石川温の「スマホ業界 Watch」

LINEMO新料金プランに見えるソフトバンクの「苦悩」、絶妙なバランスを読み解く

 ソフトバンクは7月下旬以降にオンライン専用ブランド「LINEMO」において、新料金プラン「LINEMOベストプラン」を開始する。

 携帯電話各社は2020年から始まった官製圧力による料金値下げによって、通信料金収入が大幅に落ち込んでいたが、ソフトバンクやKDDIはようやく回復基調に戻しつつある。

 そんななか、ソフトバンクはオンライン専用プランにおいて、一部のデータ容量に対して「最安」をアピールする一方、通信料金収入の更なる改善に向けた手を打ってきた感がある。

 今回、最上、最良を表す「ベスト」という単語を使ってきたのは、やはり楽天モバイルの「最強プラン」をかなり意識してきたようだ。ソフトバンクのコンシューマ事業推進統括、寺尾洋幸氏も「意識してないといったら、そんなはずはないと言われるだろう」と否定しない。

寺尾氏

 「LINEMOベストプラン」において注目すべきは「10GB」というデータ容量をしきい値にしてきたことだ。

 2020年にNTTドコモが「ahamo」を投入して以降、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルはこぞって「20GB」を一つの基準にしてきた。これに追随するかたちでMVNOも20GBプランを相次いで開始。各社、20GBで横並びになることで、ユーザーに比較しやすくしてもらうことで、お得感をアピールするという見せ方に終始してきたのだ。

 一方、データ容量を使わない人向けには「3GB」で1000円を切る値付けで各社とも揃えてきた感があるのだ。

 2つの選択肢があるので、ユーザーからすれば選びやすいような気もするが、一般的な感覚からすると「自分、10GB未満なんだけど、とはいえ3GBじゃ足りない。見合ったプランが見つからない」という人が圧倒的に多い気がする。

 実際、自分の家族もコロナ禍が明け、リモートワークが一気に減ると「3GBでは足りないが20GBでは多すぎる」といったデータ容量に落ち着いている。

 実際、MM総研の調べによればスマホユーザーの4人に3人が月10GB以下に収まっているという。

 ソフトバンクの会見で「10GB」という値が出てきた瞬間に「ユーザーの気持ちを良くわかっている」と膝を打ってしまった。

 確かに、NTTドコモのirumoでも9GBという設定があるのだが、もともとは3377円で光セット割やdカードお支払い割を組み合わせて2090円になる仕組みだ。

 その点、LINEMOベストプランは何もしないで10GBまで使えて2090円となっている。寺尾が「単身者ユーザーのためのプラン」と言い切るように、家族やカード割引を適用せずに、この値段になるのはとてもわかりやすく、親切だ。

 もちろん、3GBまでなら990円に収まるということで、他社プランと比べても見劣りはしない。ただ、一方で、20GBを超えるような使い方をするのであれば、「LINEMOベストプランV」ということで、30GBまでなら3960円、それを超えると速度制限がかかるなど、大容量ユーザーには不向きだ。そんな大容量ユーザーに向けてはソフトバンクの「ペイトク無制限」を用意する。

 このあたりは「ソフトバンク」と「ワイモバイル」、さらには「LINEMO」という3つのブランドを抱えるソフトバンクの「苦悩」が現れている。

 LINEMOベストプランは当然のことながら、データ容量をあまり使わない、しかもオンライン専用ブランドということで、ネットに強いユーザーを狙っている。実際、eSIMによる契約が4割を超えるなど、ネットで選び、契約し、eSIMをインストールして使うというユーザーに支持されている。

 一方、ワイモバイルに関しては「月々の支払いは安くしたいけど、良くわからないから店舗で対応して欲しい人」向けであり、ソフトバンクは「データ通信をガンガン使いたい。ペイトクで得をしたい」というブランドとなっている。

 特に端末購入補助プログラムである「新トクするサポート」によって「新しいスマホを手軽に手に入れたいから、ワイモバイルからソフトバンクにアップグレード」という人も増えているようだ。

 3つのブランドを抱え、すべてのユーザーが安価なプランに移動してしまっては、収益が悪化してしまう。その点、ソフトバンクにおいては、ワイモバイルやLINEMOに流れるユーザーがいる一方、その逆、ワイモバイルやLINEMOからソフトバンクへ「新しいスマホを手軽に買いたい」「データをいっぱい使いたい」というユーザーがキチンと流れてきてるようだ。

LINEユーザーに向けた施策を期待したい

 ただ、LINEMO、かつてのLINEモバイルが登場した背景を振り返ると、そもそもは「LINEを使うユーザーのためのプラン」だったように思う。

 今回のLINEMOベストプランでは、以前のプランにはあった「LINEスタンプ プレミアム for LINEMO」が無くなってしまっている。通常は480円かかるLINEスタンプ プレミアムを含んでいたということでお得感のあるLINEユーザー向けのプランという立て付けができていたが、これがなくなってしまった。

 LINEスタンプ プレミアムに関しては「LYPプレミアム」の特典になっているということで、ソフトバンクとしてはLYPプレミアム推しになっているのだろう。

 ただ、LINEMOベストプランに関しても、「LYPプレミアムをLINEMOの中にも導入していくことを検討している。その中でちょっと整理をしたいということで、今回外した」(寺尾氏)とのことだ。

 2021年にahamo対抗でLINEMOが誕生したという経緯もあり、LINEユーザーのためのブランドというより「他社に対抗するためのオンライン専用ブランド」という意味合いが強くなってしまった。

 もっと、LINEユーザーに向けた施策を期待したいところだが、寺尾氏は「大変難しい宿題。ソフトバンクやワイモバイルでは『LYPプレミアム』でLINEとヤフーの新しいプログラムを無料でバンドルしていたりする。そのへんとの全体のバランスを取りながらやっているというのが正直なところ。

 LINEもいろんなご時世もあって苦労している。何か考えていきたいところですが、今のところこんな状況」だと寺尾氏は本音を語る。

寺尾氏

 LINEMOにとっては、総務省から睨まれているLINEや、そのためアクセルを踏めずにいるLYPプレミアムとどのような関係性を構築していくか、かなり悩ましい状況にあるようだ。

 もうひとつ、3つのブランドを展開する上でソフトバンクが苦慮しているのが「持続可能性」だ。

 楽天モバイルがかなり無理をした安価な使い放題プランでユーザーを集めているが、寺尾氏は「ただ安くすれば良いというものではない」と語る。

 寺尾氏は「通信は長い年月をかけて世代を上げていかないといけない。3Gから4G、5G、そして、6Gの時代が目の前に来ている。こういう継続的な投資をできる環境をつくっていくのが大きなテーマといえる。我々が儲ける儲けない以前に、日本の文化や経済が発展する上で、通信が遅れてしまったら、何も進まなくなる」と語る。

 LINEMOとワイモバイルでは5GではNSAのみだが、ソフトバンクではSAに対応する。将来的にはSAに付加価値サービスをつけることで、ソフトバンクブランドの収益性を高め、次の世代に向けた投資につなげたいようだ。

 他社との競争、LINEとの関係、ソフトバンク経済圏の拡大、さらには将来に向けた投資。ソフトバンクにとって3つのブランドによる料金プランはさまざまな要因が複雑に絡み合い、絶妙なバランスで開発されているようだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。