石野純也の「スマホとお金」

「楽天ペイ」がポイント付与率変更、「楽天キャッシュ」優遇の新制度を解説

 楽天ペイメントが運営する「楽天ペイ」のポイント付与率が、6月4日に変更になりました。新たな仕組みで優遇されるのが、現金や銀行口座などからチャージできる「楽天キャッシュ」です。その還元率は1.5%と、競合のコード決済サービスと比べても高い数値を誇ります。

 一方で、楽天カードから楽天キャッシュにチャージした際の0.5%還元はなくなり、上記のように、楽天キャッシュで支払った際の1.5%還元に集約されました。トータルでは1.5%還元に変わりはありませんが、他のチャージ方法が優遇されるようになった結果、相対的に楽天カードの重要性が下がったとも言えそうです。ここでは、その変更点を解説していきます。

楽天ペイのポイント還元率が変更になり、楽天キャッシュに重きが置かれるようになった

楽天キャッシュで支払うだけで還元率が1.5%に

 これまでの楽天ペイは、どちらかと言えば楽天カードを優遇していた節があります。還元率に関しては、特にその傾向が顕著でした。楽天ペイの残高に相当する楽天キャッシュに楽天カードでチャージすると0.5%、さらにそのチャージした楽天キャッシュで支払うと1%といった形で楽天ポイントがつき、トータルでは1.5%のポイント還元を受けられていました。

 一方で、楽天カード以外の方法でチャージした楽天キャッシュで支払った際のポイント還元率は、1%にとどまっていました。楽天カードを使ってチャージするのが、もっとも楽天ポイントを“稼げる”方法だったというわけです。1%でも、0.5%還元が基本となる他の「○○Pay」よりは高額還元と言えますが、ポイント獲得の最大化を目指すのであれば、楽天カードは必須だったと言えるでしょう。

 6月4日に、このポイント付与の仕組みが変更になりました。新しい仕組みはよりシンプルで、楽天キャッシュでの支払いがすべて1.5%になるというもの。銀行口座からチャージしてもいいですし、コンビニでPOSAカードを購入してチャージしてもOK。もちろん、楽天カードでチャージした楽天キャッシュを使っても1.5%還元を受けられます。

6月4日から、最大1.5%還元を受けるための条件が大幅に緩和され、楽天カードを利用する必要がなくなった。画像は発表時のもの

 より具体的に言うと、楽天キャッシュで支払った楽天ペイの還元率は1%で変わっていません。6月4日に追加されたのは、楽天キャッシュの利用による0.5%還元。統合されてはいますが、それぞれは別のサービスのため、ポイントは1%と0.5%に分けて付与されます。また、楽天ペイ利用分の1%は翌日、楽天キャッシュ利用分の0.5%は翌月といった形で、付与されるタイミングにも違いがあります。

 なお、簡易的に1%、0.5%と表記していますが、厳密には前者が100円につき1ポイント、後者が200円につき1ポイントとなり、ポイント付与のための最少額が異なっています。例えば300円決済した場合、楽天ペイの使用分としては3ポイントつく一方で、楽天キャッシュ利用分としては1ポイントしかつかず、0.5%には達しません。ポイントを効率よく貯めたいときには、付与の条件になる最少額も確認しておくといいでしょう。

細かい条件を見ると、楽天ペイ利用分として100円につき1ポイント、楽天キャッシュ利用分として200円につき1ポイントがつく仕組みで、ポイントが付与されるタイミングも異なる

金融機関連携を強化してきた楽天ペイ、すそ野を広げる効果も

 これまでは楽天カードホルダーに限定されていた1.5%還元の条件が緩和され、楽天キャッシュで支払うだけで済むようになったことで、楽天ペイのすそ野は広がりそうです。クレジットカードでのチャージだと後払いになってしまうため、少額決済はプリペイドで済ませたいというユーザーを取り込みづらいからです。銀行口座からのチャージであれば、プリペイドに近い感覚で使うことができ、より現金感覚に近いと言えるでしょう。

 その意味では、相対的に楽天ペイにおける楽天カードの重要性が下がったと見ることもできそうです。逆に言えば、銀行口座などからのチャージのメリットが増したと捉えることも可能。こうした変更を導入するため、楽天ペイメントでは、楽天キャッシュにチャージ可能な銀行の数を24年に入って一気に増やしています。

