法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「Zenfone 9」、6軸ジンバル搭載カメラでパワフルに楽しめるコンパクトな一台
2022年12月27日 00:00
スマートフォンだけでなく、パソコンやパーツなど、幅広い製品ラインアップを展開するASUSからコンパクトサイズのハイエンドモデル「Zenfone 9」が発売された。筆者も実機を試用することができたので、レポートをお送りしよう。
コンパクトな端末のニーズはあるが……
スマートフォンは常に持ち歩き、使うものだ。それだけに、ボディの大きさや重さによって、携帯性が大きく変わってくる。その一方で、端末に搭載されるディスプレイは、情報を表示し、タッチ操作をするユーザーインターフェイスであるため、スマートフォンのユーザビリティを大きく左右する。かつてのケータイ時代から続くテーマでもあるが、持ちやすいサイズとディスプレイの大きさという相反する要素をバランスさせながら、デバイスは進化を続けている。
ただ、スマートフォン全盛の時代に入ってから、やはり、情報量の多さや視認性の良さから、ディスプレイサイズの大型化が最優先され、本体のボディサイズは大きくなる傾向が顕著だ。同時に、バッテリーの大容量化や本体フレームの強化などもあって、重量も徐々に増え、今や一般的なスレート状のスマートフォンで250g前後までヘビー級化したモデルが登場している。
こうした傾向の中、コンパクトなボディのスマートフォンが売れなかったかというと、そうでもなく、国内で半数近いシェアを占めるiPhoneでは「iPhone SE(第三世代)」のように、世代を重ねながら、根強い人気を保っている。とは言うものの、さらにコンパクトさを追求した「iPhone 12 mini」と「iPhone 13 mini」は、価格とのバランスが嫌気されてか、わずか2年でラインアップから姿を消すなど、苦戦を強いられている。
Androidプラットフォームでは売れ筋のミッドレンジ以下のモデルで、コンパクトなモデルが数機種、展開されている。
代表的なところとしては、定番の「AQUOS sense7」が幅70mmで重さ158g、ハイスペックな「Xperia 5 IV」が幅67mmで重さ172g、ミッドレンジの「Xperia 10 IV」が幅67mmで重さ161g、エントリークラスの「Xperia ACE III」が幅69mmで重さ162gなどが挙げられる。
これらのうち、フラッグシップモデルやハイエンドモデルに位置付けられるのは「Xperia 5 IV」のみで、ハイスペックなコンパクトモデルは選択肢が少ないのが実状だ。
ハイスペックを搭載したコンパクトな「Zenfone 9」
今回、ASUSから発売された「Zenfone 9」は、ハイスペックを搭載したコンパクトモデルに位置付けられる。ボディは幅68.1mm、重さ169gの持ちやすいサイズで、チップセットは今シーズンの最上位チップセットである米Qualcomm製Snapdragon 8+ Gen 1を搭載し、防水防塵やFeliCa搭載など、日本仕様にもしっかりと対応する。
ASUSのスマートフォンと言えば、国内でいわゆる「格安SIM」という言葉が取り上げられる、オープン市場向けスマートフォンが求められていたタイミングで、いち早く「Zenfone」シリーズを展開し、人気を得たが、その後はライバル各社の攻勢を受け、ややシェアを落としながらもゲーミングスマートフォンでは「ROG Phone」シリーズを展開し、安定した人気を確立している。
あらためて説明するまでもないが、ASUSは元々、マザーボードなどのPCパーツで人気を集めたことで知られ、筆者の世代は自作PCに何度となく、同社製マザーボードを使ったという人が多い。現在は、スマートフォンだけでなく、パソコン本体や周辺機器などでも高い支持を得ており、日本のユーザーが慣れ親しみ、日本をよく知る海外メーカーのひとつと言えるだろう。
今回の「Zenfone 9」は2021年8月発売の「Zenfone 8」の後継モデルに位置付けられる。「Zenfone 8」までは一般的なスレート状のボディのほかに、背面のメインカメラが前面側に回転するフリップカメラを搭載した「Zenfone 8 Flip」「Zenfone 7 Pro」「Zenfone 6」などを販売していたが、今回はスタンダードな形状の「Zenfone 9」のみが展開される。
価格はメモリーとストレージの違いにより、9万9800円、11万2800円、12万9800円の3つのモデルがラインアップされている。
販売はオープン市場向けで、AmazonなどのECサイト、ヨドバシカメラやビックカメラなどの家電量販店、IIJmioやNifMoなどのMVNO各社などが取り扱う。家電量販店ではデモ機も置かれているので、実機を手に取り、試すことが可能だ。
手のひらサイズで持ちやすいボディ
まず、外観からチェックしてみよう。前述の通り、本体は幅68.1mm、高さ146.5mmというコンパクトボディで、女性や手の大きくない人にも持ちやすいサイズとなっている。特に、縦方向の短さ(高さ)は筆者のように、手の大きなユーザーにとっても有用で、片手で持っている状態で画面上部にあるアイコンを操作するときにも使いやすい。
ボディ背面は布のような独特の触り心地の素材で、指紋や手の跡が残りにくく、手に持ったときも滑りにくい。多くのユーザーは背面にカバーを装着するため、この手触りを感じる機会は少ないかもしれないが、落下時のリスクなどをあまり考えないのであれば、カバーを装着せずに持ち歩いてもいいかもしれない。
