本日の一品

チプカシの王道「F-91W」がパックマンと合体した至高のチプパク腕時計を手に入れた

 ビデオゲームの歴史を語る上で「パックマン」の名を外すことはできない。1980年に日本で誕生し、その後世界中を熱狂させたこの黄色いアイコンは、今やポップカルチャーの象徴である。筆者はこれまでも、TIMEXやCASIOからリリースされたパックマンコラボ・ウォッチをいくつか手にしてきた。しかし、今回の発表には格別の興奮を覚えた。

 その理由は、ベースモデルが「F-91W」だったからだ。カシオが世界に誇る通称「チープカシオ(チプカシ)」の象徴であり、実用性と低価格を極めたミニマリズムの極致。このもっとも身近な傑作がパックマン化されるというニュースは、ガジェット好きの間で発売前から大きな話題となった。筆者も例に漏れず、発売日にヨドバシ・ドット・コムで購入し、その到着を心待ちにしていたのである。

パックマン45周年を記念したスペシャルパッケージ。黒地にネオンカラーのゴーストが映える

 パックマンの歴史は興味深い。日本では「可愛い」キャラクターとして親しまれたが、米国では「パックマニア」と呼ばれる社会現象を巻き起こし、アーケードゲームとして史上最も成功した作品の一つとなった。

 その人気は画面の中だけに留まらず、Tシャツ、マグカップ、文房具、そして腕時計といった膨大なノベルティ・ジャンルを形成した。今回のコラボレーションも、その長い歴史の最新章といえる。

誇らしげに添えられた「Licensed by Bandai Namco Entertainment Inc.」のタグ

 筆者が手に入れたのは、ブラックの樹脂バンドモデルだ。価格は7700円。この「安さ」こそが、今回のコラボの真髄である。過去にはメタルケースを採用したリッチなコラボモデルも存在したが、パックマンというドット絵の世界観には、このF-91Wのような質素な樹脂の質感が驚くほどよく似合う。

遊革に刻まれた「WAKA WAKA」の文字。イエローとピンクのネオンカラーがブラックに映える

 細部を見ていこう。ベルトの余りを留める遊革には「WAKA WAKA」というタイポグラフィが踊る。これはパックマンが迷路のクッキーを食べる際の擬音だ。英語圏では、この「ワカワカ」というサウンドがパックマンの代名詞となっており、シャキーラが歌ったW杯のテーマ曲とはまた別の、ゲーマー共通の言語なのである。

左がパックマンモデル、右がオリジナルのF-91W。レイアウトの妙が光る

 オリジナルであるF-91Wと並べてみると、その変貌ぶりに驚かされる。1989年の発売以来、筆者も色違いや限定版を含め20個近くを愛用してきたが、今回のモデルは「F-91Wらしさ」を完全に維持しつつ、液晶周囲のスペースを巧みに使ってドット絵の迷路を再現している。液晶下にはピンクの「ALARM CHRONO」の文字、そして画面の隅では4体のゴーストがパックマンを追いかけている。

背面も抜かりない。裏蓋にはレーザー刻印でパックマンのロゴと迷路のパターンが刻まれている

 表面だけでなく背面(裏蓋)の作り込みも見事だ。通常のF-91Wは極めて実務的な刻印のみだが、本モデルにはパックマンのロゴとマップの一部が配置されている。決して高級時計ではないが、こうした「ガジェットとしての遊び心」に、我々のような世代は弱い。

40代以上の男性の腕にも違和感なくなじむ。この軽快さが堪らない

 実際に腕に巻いてみると、改めてその軽さに感動する。F-91Wの最大のメリットは、極限まで薄く、軽いことだ。現代の多機能なスマートウォッチに慣れた腕には、まるで空気を纏っているかのような錯覚さえ覚える。

左:パックマンモデル(20g)、右:Galaxy Watch Ultra(136g)。その差は約6.8倍に達する

 筆者が愛用しているスマートウォッチ「Galaxy Watch Ultra」+ステンレスバックルと体重測定をしてみたところ、驚くべき結果が出た。Galaxy Watch Ultraが重さ136gであるのに対し、パックマンモデルはわずか20g。なんと6倍以上の重量差があるのだ。この超軽量こそが、長時間の執筆作業を妨げない最高の「ライターズ・ウォッチ」としての資質でもある。

巨大なスマートウォッチと並べると、F-91Wのコンパクトさがより際立つ

 F-91Wはタフで壊れないことでも有名だが、唯一の弱点はベルトにある。ウレタン樹脂製のラバーベルトは腕なじみは良いが、経年劣化による加水分解や、急な力が加わった際の破断が避けられない。筆者のコレクションでも、本体はピンピンしているのにベルトが切れた個体がいくつもある。それらはNATOベルトや本革のカスタムベルトに交換して延命させている。

 今回のモデルは遊環を除き、ベルト自体は標準的な黒の樹脂製だ。これはベルト交換という「大人の遊び」が容易であることを意味する。しかし、この軽快さを楽しむなら、まずはこのままの姿で使い倒すのが正解だろう。

ベルトの切れたF-91Wを再利用した、自作の「ポモドーロタイマー」。異様な雰囲気が執筆を加速させる

 ベルトが切れた後の楽しみ方といえば、筆者には特別な一台がある。F-91Wはその信頼性と安さゆえ、かつてテロ組織が起爆装置のタイマーに流用したという物騒な伝説を持つ。筆者はそのエピソードを「ガジェット的なジョーク」として昇華させ、友人のエンジニアに依頼して、起爆装置を模したポモドーロタイマーを作ってもらった。

 ファミレスで原稿を書く際、このタイマーをテーブルに置けば、適度な緊張感と共に集中力が研ぎ澄まされる(もちろん、誤解を招かないよう配慮は必要だが)。

過去のコラボモデル(A100ベース)との比較。今回のF-91Wベースの方が、より「チプカシ魂」を感じる

 F-91Wは37年の歴史を持つ、デジタル時計の完成形である。一方のパックマンは昨年(2025年)に45周年を迎え、今なお現役のレジェンドだ。この二つが交差し、チプカシの持つ「気軽さ」という美学を壊すことなく、7700円という価格で世に送り出されたことは、カシオの良心そのものである。

 これからやって来る長く暑い日本の夏。高級なレザーストラップの時計を汗で汚すのを躊躇う季節に、この超軽量でタフなパックマンモデルは最高の相棒となるだろう。直射日光を反射する液晶画面の中で、クッキーを追いかけ続ける黄色い彼を見ていると、現代社会の喧騒さえもドット絵の迷宮のように気楽に捉えられるような気がしてくるのである。

製品名発売元実売価格
F-91WPC-1AJRカシオ計算機7700円