasisは、 ギガ活に代わる新たなローソンへの来店施策 と言えそうです。ギガ活のときにはau PAYで500円以上の買い物が必要でしたが、こちらはそれも不要。利用のための間口がさらに広がった格好です。

6月30日に終了したau PAY方式のギガ活。povo Data Oasisは、これに代わるサービスになりそうだ

 もっとも、1カ月間でもらえるのは10回、1GBまで。ギガ活のように、無制限で300MBが付与されるわけではありません。

 最近では、スマホ用のコンテンツもかなり大容量化が進んでいるため、メイン回線のデータ通信をまかなうには少々厳しい上限になります。やはりメインの用途は、データ容量の不足を補うためのものと捉えておけばいいでしょう。ただし、次に挙げる施策を組み合わせれば、よりヘビーな使い方もできる可能性はあります。

付与されるデータ容量は合計で1GBまで。完全にギガ活の代わりになるわけではない

店舗内限定のコラボトッピングも、ローソン利用で通信料が節約できる?

 最後が、ローソン専用のコラボトッピングです。現状でも、povoはローソンのお買物券がついたトッピングを販売していますが、このラインナップをローソン店内限定で拡大することも計画しているようです。100MB目当てにローソンに行き、povoでトッピングを購入したうえで商品に引き換えれば、よりデータ容量がもらえるというわけです。

 発表会のデモでは、ソフトクリームと100MB、からあげクンレギュラーと500MB、マチカフェのカフェラテ(M)と500MB、同じくマチカフェのアイスカフェラテ(M)と500MBがセットになったトッピングが用意されていました。仕組みとしては現行のコラボトッピングと同じで、購入すると即時、データ容量が追加され、登録していたメールアドレスにクーポンが届きます。

店舗内で購入できる商品とデータ容量をセットにしたトッピングも販売していくという

 価格帯やデータ容量はあくまで参考程度にとどめておいた方がいいのかもしれませんが、ソフトクリームトッピングは300円、からあげクントッピングは238円、カフェラテ(M)トッピングは248円、アイスカフェラテ(M)は300円に設定されていました。ソフトクリームやからあげクンはほぼ商品と同じ金額(なぜか、からあげクンは10円安いですが……)。マチカフェは、商品代金よりもやや高めの価格になっていました。

 実際、現在提供中のコラボトッピングでも、ローソンのお買物券300円ぶんと300MBがセットになった300円のトッピングのほか、ドン・キホーテで使えるmajicaギフト券とデータ使い放題3時間に1GBのデータ追加がセットになった3250円のトッピングが展開されています。前者はデータ容量が無料、後者は250円でデータ使い放題と1GBが手に入る格好です。同様に、ローソン内で展開される商品とセットになったトッピングも、無料でデータ容量が手に入るものに加え、わずかなら差額が発生するものに分かれる可能性があります。

現在提供中のコラボトッピング。ローソンは料金と同額のお買物券がもらえるため、実質的に300MBが無料。ドン・キホーテの場合はギフト券代よりやや高いが、もらえるデータ量を考えるとかなり割安だ

 商品と同額の場合、元々それを購入するつもりだったユーザーにとっては、 無料でデータ容量が手に入る ようなもの。そのほかの場合でも、通常のトッピングを購入するより割安になります。先に挙げたpovo Data Oasisとこのコラボトッピングを組み合わせれば、毎月のデータ通信を浮かせることも不可能ではありません。どのようなトッピングのラインナップになるかにもよりますが、2つを組み合わせれば、au PAY方式のギガ活に匹敵するお得度になりえます。

 ちなみに、現状のコラボトッピングは、トッピング購入後、数日経ってからクーポンが届く仕組みで、注意事項にも「ご購入当日には利用できないことを承諾して購入する」といった文言が記載されています。ここにチェックをつけなければ、トッピングは購入できません。過去に実施されていた「からあげクントッピング」では、「今すぐにからあげクンを食べたい場合でも、食べられないことを承諾して購入する」という重要説明事項が記載されていました。ただ、これだと店内で購入した商品をすぐに入手することができなくなってしまいます。

重要事項説明には、当日利用できないことが記載されている

 デモをしていたKDDI Digital Life関係者によると、この仕組みも改良され、すぐに引換券が手に入るようにしていくとのこと。重要事項説明を楽しく読める遊び心が失われてしまうのは少々残念ですが、よくよく考えれば、このユーモアで不便さがごまかされていたような感もあります。送客を考えるのであれば、むしろ即時発行は必須だったと言えるでしょう。個人的には、発券がすこぶる面倒なLoppiもついでにKDDIのDXパワーで何とかしてほしいところですが……(笑)。

店舗内トッピング購入時の画面。確かに、商品券が後日になることは記載されていない

 それはさておき、こうした取り組みはpovo3.0のコンセプトそのもの。KDDIがローソンを共同経営することになった結果、導入がしやすくなったのは間違いないでしょう。その意味で、ローソンでのサービスは、povo3.0の“お手本”的な存在と見なすこともできます。ここで成功すれば、今後、povo3.0がさまざまな店舗やサービスに広がっていく可能性が広がりそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya