石川温の「スマホ業界 Watch」

「楽天ペイ」「楽天ポイントカード」など金融サービスアプリ統合が握る、楽天グループの命運

 楽天ペイメントは4月18日、スマートフォン決済アプリ「楽天ペイ」に楽天ポイントや楽天Edyを統合していくことを発表した。分散している金融サービスアプリを統合し、使い勝手を上げ、ユーザーを楽天経済圏に囲い込む戦略だ。

 そもそも、QRコードを使った楽天ペイは他社よりも早い2016年に開始。しかし、楽天グループとしてはこれまで、国内で3000万を超える発行枚数を楽天カードに注力していた感があった。しかし、2023年夏からは「楽天ペイの知名度が低い」ということでプロモーションを強化。国内6000万を超えるユーザー数のPayPayに追いつこうと躍起になり始めた。

 今回、2024年中に「楽天ペイアプリ」に「楽天ポイントカード」、2025年にも電子マネー「楽天Edy」を統合。将来的には楽天銀行や楽天カードなどの明細情報の確認機能なども盛り込んでいく計画だ。小林重信社長は「フィンテックサービスとの連携を加速し、AIを使った次世代アプリにしていきたい」と抱負を語る。

他社の決済サービスの動向

 確かに楽天グループは銀行や証券、カード、スマホ決済や電子マネーなど金融経済圏で既存3キャリアに比べて大きくリードしていたため、それぞれのアプリが独立し、使い勝手が悪かったという点は否めない。

 一方で、ソフトバンクは「PayPay」というスマホ決済アプリに全振りし、国内シェアを不動のものしてからというもの、PayPayカードや証券、銀行などの連携を強化することで、総合金融アプリとして進化しつつある。

 また、KDDIも、そもそもガラケーのころから、三菱東京UFJ銀行とタッグを組み「auじぶん銀行」を開始。その後、auカブコム証券やau損害保険などを傘下に収めたauフィナンシャルホールディングスを作ったことで、au Payアプリでの金融連携は比較的、速かった印象だ。

 その点、NTTドコモは、銀行や証券などを自分たちで持っておらず、「dカード」「d払い」という決済中心のサービス展開しかできていなかった。昨年ぐらいから、ようやくマネックス証券やオリックス・クレジットと資本業務提携を行うことで、ようやく他社に追いつく下地が整った段階に過ぎない。

 楽天ペイメントとしては、「楽天ポイント」と「楽天ペイ」をひとつのアプリに統合し、「楽天経済圏と楽天モバイルの支払いで貯まったポイントを楽天ペイを使って街中で決済する」という流れを作ることで、顧客満足度を上げ、楽天モバイルなど楽天各サービスの顧客流出を阻止したいのだろう。

局面に差し掛かるソフトバンクと楽天グループ

 確かに「金融サービス統合アプリ」という点においては、PayPayが圧倒的にリードしているが「盤石な立場」かと言えば決してそんなことはない。PayPayは本来、LINEヤフーの傘下であり、現在、LINEとヤフー、さらにはPayPayでIDを統合していく計画が進んでいる。LINEとヤフーの統合は2023年10月に始まったが、PayPayとのID統合は2024年度中とされていた。

 しかし、ここに暗雲が立ちこめつつある。

 総務省がLINEヤフーに対して、2度目の行政処分を4月16日に行った。LINEは出資元である韓国NAVARに開発体制を依存しているが、これにより、サイバーセキュリティ対策が疎かになっているとして総務省はソフトバンクに対して「資本分離」を求める厳しい行政指導が出ているのだ。

 実際、4月1日に提出された報告書では「LINEとNAVERとのネットワーク完全分離は2年以上先になる」という報告があったため、総務省が激怒したとされている。LINEとNAVARとのネットワークが技術的に完全に切り離される、あるいは資本関係が見直され、NAVARからの影響をLINEが受けないという体制を構築しないことには、総務省が納得しないので、今後、PayPayとLINE、さらにはヤフーとのID統合は難しいのではないか。それには技術的には2年かかるとされているし、資本分離に関しては全く目処が立っていない。

 ソフトバンクとしては、本来、LINE、ヤフー、PayPay、それぞれのIDを統合し、ポイントを中心とした「LYP経済圏」を構築することで、楽天経済圏を打倒する戦略だったはずだ。それが、PayPayという総合金融アプリとLINEを結びつけられないとなると、顧客接点としては完璧ではなく、金融サービスの提供やマーケティング活動などにも制約が出てきてしまうことだろう。そもそも、ユーザーとしては「なぜ、この3つのサービスが連携するのか」という基本的なところから理解するのが難しいかも知れない。

 その点、楽天はひとつのID、さらに「楽天」という一つのブランドで構成されているため、ユーザーにもわかりやすく、またポイントを中心とした「貯めてお得」というメリットがユーザーに浸透しやすい。

 楽天グループとしては、2024年中の社債償還による経営リスクは回避されたと言われているが、2025年以降も、まだまだ数千億円単位の償還が迫っている。

 ソフトバンクによるLYP連携がモタモタしているなか、楽天グループは2〜3年のうちに、楽天ペイを中心とした金融サービスの統合で、ユーザーを囲い込み、楽天モバイルの顧客増加やARPU向上につなげ、社債償還危機を回避できるかどうか。

 まさに金融サービスアプリの統合は楽天グループの命運を左右すると言ってもいいだろう。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。