 例えば、2月26日には、みずほ銀行や三菱UFJ銀行、三井住友銀行といった都市銀行を含む全国261の金融機関の口座から、楽天キャッシュへのチャージが可能になることが発表されています。それまでのチャージ方法は楽天カードや楽天銀行に限られていたため、楽天キャッシュの利用は限定的でした。この対応によって、楽天キャッシュの利便性が大きく向上した格好です。

楽天ペイメントは、楽天キャッシュにチャージする方法を大幅に拡充してきた。2月には、261の金融機関の対応が発表された

 直近では、6月3日に楽天キャッシュへのチャージが可能な金融機関を60以上追加したことを発表しています。先に挙げた都市銀行はもちろん、地方銀行や信用金庫まで加わっており、ラインナップの幅を広げています。筆者が愛用しているauじぶん銀行やソニー銀行などがないほか、PayPay銀行やGMOあおぞらネット銀行がないなど、ネット銀行が手薄な印象はあるものの、対応金融機関が増え、その使い勝手が増したのは間違いありません。

6月3日は、さらに60以上の金融機関を追加。トータルでは、330を超えるという

 どちらかと言えば楽天カードや楽天銀行のユーザーを中心にしていた楽天ペイですが、銀行や信用金庫からのチャージを広げ、楽天経済圏にどっぷり浸かっていないユーザーの取り込みにも本腰を入れ始めたことがうかがえます。逆にここを入口にしつつ、楽天カードや楽天銀行に誘導していった方がいいという判断かもしれません。実際、同社は楽天ペイを金融サービスのポータル的なアプリにしていくことを表明しています。

楽天ペイメントは、楽天ペイをフィンテックサービスの入口にしていく戦略を掲げている

他社比較でもお得な1.5%還元、楽天モバイルユーザーにもメリットが

 ユーザー目線で言えば、1.5%という還元率はかなり魅力的です。先に挙げたように、「○○Pay」の還元率は0.5%が基本だからです。例えば、ドコモのd払いの残高払いは通常0.5%還元。au PAYも同様で、auじぶん銀行などからチャージした残高で支払うと、0.5%還元しか受けられません。

 PayPayは少々特殊ですが、基本は0.5%還元。30回、10万円というPayPayステップを前月に達成していた場合に限り、還元率は1%まで上がります。ただ、それでも楽天ペイの1.5%には及びません。PayPayステップを達成した場合、PayPayカードで支払うと1.5%、PayPayゴールドカードで支払うと2%まで還元率は上がるものの、楽天ペイよりハードルは高めです。

PayPayはPayPayステップを満たし、PayPayゴールドカードで支払うと2%還元になり、楽天ペイよりもお得だが、そのハードルはやや高めと言える

 この還元率の高さは、楽天ペイにとっての武器になるかもしれません。各種調査ではユーザーからの満足度が高い楽天ペイですが、決済額や決済頻度などは非公表。利用率では、PayPayに大きく水をあけられています。調査会社MMD研究所が4月に発表したデータでも、「メインで利用しているQRコード決済」のトップはPayPayの46.3%。楽天ペイも2位にはつけているものの、その割合は19.4%とダブルスコア以上の差がついています。

MMD研究所が4月に発表した調査結果。メインで利用しているコード決済サービスの割合はPayPayがダントツで高い

 また、19.4%という数値はd払いやau PAYとも大きな差はなく、どんぐりの背比べをしているような状況。決済や金融サービスに強い楽天グループとしては、やや振るわない結果になっていると言えそうです。楽天キャッシュの間口を広げつつ、還元率を高めることで、こうした状況をどこまで改善できるのかには注目しておきたいところです。

 なお、楽天ペイのポイント還元変更に伴い、楽天ペイメントでは最大20%還元のキャンペーンも実施しています。期間は7月1日の9時59分まで。また、楽天モバイルを新規で契約したユーザーが楽天ペイで決済した際のポイント還元率を3カ月間、3.5%上乗せする(上限は各月500ポイント)キャンペーンも実施しています。こちらは毎月開催がうたわれており、キャンペーンながら、今後も続いていく定常的な取り組みになりそうです。

楽天モバイルと連携したキャンペーンも実施している。仕組みとしては、他社のポイ活プランに近い

 通信の料金プランと決済サービスの還元率を連動させる仕組みは、他社のポイ活プランに近い印象もあります。他社の場合、料金そのものが上がったり、オプション料金が発生したりしますが、このキャンペーンにはユーザー負担がありません。一方で、3カ月限定なのがネック。他社のように、追加の料金を支払ってポイント還元率を上げる取り組みがあってもいいのかもしれません。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya