石野純也の「スマホとお金」

「Pixel 8a」のコスパを徹底検証、「Pixel 8」との違いや円安の影響は?

 グーグルの純正スマホであるPixelの中で、特にそのコストパフォーマンスの高さが評価されているのが“a”シリーズです。23年に発売された「Pixel 7a」では、久々にドコモの取り扱いが復活。販路を拡大したことも相まって、日本のスマホ市場ではグーグルのシェアが急上昇しました。その後継機にあたる「Pixel 8a」が、5月14日に発売されました。

 持ち前のコストパフォーマンスの高さは健在で、上位モデルの「Pixel 8」と比べても処理能力などはそん色ないレベルを実現。カメラはハードウェア的にやや性能が劣る部分はあるものの、それをAIでカバーしている点も従来のaシリーズと同じです。一方で、円安も相まって、その価格は例年に比べて上がってしまっているのも事実です。では、Pixel 8aはどこまでお得なのでしょうか。その価格を検証しました。

5月14日に発売されたPixel 8a。廉価モデルとして、そのコスパの高さは健在だ

上手にコストダウンを図りつつ、価格の安さを打ち出す

 廉価モデルに位置づけられるPixel 8aですが、そのパフォーマンスの高さは健在です。チップセットには、上位モデルのPixel 8などと同じ「Tensor G3」を搭載。ミッドレンジモデルとは思えないほどのサクサクな操作感で、オンデバイスAIを駆使した機能にもきちんと対応しています。

 例えば、Pixelシリーズで定評のあるボイスレコーダーの文字起こし機能はその1つ。また、Googleフォトは生成AIを活用した「編集マジック」や、動画の中から特定の音声を消去できる「音声消しゴムマジック」にも対応しています。「Pixel 8 Pro」に採用された「ビデオ夜景モード」など、一部には非対応ながらも、機能的にはハイエンド相当と言えそうです。

Googleフォトの編集マジックを制限なく利用できる
上位モデルと同様、音声消しゴムマジックにも対応する

 フラッグシップモデルの機能はそのままに価格を引き下げたというコンセプトは、従来のaシリーズとほぼ同じ。Pixel 8aも、グーグル直販価格は7万2600円で、11万2900円のPixel 8や、15万9900円のPixel 8 Proよりも安く設定されています。上位モデルに近い性能を備えつつも、価格が1ケタ違うというインパクトは大きく、発売直後から、各種販売ランキングでも上位に入っています。その意味では、aシリーズの実力は健在と言えるでしょう。

グーグル直販価格は7万2600円。Pixel 8より3万円近く安い

 無論、まったくそのままで価格を下げられるわけではなく、上位モデルのPixel 8と比べるとコストダウンを図った跡も見え隠れします。ぱっと見で分かりやすいのは、ディスプレイでしょう。Pixel 8aも60Hzから最大120Hzに可変する「スムーズディスプレイ」を搭載しており、Pixel 8と映像の見え方に大きな差はありませんが、ベゼルは太め。そのため、画面のサイズが0.1インチ小さいにも関わらず、横幅は72.7mmと、Pixel 8よりもボディが大きくなっています。

ディスプレイのベゼルは、Pixel 8と比べると太め。結果として、端末の横幅も増している

 細かな点では、Pixel 8のガラスが「Gorilla Glass Victus」なのに対し、Pixel 8aは「Gorilla Glass 3」で強度がやや劣ります。また、ワイヤレス充電は、周辺機器を充電できる「バッテリーシェア」に非対応。カメラはレーザー検出オートフォーカスに非対応で、ピクセル幅も0.8μmとなっており、ハードウェアスペックに関してはPixel 8より抑えめになっている部分がいくつか存在します。超広角カメラがオートフォーカスに非対応な点も、Pixel 8との違いです。

周辺機器を充電する機能にも非対応。画像はPixel 8のもの

 ディスプレイのベゼルや、それに伴うベゼルはどうしても目立ってきますが、カメラに関しては先に述べたように、AIの力で差分をかなり埋めている印象。周辺機器の充電なども、使わない人にとっては大きな差にはなりづらいかもしれません。aシリーズのPixelが評価されているのはそのためです。利益率を抑えるなどして、価格を引き下げている可能性もありますが、それと同時に、うまくコストダウンを図った端末と言えるでしょう。

あえて円高気味に設定した日本での販売価格、キャリア版は?

 一方で、Pixel 7aが登場したころと比べると円安がさらに進み、それがPixel 8aの価格にも反映されたことでおトク感は過去のaシリーズより薄れているのも事実です。Pixel 8aの米国での価格は499ドル(米国では州によって税率が異なるため、税抜き表記が一般的です)で、Pixel 7aから価格は据え置かれているため、値上げに関しては円安ドル高が主要因と考えられます。米国に本拠地を構えるだけに、為替レートの影響は避けては通れないことがうかがえます。

米国での価格は499ドルでPixel 7aから据え置きに。日本で値上げされたのは、円安の影響だ

 ただし、そのレートは1ドル=132.3円程度。1ドル=156.7円程度(5月28日14時時点)の為替レートに比べ、20円以上、円高方向に設定されています。これは、価格が極端に上がってしまうのを防ぐためでしょう。値上がりしたとはいえ、何とか7万円台前半に収めるために“グーグルレート”を採用したことがうかがえます。この点は、グーグルのがんばりと評価していいところかもしれません。

 なお、Pixel 8は11万2900円に対し、米国での価格は699ドル。Pixel 8 Proは15万9900円に対し、米国での価格は999ドルです。前者は1ドルあたり146.8円、後者は145.5円程度に設定されています。上位モデルと比較しても、Pixel 8aの為替レートは円高気味になっており、グーグルが意図的にこのモデルを安価に設定していることが分かります。こうした為替レートの設定からも、グーグルがaシリーズのPixelを日本における主力と考えていることがうかがえます。

699ドルのPixel 8は、日本で11万2900円。こちらの方が実レートに近い

 7万円台前半でいわゆるハイエンドモデルが手に入るのは、非常にまれ。シャオミがオンラインに販路を絞って展開する「POCO F6 Pro」は6万9980円から、Nothing Technologyが手がけたハイエンドモデルの「Nothing Phone(2)」が7万9800円からと、同価格帯の端末がないわけではありませんが、選択の幅は非常に限られてきます。また、ここで挙げた2機種とも、おサイフケータイには非対応。日本向けのローカライズがされた端末で7万2800円は依然として安いと評価できます。

 また、Pixel 8aはキャリアでもリーズナブルに販売されています。本体価格はキャリアごとに異なりますが、ドコモは8万4480円、auは8万円ちょうど、ソフトバンクは7万7760円と設定しており、いずれもグーグル直販価格よりは高めです。ただし、契約に伴う割引や、2年程度で端末を返却して負担を抑えるアップグレードプログラムの利用で、実質価格は抑えられています。

本体価格はグーグルよりやや割高ながら、約2年で端末を返却すると実質価格を抑えられる。画像はドコモ

 例えば、ドコモの場合、24回目の分割支払金が4万4616円に設定されており、端末を下取りに出すとこれが免除されます。残った23回分の支払額は3万9864円です。さらに、MNPでドコモに移ると、Pixel 8aには3万2450円の割引がつきます。これを加味すると、実質価格は2年で7414円まで下がります。約2年限定とはいえ、ハイエンドモデルが1万円を切っているのは破格と言っていいでしょう。

最大のライバルはPixel 8? 上位モデルの値下げで縮まる価格差

 ただ、こうしたキャリアの販売施策まで加味すると、Pixel 8aのお得感が若干薄れてきてしまう側面もあります。同じように上位モデルのPixel 8にも割引が積まれ、実質価格が引き下げられているからです。先に挙げたドコモの場合、Pixel 8は残価が7万2072円に設定されており、実質価格は4万7828円まで下がります。この時点でPixel 8aとの価格差は、7964円まで縮まります。

端末の下取りを加味すると、Pixel 8との価格差が縮まる

 また、Pixel 8はMNPで契約すると2万2000円の割引を受けることが可能。これを加味した時の実質価格は、2万5828円です。1万円を下回っているPixel 8aよりは高めではありますが、1万8414円の差であれば、より機能の高いPixel 8を選ぶ人が増えても不思議ではありません。auでも、実質価格の差は1万1000円しかありません。

 ドコモやKDDIの場合、実質価格や割引のつけ方でまだ差がついていますが、2機種にまったく差がないキャリアもあります。ソフトバンクは、Pixel 8を「新トクするサポート(スタンダード)」で購入した際の実質価格を2万2008円に設定しています。一方のPixel 8aも、実質価格は2万2008円。Pixel 8を買おうが、Pixel 8aを買おうが、2年後に下取りに出してしまえば価格に違いはないというわけです。

ソフトバンクのPixel 8。実質価格は2万2008円に抑えられている
こちらはPixel 8aの価格。毎月の支払額はまったく同じで、2機種に差がない

 先に挙げたように、Pixel 8aのコストパフォーマンスは評価している筆者ですが、上位モデルであるPixel 8と価格差がないとなれば話は別。同じ実質2万2008円であれば、間違いなくPixel 8を選びます。Pixel 8aのサラッとした背面処理は好きなのですが……。背景には、3キャリアで販売されたPixel 8の値下げ競争が激化したことがあります。

 ご存じのように、Pixel 8発売後に電気通信事業法の施行規則が改正され、割引の上限が最大4万4000円に上がるとともに、単体割引もこの制限の中に含まれるようになりました。これに伴い、各社とも売れ筋だったPixel 8の本体価格を引き下げたり、下取り額をアップしたりといった対策を打っています。結果として、Pixel 8の割引競争が激化。Pixel 8aが登場したからと言って値上げするわけにもいかず、低価格での販売が常態化しています。

 その意味では、Pixel 8aの最大のライバルがPixel 8になってしまっていると言えるでしょう。せっかくの廉価モデルも、価格差がなければ意味がありません。ドコモオンラインショップのようにPixel 8の在庫が切れているところもあるため一概には言えませんが、この価格設定が続くと、Pixel 8aは意外と苦戦を強いられてしまう可能性もありそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya