スタパ齋藤の「スタパトロニクスMobile」

AIとプロジェクターの最強コンボ! これが新時代のトレースだッ!!!

 こういうタイミングでアレなんだが、今回もまた「トレース」がネタなのである。「また」というのは、先週掲載したApple野郎「iPadをトレース台に! 「トレーシングマット」アプリで塗り絵が捗るぅぅぅ」もトレースネタだったから。なお、今回の記事も先週のApple野郎の記事も、どちらも記事としては9月に仕込み済みのもの。偶然が重なっただけで他意はない。

 Apple野郎でトレース関連記事を書いたとき、「もしかして?」と思ってAIに写真のトレースをしてもらった。そしたら一発でキレイなトレース線が出力された。あらぁ~便利かも♪ と。

「もしかしたら今どきのAIだと会話形式で写真のトレースがラクにできる?」と思って試した。最近は猫写真を見てイラストを描くのが趣味化しているので、そんな猫写真をAIに与えて絵の輪郭をトレースしてもらった。試したのはGeminiとChatGPT。なお、写真はプライバシーに配慮して一部ぼかしを入れている。
AIに与えたのはこの画像。人が猫と日向ぼっこしている写真だ。
日向ぼっこ写真では猫がそっぽを向いているので、視線がこちら向きの猫写真も追加でAIに与えた。
プロンプト……っていうかAIへのリクエストは、「写真を線画にしてください 1枚目を参照して線画の全体像にしてください 猫の部分は2枚目の写真を参照してください 線画の線は黒で、ほかは白にして、あとから着彩しやすい画像にしてください」というもの。して欲しいことを全部言ってみた。
Geminiの出力結果。素材としてのトレース結果はクセがなく使いやすそう。うわ~でも数十秒とかでこのトレース結果はお見事である。
ChatGPTの出力結果。トレースを通り越して塗り絵の下描きくらいになってるかも。こちらも大したモンだ。

 ええぇぇ~っ? AIの写真トレースこんな高精度だったっけ~? ……半年くらい前にやった記憶があるが「使えないトレース結果」だったような気が。まあ進化速いっスからね~。にしても、もうこれ、人間が時間かけてトレースして「描画参照用線画」を作成する必要とかないのかもしれない。

 ……試しに着彩してみよう。ChatGPT出力結果のほうが、トレース線が濃くて色が映えやすい気がするので、ソレに。

Photoshopの塗りつぶしツールで色選んでクリックした程度の着彩。1分くらいでできる「大雑把・雑な塗り」だが、細部まで丁寧に塗ればそこそこ楽しめる塗り絵になる、かも。

 えええええっ~っ! てゅーか、AIが写真を線画にして、Photoshopでチャチャッと着彩できて……なんか凄い時代かも。まあ、そういうツールがあるからデキて当然だが。

 じゃあこの線画、もっとちゃんと、綿密に着彩して、プリントして額装して……。とか思ったが、なんかあまりにも手軽に着彩できそうで、オモシロミがなくなってきた。

 あ、じゃあこの線画を木の板に転写して、彫って、レリーフにしてゆきたいッ!!! レリーフに着彩するの楽しいかも~♪ 彫りたーい! 塗りたーい!

 ちなみにレリーフとは、木を彫ったり、素地をパテや粘土で盛り上げたりしてつくる立体的な表現物のこと。いろ~んな種類がある。和室の欄間の薄い彫刻などもレリーフである。

前出のAIトレース線画を、木に彫りやすいように、線を整理したもの。ベースは線が多すぎないGeminiの出力結果を使い、そこにChatGPTの「こちら向きの猫」を合成。ヘンな線や余分な線を消し、それらしい線を加え、レリーフ用の下絵ができた。

 よしじゃあこの下絵を……木の板に描き写せばいいのか。転写って手もあるが、どうせ彫るんだし、大雑把に描き写せればいいかな……と思って描き写し始めたら予想外のメンド臭さだった。

 木材にもよると思うが、木に鉛筆で描くのって、木の表面の凸凹に鉛筆の線が引っ張られて線が曲がりまくり。曲がった線を消しゴムで消そうとしても、鉛筆の黒鉛が木材の繊維に入り込むためか非常に消しにくい。それに白い紙と違って木の表面は鉛筆の線が見にくい! 全体的に想像以上に面倒!

