法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「ahamo大盛り」はユーザーのお腹をいっぱいにできるか?

 NTTドコモは3月23日、「新たなサービスに関する記者会見」を開催し、オンライン専用プラン「ahamo」の追加オプションとして、「大盛りオプション」を発表した。

 シンプルなプランとして、2021年3月26日に提供を開始した「ahamo」はまもなく1年を迎える。「ahamo大盛り」の内容をチェックしながら、そのポテンシャルについて、考えてみよう。

提供開始から約1年

 2020年に総務省と官邸によって打ち出された「携帯電話料金値下げ」の方針を受け、2020年12月にNTTドコモが発表した中容量プラン「ahamo」。

 既存の「5Gギガホ プレミア」や「ギガライト」などと違い、オンライン専用プランとして企画され、月額2970円で最大20GBまでデータ通信を利用でき、国内の音声通話が5分まで無料、国際ローミング利用時の追加オプションなし(データ通信量は国内分から計算)など、若い世代が必要とする機能をシンプルにまとめたワンプランとして、2021年3月26日に提供を開始した。

 提供開始当初は、対応なども含め、やや急造の印象は否めなかったが、着実に契約数を伸ばし、2021年5月に100万契約、2021年8月に200万契約、そして今月、2022年3月中には300万契約を達成できそうだという。

 サービスの仕様や位置付けが異なるため、一概に比較はできないが、同じオンライン専用プランではpovoが百数十万、LINEMOが100万超であり、新規参入で動きが活発な楽天モバイルがMNOのみで400万台半ばであることを考慮すると、ahamoが1年で300万契約を達成したことは、トップシェアのNTTドコモの面目をしっかりと保った数字と言えるだろう。

 オンライン専用プランということで懸念されたサポート体制については、2021年4月にドコモショップでの有償サポートをスタートさせる一方、チャット対応は2022年2月現在、1分以内での接続率が90%を超え、チャットボットでの24時間対応など、オンラインでもユーザーの期待に応えられる体制を整えつつある。

データ通信量増に応える「ahamo大盛り」

 NTTドコモは提供開始から約1年を迎える「ahamo」向けに、ahamoの提供開始以来、はじめて追加されるオプションとして、「大盛りオプション」を発表した。

 内容としてはデータ通信量80GBを1980円で追加できるというもので、基本プランに含まれる20GB分を合わせて、100GBのデータ通信量を月額4950円で提供できることになる。ただし、基本プランの仕様に含まれる国際ローミング利用時のデータ通信量は20GBまでとなっており、「ahamo大盛り」はあくまでも国内利用分の追加オプションという扱いになる。

 提供開始は6月1日からで、3月23日から先行エントリーキャンペーンが実施され、dポイントが2000ポイント、プレゼントされる。

 こうした追加オプションが提供されることになった背景には、2020年以降、テレワークやリモートワークが増え、全体的にデータ通信量が増えたことが挙げられる。NTTドコモによれば、なかでも20代と30代の伸びが顕著だとしている。これらの世代は1人暮らしが多く、自宅に光回線などの高速インターネット回線を敷設していないため、テレワークもスマートフォンのテザリングを利用していたり、Wi-Fiがあっても十分な速度が得られないため、動画を見るときなどはスマートフォンで視聴する方が快適であるという意見もあったという。

 ちなみに、ahamoではこれまでもデータ通信量を使い切ったときのために、 1GBあたり550円で追加できるオプションを提供していたが、これを4回以上、追加するのであれば、「大盛りオプション」を追加した方が割安になる 計算だ。もっとも80GBも追加されるのであれば、タイミングによっては最初から大盛りオプションを追加して、ストレスなく使った方がいいかもしれない。

 また、80GBを追加した合計100GBのデータ通信量で、どんなことができるかという点については、Web会議の1時間あたりのデータ通信量が約430MBなので、約240時間分も利用できることになる。月に20日間、Web会議によるテレワークをしたとしても1日あたり8時間でも余裕が出る計算になるという。もっともそんなに長時間、Web会議をすることはあり得ない(したくない?)が、本当に勤務時間中はWeb会議につなぎっぱなしでも問題ないレベルでのデータ通信量ということになる。

 さらに、動画については、1話あたり24分のアニメをフルHD画質(1話あたり840MB)で121話分、視聴できるそうだ。おそらく2時間違い映画なども数十本は視聴できそうだ。

他の料金プランとの兼ね合い

 基本プランと合わせ、100GBという大容量のデータ通信が利用できる「ahamo大盛りオプション」だが、月々の支払いは合計4950円になるため、他の料金プランとの差が気になるところだ。

 NTTドコモが提供する料金プランとしては、「5Gギガホプ レミア」がデータ通信量無制限で月額7315円、「5Gギガライト」は1GBまでが月額3465円、3GBまでが月額4565円、5GBまでが月額5665円、7GBまでが月額6765円という4段階構成になっている。ちなみに、4G対応の「ギガホ プレミア」はデータ通信量が60GBまでで「5Gギガホ プレミア」の110円安、「ギガライト」は「5Gギガライト」と同額となっている。

 サービス内容が異なるため、これも単純には比較できないが、「5Gギガホ プレミア」と比較しても差額は2000円以上で、かなりおトクな印象だ。ただ、「5Gギガホ プレミア」などの「ギガプラン」は、家族が3回線以上の「みんなドコモ割」、ドコモ光とのセットで割り引く「ドコモ光セット割」、dカードでの支払いで割り引く「dカードお支払い割」があり、これらがフルに適用されると、差額はほとんど埋まってしまう。

 とは言うものの、「ahamo」には5分以内国内通話無料や国際ローミングの追加料金無料などのアドバンテージがある。ギガプランでは通話オプションに加入しない限り、通話料は完全従量制となるため、データ通信をそれなりにたくさん使い、音声通話も使い、アフターコロナで出かけられるようになれば、海外旅行にも出かけたいというユーザーには、魅力的なプランに仕上がっていると言えそうだ。

提供開始から1年待って、ようやくお腹が満たされた?

 2021年3月26日に提供を開始した「ahamo」が1年という節目に発表した「ahamo大盛り」だが、これでユーザーのお腹は満たされるのだろうか。

 確かに、追加オプションとしては、1GBあたりの単価で考えても割安で、非常に実利のある料金プランに仕上がっている。おそらく、メインの通信回線として、ahamoを使っているユーザーには、「待ってました!!」と言いたくなる人も少なくないだろう。

 しかし、この1年間の業界の流れなどを考えてみると、些か物足りなさが残るプランという印象もある。こういう比喩が適切かどうかはわからないが、定食として用意されている基本プランに対し、「ご飯だけは大盛りのお代わりを用意しました」と言われたような印象で、「ん? おかずは同じ?」「追加の小鉢とかないの?」「大盛りじゃなくて、小盛りは?」「使い放題で特盛じゃないの?」など、いろんな反響が聞こえてきそうな内容に見えてしまう。

 オンライン専用プラン中心で比較してみると、昨年、各社が20GBで月が3000円弱のプランを打ち出して以降、LINEMOはLINEモバイルからの移行を促すために、月額990円で3GBのミニプランを追加し、povoもpovo2.0のリリース時にギガ活などの新しい料金プランの方向性を打ち出している。

 MVNO各社も月額500円クラスの格安プランを拡充する一方、mineoの「マイそく」のように、MVNOが抱える制約をうまく活かした料金プランを打ち出すなど、各社ともさまざまな工夫を凝らしてきている。

 これに対し、ahamoはプラン提供開始からほぼ1年間の沈黙後、出してきたものが「+80GB」の「大盛りオプション」のみというのは、あまりにも工夫が感じられない。実は、今回の説明会は前日に開催が告知され、関係者の間では「何をやるんだろう?」「povoみたいにトッピング?」「コンテンツと何かバンドル?」など、いろいろな憶測が飛び交ったのだが、フタを開けてみれば、もう王道中の王道とも言えるデータ通信量のプランのみで、かなり肩すかしを食らった印象だ。説明会のタイトルは「新しいサービスに関する記者会見」だったが、実質的にはただの「追加オプションの説明会」でしかなく、かなり物足りない印象だった。

 ただ、NTTドコモを取り巻く環境を考えると、現状ではこうした追加オプションしか出せなかったか、という見方もある。

 というのも、「20GBで月額2970円」という基本仕様よりも割安の“月額1000円程度のプラン”を追加することは、当初の「ワンプランでシンプルに」というコンセプトを揺るがすことになるし、月額500円クラスで利用できる「ドコモのエコノミーMVNO」と競合する。NTTドコモとしてはもうひとつの顧客であるMVNO各社のサービスにも影響を与えるため、安い方向のプランは打ち出しにくいわけだ。そうなると、大容量のプランを追加する流れになるが、追加オプションという形をとったのはやはり、「ワンプランでシンプルに」というコンセプトをキープしたかったという判断なのかもしれない。

 もちろん、この1年間で「ahamo」が300万契約を得ていることで、NTTドコモとしては「現状のプランの方向性は間違っていない」と考えているだろう。決算会見などでもMNPでの転出が抑えられていることが明らかになっており、「ahamo」の存在によって、NTTドコモの経営は安定する方向に向かっているということだろう。

 しかし、モバイル業界のビジネスが携帯電話サービスだけでなく、ショッピングや金融、エンターテインメントなど、さまざまな方向に進化し、多様で複合的な収益構造を目指していることを鑑みると、こうした転出を防ぐことを主眼に据えた方向性でいいのかどうかはかなり疑問が残る。ライバル各社の工夫に負けないように、NTTドコモには料金とデータ通信量だけでなく、もっと見応え、いや食べ応えのある「ahamo」の進化を期待したい。