石野純也の「スマホとお金」
IIJmioの“ありそうでなかった”大容量な新料金プランはどんな人にピッタリ? その可能性を探る
2024年2月22日 00:00
IIJが、個人向けMVNOサービスのIIJmioに大容量プランを追加します。受け付け開始は3月1日から。これまで、同社の「ギガプラン」は最大で20GBでしたが、この上に30GB、40GB、50GBが新たに加わります。
音声通話対応のSIMカード/eSIMの場合、料金は30GBが2700円、40GBが3300円、50GBが3900円です。3カ月間、それぞれ5GBを追加しつつ、月額料金を半額にするキャンペーンも展開されます。
元々は小容量が主戦場のMVNOでしたが、最近は、中容量帯の料金プランも増えてきました。とは言え、IIJmioの大容量プランは、それを上回るデータ容量。大手キャリアがデータ容量無制限の料金プランを売りにする中、勝算はどこにあるでしょうか。その可能性を探っていきます。
空白地帯だった30GB~50GBの大容量に攻め込むIIJ
30GB、40GB、50GBの大容量プランを追加したIIJmio。この3つが加わることで、選択できるデータ容量は2GB~50GBの全8種類になります。
IIJmioは、NTTドコモ回線とKDDI回線の2つから選択できる仕組みですが、どちらを選んでも料金は変わりません。
ただし、SMSとデータ通信に対応した「SMS」プランはやや料金が安めに設定されています。また、ドコモ回線のタイプDのみ、音声通話やSMSが使えない「データ」プランが選択可能。こちらは、SMSが使えないぶん、わずかですが料金はさらに安く設定されています。
また、同社は加入者管理機能(HSS/HLR)を自身で持ったフルMVNOとしてサービスを行っていますが、IIJmioでは、データeSIMを選択した場合、これを利用できます。
ネットワークはドコモだけですが、先に挙げたデータプランのドコモ回線より、さらに料金が安く設定されています。 30GBで2340円、40GBで2940円、50GBで3540円 となっており、音声通話不要で大容量のデータ通信をリーズナブルに済ませたいユーザーにはうってつけの料金プランと言えそうです。
この容量帯は、大手キャリアがあまり開拓しておらず、かと言ってMVMOの選択肢もほとんどないような状況でした。
分かりやすいのが、IIJも参考していた表。総務省が、「電気通信市場検証会議」に提出した分析です。これを見ると、大手キャリア、MVNOともに、20GB程度の中容量帯は提供している一方で、その上は一気に100GBや無制限になってしまっていることが分かります。
そのデータは23年6月1日時点のもので、ドコモのirumoやワイモバイルの新料金プランは反映されていないものの、ここが空白地帯になっている状況は、2024年2月の今も変わっていません。 ユーザー視点で見ると、20GBで足りなければ100GBのahamo大盛りを選ぶか、大手キャリアの無制限プランを契約するしかなかった というわけです。MVNOでは、NUROモバイルの「NEOプランW」が40GBですが、選択肢は極めて限定的と言えるでしょう。
100GBや無制限まではいらないものの、20GBでは足りない……IIJmioの大容量プランは、このようなユーザー層を狙っていることが分かります。実際、同社がユーザーアンケートを実施したところ、現在のデータ容量では足りないという人が18%ほど存在しました。ユーザーのデータ使用量は年々増えているため、当初は20GBで足りていても、現時点で十分とは限りません。IIJmioの大容量プランは、このようなユーザーをターゲットにしたものです。
大容量のカギになるデータ容量シェア、家族でまとめると料金は割安に
とは言え、MVNOでここまでの大容量を求めるニーズはあるのでしょうか。
「30GBで2700円」という金額は、povo2.0の20GBトッピングと同じ。LINEMOの20GBプランである「スマホプラン」も、2728円で提供されています。ドコモのahamoも2970円で、5分の音声通話定額までついています。
データ容量に10GBの差はあるものの、水準は大手キャリアのオンライン専用ブランド/プランに近いと言えるでしょう。
こうした大手キャリアの差別化要素として、IIJは利用イメージにデータ容量のシェアを挙げていました。どちらかと言えば、1台のスマホで大量にデータ通信をするというより、家族でデータ容量を分け合ったり、複数のデバイスでデータ通信を分散させたりといった用途を想定しているようです。
複数の回線で柔軟にデータシェアをできるのは、MVNOの強み。
かつてはドコモも「シェアプラン」推しでしたが、「ギガホ」「ギガライト」の導入に伴い、データシェアを縮小しています。今では、「5Gデータシェア」など、主回線のスマホとは別に、タブレットやパソコン、Wi-Fiルーターといったデータ通信専用端末で利用するためのオプション的な料金プランしか選択肢がありません。これは、他のキャリアも同じです。
これに対し、IIJmioのデータシェアは、音声プラン同士を組み合わせてデータ容量をシェアすることも可能。シェア可能な回線数も最大10回線と多いため、1人が複数の端末でデータ容量をシェアしつつ、家族とも分け合うといった使い方ができます。回線数が多くなればなるほど、1人ないしは1台あたりのデータ容量は少なくなりますが、そのぶん、1回線ずつ契約するより料金は安くなります。
例えば、家族4人で1人あたり10GBが必要な場合を想定してみましょう。
このような時に、1人が40GBプランを契約し、あとの3人が最低料金の2GBプランを選択したとします。料金は、40GBの3300円に加え、2GBの850円が3回線ぶんかかり、データ容量は合計で46GBになります。 4人分の料金を合算すると5850円、1人あたりの金額は約1462円で済んでしまいます 。なお、シェア自体に料金はかかりません。
仮に、1人ずつ10GBプランを契約したとすると、料金はこれよりも高くなります。
IIJmioの10GBプランは1500円。4人で契約すると6000円です。
つまり、「40GB+2GB+2GB+2GB」という組み合わせのほうがトータルだと150円程度ですが料金が安くなり、かつ合計のデータ容量は40GBから46GBと上回ります。
よりデータ容量を40GBに近づけたければ、1人が30GB、もう1人が2GB、残る2人が5GBを契約する手もあります。この場合、データ容量は42GBになり、料金は5530円かかります。1人ずつ10GBプランを契約するよりも月470円安く、データ容量も2GB多くなります。
タブレット、パソコンとのシェアでも料金が下がる、データ容量の柔軟性もアップ
また、データ容量のシェアは、1人でスマホとタブレットとパソコンの3台に回線を入れたいときにも役立ちます。スマホでは20GBプランで足りていたとき、タブレットとパソコンでそれぞれ10GBが必要になったとします。この場合、 新たに10GBプランを2回線用意するのではなく、主回線を30GBに変え、あとの2回線を5GBにすれば合計で40GB になり、1回線ずつ契約するよりも料金は下がります。
スマホは音声プラン、タブレットとパソコンはフルMVNOのeSIMを別々に契約したとすると、料金は4200円。これに対し、30GBプランと5GBプラン2回線のデータシェアを組むと、料金は4020円まで下がります。180円と、その差はわずかではありますが、個別に最適なデータ容量を契約していくよりも、安くなることは間違いありません。
単に料金が安くなるだけでなく、シェアで回線を契約していくと、柔軟性が高くなるのもメリットと言えそうです。
例えば、上記のように20GBと10GBずつを個別に契約していくと、それぞれの回線に上限が設定されてしまいます。ある月に出張が入り、パソコンを当初の想定以上に使ったため、データ使用量が12GBになってしまった場合、個別契約だと2GBを追加しなければなりません。
これに対し、シェアであれば主回線のスマホなり、タブレットなりを節約して融通することが可能になります。これは、家族であっても同じ。複数回線で“どんぶり勘定”できるのが、シェアを組むメリットと言えます。30GB以上の大容量プランは、こうした使い方にも向いています。
IIJmioの大容量プランに水準が近い大手キャリアのオンライン専用ブランド/プランには、このようなシェア機能はありません。
タブレット、パソコンなどとのデータシェアは、メインブランドや一部のサブブランド用。複数回線で安く持つという使い方は、ほとんど訴求されていません。単純な大容量プランというわけではなく、大きな器に入れた大容量を小から中容量に小分けにして使う点は、MVNOらしいところです。
もちろん、1回線だけで30GBなり50GBなりを消費することもでき、どのように使うかはユーザーに委ねられていますが、どちらかと言えば、その世界観はMVNOがこれまで訴求してきた小容量、中容量プランの延長線上にあります。スマホ単体の回線ではなく、家族全員や手持ちのデバイス全体の回線をまとめたい時に検討すべき料金プランと言えそうです。