 じゃあいったんジェッソ(白い下地材)を厚塗りしてからそこに鉛筆で……いや~もっと面倒かもしれない。それに、その後に彫っちゃうんだし。下絵にそこまで手間をかけるのも……!?

 なんかイロイロ違うぞ。なにしろ下絵になる画像はスマートフォン内にあるじゃないか。これをもっとスマートに、木の板に転写すればいいじゃないかッ!!!

13インチiPadの画面表示をトレーシングペーパーにトレース……なのか?

 既にモトとなる絵がiPhone上にあるんだから……ソレをiPadで表示して、その画面をトレーシングペーパーにトレースすれば、いいかも。つまり、連載記事Apple野郎で先週紹介したアプリを利用してのトレースだ。

トレーシングマット」アプリを使って13インチiPadにモトとなるAIトレース線画を表示させる。
その上にトレーシングペーパーを乗せ、画像を鉛筆などでなぞればトレースできる。アプリを使うことで、トレース中に画面がタッチに反応してしまうことを防げる。
アプリ上で画像を拡大縮小・回転などできるので、画像をトレースしたい大きさ・向きにできる。この場合はレリーフを彫る木のサイズに合わせた。

 俺の場合、トレース面倒くさがりマンなので、ほとんどのケースでトレースは雑。元絵のバランスが崩れなければいいや的なレベルで、緻密なトレースは心がけていない。

 のだが、今回はちょっと事情が違う。レリーフ作成目的なので、トレースから木に転写した線を彫ることになる。

 絵の具で描く・塗るなら、し損じて「あっ失敗!」となっても描き直したり塗り直したりできる場合が多い。アナログだけどUNDOみたいなコトも一応可能、みたいな?

 だがレリーフの場合は彫刻刀とかで彫っちゃうので、やり直しが利きにくい。まあ彫り損じた箇所をパテ埋めして彫り直すとかはできるが、そういう「スゲく手間がかかるUNDO」はそもそも視野に入れず、最終手段としておいたほうがいいだろう。

 そんな理由から、上記のiPadを使ってのトレース方法に「……うーん?」と難色を示す俺。結局、iPadからトレーシングペーパーにトレースし、そのトレーシングペーパーから木の板に転写するので、同じ線を2度なぞることになる。2度なぞるのが面倒だし、2度なぞっているうちに線もけっこうズレるような気がする。

 まあ、そこを注意して、じーっくり丁寧にトレースすればいいのだが……趣味でするレリーフの下絵にそこまで手間かけるのもなあ、と。もっと時短できる方法ないの? と別のやり方を模索する俺なのであった。

なんかさぁ、プロジェクターとかないの? ……あったぁぁぁッ!!!

 既にiPhone上にAIがトレースし(たのを人間がレリーフ向けに少し加工し)た線画がある。これをさぁ……なんかさぁ、プロジェクターとかで木の板に投影とかしてトレースできない? なんなら木の板に投影したまま彫り始めたり、とか?

 ネットで探すと「ドローイングプロジェクター」というカテゴリーのハードウェアがあるようだ。画像を紙や木に投影して、それをトレースできるというハードウェアが、あるにはあるらしい。だが、子ども用で投影できる素材がかなり制限されたり、まったく知らないメーカーの専門職用だったりする。

 普通のプロジェクターを使って木の板に線画を投影するという方法もある。のだが、投影サイズが40インチ以上だったりする。俺が投影したいのはせいぜいA5くらいのサイズで、インチにすれば10インチ程度。プロジェクターに入力する画像サイズをPC上などで調節すれば線画を10インチ程度にして投影するのは可能かもしれないが、なーんか凄く大げさな装置&状況になりそう。

 まあそうか……素直にトレース&なぞり転写すっか~。メンドクサイのも趣味のウチってことで……と諦めそうになったとき、いい方法を発見した。

 それはソニーのポータブル超短焦点プロジェクター「LSPX-P1」を使う方法。既に販売を終了した「ちょっっと変わったプロジェクター」なのだが、トレース用途にバッチリ使える……ハズ! てゅーか俺はLSPX-P1で猫の絵をトレースしたことがあるゼ!

ソニーのポータブル超短焦点プロジェクター「LSPX-P1」は、本体サイズが約高さ131×奥行き131×幅81mmというコンパクトなプロジェクターだ。右の大きいほうの箱がプロジェクター本体で、内蔵バッテリーでも動作可能。平たいのはHDMI入力用のワイヤレスユニット(付属品)で、HDMIソースならPC画面でもスマートフォン画面でもプロジェクター本体から投影できる。発売当時(2016年)のソニーストア価格は税別9万2500円。現在は販売終了だが、市場には新品も中古品も流通している。
投影できるサイズは22インチから80インチ。小型の本体を机に置き、壁に大画面を投影するなどして楽しめる。スマートフォンやタブレットやPC内にある各種静止画・動画コンテンツを壁に投影することも可能だ。
右側のペン立ての横にあるのがLSPX-P1のプロジェクター部。基本的にはこれだけで使える。
最小投影サイズは22インチ相当。A3用紙サイズ(A4サイズの倍)より少し大きい投影面積だが、一般的なプロジェクターからすれば「非常に狭い範囲にも投影可能」。トレース用途においてはこの投影面積の小ささがLSPX-P1の強みかもしれない。
iPhone上の静止画や動画も表示できる。

 このLSPX-P1、購入したのは2016年。ほぼ10年前に買い、購入当初は使ったものの、徐々に使わなくなってお蔵入り。

 10年くらいぶりに発掘したが……壊れてたりしない? と思ったら完璧に動作。アプリもしっかりあるので、LSPX-P1に無線(Wi-Fi/Bluetooth)で画像などを送って投影することが問題なくできた。そのほかのインターフェースはHDMIのみなので、10年前の機材とはいえ、現在でも汎用的に利用できる。

 そして肝心のトレース用途ではどうなのか? 結論から言えば、(後述のとおり)見事にトレース用のプロジェクターとして機能したッ!!!

 また前述のように、販売終了品ではあるものの、現在でも市場に新品や中古品が流通しており、とくに中古品はけっこー安価。なので、イラストなど作成するために使いやすいプロジェクターが欲しいという方はチェックしてみるといいかもしれない。

LSPX-P1でトレース、どんな感じでできる?

 LSPX-P1では、スマートフォンなどの静止画・動画コンテンツを投影することや、LSPX-P1独自のオリジナルコンテンツの表示などを行える。また、付属のHDMI入力用のワイヤレスユニットを使えば、HDMIで出力される映像全般を投影することができる。

 そして前述のとおり、最小投影面積は22インチ相当。A3用紙サイズ(A4サイズの倍)より少し大きい投影面積が最小で、それ以上は最大80インチ相当まで。キャンバスサイズにすれば100号(FやP)くらいまで投影できるので、絵画制作用のプロジェクターとしても有用だと思う。

 てゅーか、スマートフォンやPCにある画像を、絵画など制作用のトレース・ソースとして自由に利用できるって凄くないスか? まあデジタル描画の場合はそういう素材を自由に使えるので、手描きの世界に限ってという話になるかもしれないが、ともあれそう考えると「LSPX-P1って描画・トレース用途までカバーしている珍しいプロジェクター」と言えるかもしれない。

 さておき、実際、LSPX-P1は「どういうふうにトレースもととなる映像を投影できるのか?」ということを少々。LSPX-P1はプロジェクター本体のみを使った場合と、本体+HDMI入力用のワイヤレスユニットを使った場合の両方の使い方があるが、より機材・手間が少ない「プロジェクター本体のみを使った方法」から見ていこう。

用意するのはLSPX-P1のプロジェクター本体と、LSPX-P1に接続可能なスマートデバイス。具体的なスマートデバイスとしては、Android4.4以降のBluetooth 4.0(Bluetooth Low Energy)対応スマートフォンや、iOS9を搭載したiPhone 4S以降、iPod touch第5世代以降、iPad第3世代以降、iPad miniとなる。
LSPX-P1専用アプリ「ポータブル超短焦点プロジェクターアプリケーション」から、「自分の写真」の「1枚表示」から、トレースの下絵にしたい写真を選ぶ。
写真が投影された。ただし、投影画像の拡大縮小には対応していないため、投影時にトレース下絵が適切なサイズになるとは限らない。これを想定し、あらかじめ投影する画像を適切なサイズに調節しておく必要がある。

 といった感じで、LSPX-P1はプロジェクター本体のみを使ってトレース下絵を投影した場合、下絵のサイズを調節できない。プロジェクターを投影先から離すことで下絵のサイズを大きくすることは可能なので、小さめの画像を下絵として用意しておくなどの対処が必要だ。

 下絵サイズをより自由に変えられるのは、LSPX-P1プロジェクター本体と付属のHDMI入力用のワイヤレスユニットを併用した方法だ。この場合、スマートデバイスやPCの画面がそのまま投影されるので、たとえば写真アプリなどの拡大縮小操作で投影画像のサイズ調節が可能になる。

用意するのはLSPX-P1のプロジェクター本体、付属のHDMI入力用のワイヤレスユニット、LSPX-P1にHDMI接続可能なスマートデバイスやPC。HDMI入力用のワイヤレスユニットとスマートデバイスやPCなどはHDMIでのケーブル接続が必要になる。ので、スマートデバイスやPCからHDMI出力をするためのアダプターもしくはケーブルも必要。
LSPX-P1専用アプリから、「外部入力(HDMI)」を選ぶ。
次いで、下絵にしたい画像を表示可能なアプリを起動する。「外部入力(HDMI)」の場合、デバイスから出力されている画像がそのまま投影されるので、下絵を自由に拡大縮小可能なアプリを使うのが便利だ。このスクリーンショットはiPhoneの写真アプリを使っているが、写真アプリの場合は画像のフルサイズからの縮小ができないので、あらかじめ小さめの下絵画像を用意してそれを拡大してサイズ調節している。
HDMI出力の場合、使う表示アプリや用意するモト画像などにより、かなり自由に投影線画サイズの調節ができる。トレース目的なら(使用機材が少し増えるが)、LSPX-P1のプロジェクター本体と付属HDMI入力用のワイヤレスユニットの併用がより便利だろう。

 なお、今回は画像などで紹介していないが、LSPX-P1をサブディスプレイ表示をするためのプロジェクターとして使うこともできる。単にLSPX-P1とPCをHDMI接続すれば可能。その場合、好みの画像表示アプリとマウスを使い、より自由&手軽にトレース画像を投射することができる。

 といった感じで、LSPX-P1を使ってのトレースが可能。普通一般のトレースと比べると、強い光で描かれた画像をトレースできるので、より緻密に転写できる。興味のある方はぜひLSPX-P1をチェックしてみてほしい。

 ……まあでも、LSPX-P1、販売完了品だけど。もしかしたらLSPX-P1と同等もしくはそれ以上に便利に使えるトレース向けのプロジェクターがあるかも、だけど。

スタパ齋藤

1964年8月28日デビュー。中学生時代にマイコン野郎と化し、高校時代にコンピュータ野郎と化し、大学時代にコンピュータゲーム野郎となって道を誤る。特技は太股の肉離れや乱文乱筆や電池の液漏れと20時間以上の連続睡眠の自称衝動買い技術者。収入のほとんどをカッコよいしサイバーだしナイスだしジョリーグッドなデバイスにつぎ込みつつライター稼業に勤しむ。