石野純也の「スマホとお金」

スマホ値上がりの今、知っておきたいキャリアの「端末購入プログラム」のしくみと使いこなしワザ

 前回の連載では、iPhoneの値上げについて解説しましたが、 円安・ドル高のあおりを受けているのは他のメーカーも同じ 。iPhoneのように現行モデルを直接値上げするようなことはまれですが、モデルチェンジのタイミングで価格が上昇する傾向にあり、総じてハイエンドモデルは特にその影響が顕著になっています。海外メーカー限定かというと、そうでもありません。

 日本メーカーとは言え、製造拠点が海外にある場合、円安・ドル高の影響は直撃します。加えて、個々の部材に関しても、すべてが日本製とは限りません。元々、半導体不足などを受け、部材費が上がっていたところに、円安の影響でダブルパンチになっている状況です。さらに、ハイエンドモデルは以前と比べると、販売量が減少しており、これも値上げの要因になります。

iPhoneの値上げが話題を集めているが、Androidも特にハイエンドモデルは軒並み価格が上がり始めている。こちらはAQUOS R7
同じく先代モデルと比べて価格が挙がったXperia 1 IV

 事実、シャープの「AQUOS R6」は11万5632円だったのに対し、後継機の「AQUOS R7」は価格が19万8000円まで上がっています(ドコモ版の場合、以下同)。ソニーのXperiaも同様で、「Xperia 1 III」は15万4440円で発売されましたが、約1年後に登場した「Xperia 1 IV」は19万872円まで値上がりしました。今や、ハイエンドモデルは20万円前後が一般的になりつつあるというわけです。

価格の半額を免除でスパッと分かりやすいソフトバンク

 さすがにこれでは、一括で支払うのが難しくなってくるのではないでしょうか。

 かく言う筆者も、「スマホはニコニコ現金一括払い」が信条でしたが、「Galaxy Z Fold3 5G」を購入した際には、割賦を組んで購入することにしました。ただ、単純に分割払いをしただけでは、毎月の支払いがかなりの金額になってしまいます。 そんなときに活用したいのが、キャリアの提供するアップグレードプログラム(端末購入プログラム) です。これを利用すれば、高額なスマホも比較的負担感を抑えながら購入できます。

 紆余曲折を経て、現在、アップグレードプログラムは主に2つの種類に分かれています。 1つが、シンプルな半額型。もう1つが、残価設定型 です。前者はソフトバンクが「新トクするサポート」として提供しているサービス。楽天モバイルもiPhone限定で「iPhoneアップグレードプログラム」を提供していますが、仕組みは新トクするサポートとほぼ同じです。後者にあたるのが、ドコモの「いつでもカエドキプログラム」や、auの「スマホトクするプログラム」です。

端末購入時に利用できるプログラム(筆者分類)
半額型残価設定型
ソフトバンク「新トクするサポート」NTTドコモ「いつでもカエドキプログラム」
楽天モバイル「iPhoneアップグレードプログラム」au「スマホトクするプログラム」

半額型のしくみ

 まず、半額型ですが、これは非常にシンプル。簡単な計算で支払額を導き出せるため、分かりやすいプログラムと言えるでしょう。

 基本的には、端末を48回の割賦で購入して、端末を返却すると、内24回が免除されるという仕組みです。仮に 20万円の端末を購入したとすると、24回目まで支払った後、端末を返却するだけで、残りの10万円が“チャラ” になります。最終的に端末は手元に残らないので、2年間、10万円で端末を使ったと考えることもできそうです。

新トクするサポートを紹介するソフトバンクのサイト。48分割で1カ月の支払いを抑えつつ、24回分を端末の返却で免除する仕組み。シンプルなため、説明も明快で分かりやすい

 半額型のメリットは、端末の種類によらず、平等に金額が免除されるところにあります。一般論として、Androidは国内向けに様々なチューニングが施されていることもあり、買い取り価格は低くなりがちです。グローバルで仕様がほぼ共通のiPhoneの方が、買い取り業者にとって、販路が広くなるからです。半額型は、こうした事情を考慮せず、一律で価格の半額が免除されるのがメリット。特にAndroidの場合、中古店などに売るよりも高く買い取られることになるケースが多くなります。

一般的に下取り価格が安くなりがちなAndroidも、きっちり半額ぶんが免除される。画像はAQUOS R7の価格を説明したソフトバンクのサイト。25カ月目に利用を申し込むと、9万4680円が免除される

 ただし、その リスクヘッジのためか、端末の価格が高額化する傾向に拍車をかけている 点は指摘しておきたいところです。たとえば、グーグルが発売したばかりの「Pixel 6a」の場合、グーグル直販価格が5万3900円なのに対し、ソフトバンク価格は6万7680円と、1万3780円も割高になっています。新トクするサポートを使い、きちんと24回ぶんの支払いが免除されれば、3万3840円まで価格は下がるため、一概には言えませんが、そのぶん本体価格は割高になっています。

 仮にグーグル直販のPixel 6aが、2年後に半額程度で売却できれば2万6950円になります。Pixelの場合、上記のiPhoneと同様の理由で、比較的買い取り価格は高値が維持される傾向にあります。大手中古店の相場を見ると、2年前に発売されたPixel 4aが2万円前後。状態にもよりますが、満額査定から少し落ちたとしても、本体価格(4万2900円)の半額程度で売却できます。

グーグルのPixel 6aは、ソフトバンク版のみ価格が1万3000円程度高い

 Pixel 6aにもこの計算が当てはまるかどうかは分かりませんが、同様の傾向が続くとすれば、グーグルから直接購入した方がお得になります。いわゆるオープンマーケットで同等の端末が販売されている場合は、本体価格の差も考慮して、どちらがお得になるかを計算してみるといいでしょう。ちなみに、Pixel 6aに関しては、ソフトバンクの直営店で割引が提供されます。あくまで割引ですが、機種変更でもグーグル直販と価格は近くなるため、ソフトバンクで購入を考えている人には朗報です。

残価設定型プログラムを導入したドコモとKDDI

 これに対し、ドコモのいつでもカエドキプログラムや、auのスマホトクするプログラムは、 端末ごとに24回目の支払いに対して残価が設定されている のが特徴。割賦の回数は24回ですが、24回目の支払いは残価として設定されているため、高額になります。その残価を差し引いた額で、23回目までの支払額が決まります。

 残価は再度割賦を組むことが可能。その場合、事実上、ソフトバンクと同じ48回払いをしているのに近い形になります。ただし、残価が必ずしも端末の半額とは限らないため、割賦の金額が23回目までとそれ以降で変わってきます。 残価が高い端末の場合、23回の支払いが安くなるのに対し、残価が安いと23回目までの支払いが重め になります。

ドコモとKDDIは、端末ごとに定めた24回目の残価が設定されている。これを差し引いた額を23回支払う仕組み。画像はいつでもカエドキプログラム発表時の資料

 半額型のように、本体価格を見ただけですぐに支払額がいくらになるのかを計算できない複雑さがある一方で、残価が高い端末の場合、23回目までの支払いを抑えられるのがユーザーにとってのメリットと言えるでしょう。不必要に高く買い取らなければならない可能性のある半額型に比べると、残価の設定は市場実績に基づけばいいぶん、キャリアにとってのリスクも低くなりそうです。

 一例を挙げると、ドコモの場合、iPhone 13の128GB版は残価が6万8640円に設定されているのに対し、先に挙げたXperia 1 IVの残価は8万520円とやや低め。本体価格に対する残価率は、iPhoneが約49.6%なのに対し、Xperia 1 IVは約42.2%です。ざっくり言えば、iPhoneは2年後に半額程度で引き取ってもらえるのに対し、Xperiaは4割強の価格になってしまうということです。

残価の設定額は端末ごとに異なり、サイトで公開されている。画像はドコモのiPhoneの残価一覧。本体価格に対して、半額程度が設定されていることが多い
Androidの残価も公開されている。画像はドコモのサイトの残価一覧。iPhoneと比べると、やや残価が少なめに見積もられているようだ

 ただ、これでもAndroidの買い取り額としては、奮発している方かもしれません。Xperiaで言えば、2年前に発売された「Xperia 1 II」の買い取り価格を見ることで、その理由が分かります。同モデルのドコモ版は、発売当時、12万3552円で販売されていました。これに対し、現時点での中古の買い取り額は、満額査定でも4万円強。発売に購入し、今売ると、3割強の価格になってしまうというわけです。

 しかもこれは満額査定の場合。画面割れや動作不良などの故障さえなければ、あらかじめ提示されていた残価で引き取ってもらえるため、残価設定型のアップグレードプログラムは安心感があります。約2年後にいくらになるかが分かっていれば、トータルでいくらになるかの目途が分かり、利用もしやすいでしょう。

 残価設定型プログラムが普及した結果として、端末の流通量が減少してしまえば、買い取り価格が上がる可能性はなきにしもあらずですが、この傾向が続くようであれば、 購入時にアップグレードプログラムに加入しておいた方がいい でしょう。仮に中古店の買い取り価格の方が高かった場合は、キャリアに返却しないというオプションも選べるからです。2年で端末を返却してしまう点はレンタルに近いようにも見えますが、あくまで所有権はユーザーにあります。 売却先を選択できる点は、レンタルとの大きな違い と言えるでしょう。

早期利用特典を設けたドコモに対し、KDDIはPontaポイントで還元

 なお、同じ残価設定型のアップグレードプログラムでも、ドコモの「いつでもカエドキプログラム」と、auの「スマホトクするプログラム」では、ディテールが異なります。

 ドコモの大きな特徴は、「早期利用特典」があるところ。24回目の支払いを待たずに端末を返却した場合、早期利用特典として毎月の支払額から一定の金額が割り引かれます。後継機が出るたびに機種変更するヘビーユーザーにも、しっかり配慮されている点は評価できます。

 一般的に、スマホの買い取り価格は発売から日が経てば経つほど下がっていきます。そのため、早めに返却すればトータルでの割引額が多くなるドコモの仕組みは、経済合理性に則っているとも言えます。約2年待たなくても済み、早ければ早いほどお得になるため、機種変更の頻度が高いユーザーにとっても利用しやすい仕組みと言えるでしょう。

ドコモのいつでもカエドキプログラムでは、端末ごとに早期利用特典が設定されている。23回目より前に端末を返却すると、早いぶんだけお得になる

 先に挙げた「Xperia 1 IV」の場合、早期利用特典が1100円に設定されています。約1年後に12回分の代金を支払ったあと、次期モデルの「Xperia 1」シリーズが発売されるとすれば、すぐに機種変更した際には、11回分、1100円の早期利用特典を受けられます。その額は、計1万1000円。残価の8万520円と合わせると、返却したときに免除される額は9万1520円まで上がります。

 これに対し、auのスマホトクするプログラムには、「スマホトクするボーナス」という特典が設定されています。こちらは、ポイントプログラムと連動した仕組み。スマホトクするプログラムの分割代金を、KDDIの「au PAYカード」で支払っていることが適用条件です。このスマホトクするボーナスが適用されると、毎月の支払額に対して5%ぶん、Pontaポイントによる還元が受けられます。

KDDIは、スマホトクするボーナスを用意。au PAYカードで支払った場合、5%ぶんがPontaポイントで還元される

 非常にざっくりとした仮定での計算になりますが、20万円の端末で残価が10万円の場合、11回で約9万1667円の支払いが必要になります。ここに対して5%ぶんのポイントがつくため、そのポイント数は約4538円ぶんになります。Pontaポイントは、au PAYにチャージするだけで幅広い店舗で決済に利用できます。auじぶん銀行の口座があれば、現金化も可能。ポイントを経由しているのは少々回りくどいにようにも見えますが、実質的な割引に近いものと捉えることができそうです。

 負担を抑えつつ、端末を購入するにはうってつけのアップグレードプログラムですが、注意点もあります。1つは、いわゆる実質価格が上がるケースもあること。2年以上使った場合、そのぶんだけ免除される金額が下がっていくためです。気に入った端末を長く使うのは悪くないことかもしれませんが、そのインセンティブはありません。その意味で、3キャリアともアップグレードプログラムは2年程度で機種変更する人に最適化されたものと言えそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya