スマートホームのミライ

スマートホームに“サブスク”は必要か⁉

 こんにちは。スマートホーム商品を企画/開発している、プラススタイル株式会社の近藤です。皆さんは、ウィキペディアのスマートホームの項目を見たことがありますか?

 大手さんも含めそれなりの企業が参入している分野なのに、非常にあっさりした情報しかありません。しかも、もう終了してしまったサービスも掲載されています。こういったところからも、“流行していない感”が出てしまっていますね。このページがもっと華やかになるように、いろいろな話題を提供していきたいと思います。ちなみに、弊社の情報は記載がありません(泣)。

 さて前回は、スマートホームが日本で流行しない理由などを解説しました。スマートホームが日本に浸透していくにはまだまだ時間がかかりますが、「2020年がターニングポイントとなるように頑張ります」と宣言させていただきました。第2回は、スマートホームを流行させるためのキーワードとして大切な「サブスクリプション」についてお話します。

コンテンツ/サービス、商品、飲食、みーんな「サブスク」

 サブスクリプション――最近では「サブスク」と略されることも多い言葉ですが、これは「商品やサービスを“購入”するのではなく、利用できる“権利の期間”に対して料金を支払う」というビジネスモデルを指します。毎月一定料金を支払うことで自宅に届く「新聞」や、配信されている音楽が定額で聴き放題になる「Spotify」、同じく映画やドラマが見放題になる「Netflix」などが代表例として挙げられます。

 これまでのサブスクは、動画や音楽といったコンテンツ系が主流でした。最近では、自動車やファッションなど、生活に結びつく“商品”をサブスクで利用できる、いわばライフスタイル系もよく目にするようになってきました。トヨタの「KINTO」(月々定額で新車に乗れる。任意保険や自動車税、定期メンテナンスなど全て込み)や、ストライプインターナショナルの「メチャカリ」(人気ブランドの洋服が定額で借り放題のファッションレンタルサービス)などがそれです。いずれも商品やサービスを新たに作り上げたわけではなく、昔からあった自動車や洋服といった商品を、購入して「所有する」から、必要なときだけ「利用する」、といった形態に変えただけ。お金のもらい方=ビジネスモデルを変えただけ、なのです。

 ちなみに飲食業も、コーヒー定額飲み放題や、毎日2時間定額飲み放題の居酒屋など、いくつかのお店がサブスクに参入し始めています。ですが、自動車や洋服といった商品とは違い飲食というサービスを提供しているため、いくつかトラブルも起きているようです。先日、焼肉チェーンの牛角が、月額1万1000円の「焼肉食べ放題PASS」を販売したところネットで話題になり、購入者が殺到して即販売中止に至った、というニュースがありました。当事者は申込みが殺到することが想定できていなかったのでしょう。サブスクのプラットフォームは、急増するキャパシティに耐えられることを想定する必要があり、想定が難しい業態にサブスクを提供するのは難易度が高いのです。

 余談になりますが、私はお花のサブスク「Bloomee LIFE」に加入しています。季節のお花を花束にして毎週届けてくれるサービスで、殺風景な家も、お花があるだけでちょっとだけ華やかになります。新型コロナウィルス対策で長く続く在宅勤務も、お花があるだけで気分転換になり、仕事もはかどるような気がします。

毎週違ったお花が届くので、それだけで気分がアガります

 さて本題の、スマートホームにおけるサブスクのお話です。

サービスの価値がわからないものにサブスクは難しい?

 「intelligent HOME」や「au HOME」などのスマートホームサービスを提供しているほとんどの会社が、サブスクでスマートホームサービスを提供しています。ですが、前回ご説明したように、どのサービスもユーザーは10万人にすらほど遠い状況です。数年やってきてこの状態は散々、と言えるでしょう。ではなぜ、スマートホームのサブスクはユーザーが集まらないのでしょうか?

 それは、「受けられるサービスをイメージできない」からです。先に挙げた新聞や自動車、洋服などのサブスクは、新聞という形態で情報が届いたり、移動するための自動車を所有できたりといった「受けられるサービスの内容が想像できる」ものばかり。そうです、サブスクは内容が想像でき、その価値がわかっているものでないと成立しにくいのです。いま日本で、「スマートホーム」と聞いて「できること」が理解できている人は、どれだけいるのでしょうか? まだ10%もいないと思います。これは、我々事業者がもっとPRを頑張らなきゃいけないところ。また、厄介なことにスマートホームの場合、利用するユーザーによって価値と感じるコトが違います。ご家族の見守りとしてや、自宅を守るセキュリティとして、さらには、家電を連携させてちょっとした便利を手に入れたい人もいます。スマートホームに関する理解度があり、さらにはスマ−ホームで何をやりたいかを明確にしている人が、サブスク加入対象者となるのです。現状ではかなり小さなパイと言えるでしょう。

サブスクは誰のため?

 毎月お金を取るために契約で縛る、という行為がサブスクであるならば、それはユーザーにとって本当に良いことなのでしょうか。「見覚えのないサービスを契約させられ、何年もお金を払い続けていた」という体験談が定期的にSNSなどで話題になるように、サブスクはサービスをやめる時に“解約する”という行為が発生します。これを忘れてしまうと、永遠に支払い続けることになります。これはあまりユーザーフレンドリーではないと思います。

 理想は、契約はするものの毎月定額を支払うのではなく、使ったときだけ支払う、ではないでしょうか。本来はそのサービスや商品が良くて、(課金されることがわかっていて)ついつい使ってしまう、という状態にしてあげるべきなのです。昔からある富山の置き薬的なサービスなのかもしれません。

 そのため、我々(スマートホーム関連)事業者がいまやるべきことは、いきなりサブスクを始めるのではなく、自社のサービス/商品を使っていただき、ファンになってもらうこと。それがなければ生活が楽しくない、という領域に持っていくことだと思います。そうなってはじめて、毎月お金を払ってもサービスを受けたい、という状態になると思います。ちなみに、ハイブランドやアップルのように、新商品が出たら全部買うというファンが数多くいる状況を作る、それが事業者の理想です。「契約で縛られるのではなく、新商品を次々購入したい」という心理で事業者とユーザーが繋がる状態を、私は「心のサブスクリプション」と呼んでいます。これこそがサブスクのあるべき姿だと思うのです。だから、+Styleではこの状況を目指したいと思っています。

 スマートホームの認知を上げ、いつでも新商品を購入していただけるファンを持つ、こうなれば、サブスクをやる意味はあまりないのかもしれません。ただもしかしたら、いきなりサクッとサブスクを始めちゃうかも。それは、世の中や業界の流れ、ということで温かい目で見守ってくださいませ。

 それではまた次回。

近藤 正充

プラススタイル株式会社 取締役社長
出版社での雑誌編集や、通信会社での企画/マーケティングを経験し、現職。座右の銘は「来る者拒まず、去る者ちょっと追う」。Twitter:@kmasa106