パッケージには専用ケースが同梱されるほか、オプションとして、専用アクセサリーも販売される。「Connex Accessories Set」と呼ばれる背面カバーとカードホルダー、スマートスタンドがセットになったもので、カードホルダーやスマートスタンドは背面カバーにはめ込むようにして固定する。
「Smart Backpack Mount」はデイパックなどのベルトなどに固定するマウントで、「Zenfone 9」をワイヤーで引っ張り出すことで、カメラなどをすぐに起動することが可能。後述するカメラの6軸ジンバルを活かし、トレラン(トレイルランニング)やマウンテンバイクなどで走行中、ベルトに固定した「Zenfone 9」で動画を撮りながら、停止時や停車時はすぐに端末を引っ張りだし、写真を撮ったり、地図アプリでルートを確認したりといった使い方ができる。
こうした使い方を含めたアクセサリー類は、auの京セラ製端末「TORQUE」シリーズなどで見かけることはあるが、オープン市場向けの製品でメーカーから提案されることは珍しく、ASUSのユニークな取り組みが注目される。ちなみに、本体はIPX5/IPX8の防水、IP6Xの防塵に対応しており、降水時やキッチンなどの水廻り、アウトドア環境などでも安心して利用できる。
ディスプレイは2400×1080ドット表示が可能なフルHD+対応5.9インチAMOLED(有機EL)ディスプレイを搭載し、表面ガラスにはCorning Gorilla Glass Victusを採用する。DCI-P3色域は112%、最大輝度は1100nit、HDR10+対応など、ディスプレイとしてのスペックも高い。リフレッシュレートは出荷時に自動に設定されているが、60/90/120Hzを選択でき、なめらかな表示が可能だ。
ちなみに、5.9インチという対角サイズは、6インチ以上のディスプレイを搭載する機種が多い状況を鑑みると、少し小さく感じられるが、実際に使ってみると、本体前面のほとんどをディスプレイが覆っており、AMOLEDによる視認性の良さもあって、映像コンテンツなども十分に楽しめる。
ノッチが邪魔をするiPhone 14と比較しても遜色のないレベルと言えるだろう。ちなみに、本体を横向きにしたときに楽しめるデュアルオーディオスピーカーを内蔵するほか、3.5mmイヤホンジャック端子も備える。
バッテリーは従来モデルよりも大きい4300mAhのものを内蔵する。最近は5000mAh以上の大容量バッテリーを搭載するモデルが増えているが、ボディサイズを考えると、順当な容量と言えるのかもしれない。充電はQC4.0/USB PD 3.0規格準拠の最大30W急速充電に対応しており、パッケージにはUSBチャージャー(充電器)、USB Type-Cケーブルが同梱される。
生体認証は側面の電源ボタンに内蔵された指紋認証センサーによる指紋認証のほか、インカメラを利用した顔認証にも対応し、マスク装着時の顔認証も利用可能。設定項目には明記されていないが、筆者が試用した限り、目を閉じた状態ではロックが解除されないので、寝顔でロック解除といった使われ方は避けることができる。
右側面の電源ボタンは「ZenTouchボタン」や「スマートキー」とも表記され、画面ロック解除後に上下にスワイプすると、「クイックアクセス」と呼ばれる機能が利用できる。出荷時は「通知のチェック」が設定されているが、その他にも「Webページの更新や先頭/最後への移動」「メディア再生時の再生/停止」などの操作ができる。
ただし、クイックアクセスで利用する機能は、いずれかを選ぶという仕様のため、よく使う機能を設定する使い方になる。また、2回押しで「音声入力」や「Googleアシスタント」の起動もできる。
国内4社のネットワークに対応
チップセットは2022年のハイエンドチップである米Qualcomm製Snapdragon 8+ Gen 1を搭載する。国内外で販売される各社のフラッグシップに搭載されているが、ハードウェアの細かい仕様こそ違うものの、この価格帯でSnapdragon 8+ Gen 1を搭載する機種は非常に少ない。
気になる冷却については、従来のヒートパイプに加え、ベイパーチャンバーを搭載することにより、十分な放熱性能を確保しているという。実際に使った感覚としても一般的な利用では本体が熱を持つようなことはほとんどなかった。
メモリーとストレージは3つのモデル(SKU)が用意されており、RAM 8GB/ROM 128GB、RAM 8GB/ROM 256GB、RAM 16GB/ROM 256GBの構成から選べる。microSDメモリーカードなどの外部メモリーには対応していない。
どのモデルを選ぶのかを迷いそうだが、価格重視ならRAM 8GB/ROM 128GBを選び、6軸ジンバルモジュールの特性を活かした動画をたくさん撮るのであれば、ストレージが256GBの2モデルがおすすめだ。ただし、選択したモデルによって、選べるボディカラーが異なるので、注意が必要だ。
ネットワークについては5G NR/4G LTE/3G W-CDMA/GSM EDGEに対応し、5G NRはSub-6に対応する。ASUSはカタログなどで「マルチキャリア対応」をうたい、「docomo・au・SoftBank・Y!mobile・ahamo・povo・LINEMO」(原文ママ)と表記している。なぜか、UQモバイルや楽天モバイルが抜けているが、両社(ブランド)の対応機種一覧には「Zenfone 9」が掲載されており、問題なく、利用できる。
ただし、5G対応端末で話題になることが多いNTTドコモに割り当てられた5G向け周波数帯域「n79」には対応していない。NTTドコモの5Gネットワークでは他の周波数帯域も利用しているうえ、4G向け周波数帯域の転用もはじまっているため、実用上はそれほど大きな問題ではないが、5Gネットワークが「n79」のみで展開されるエリアでは、他の対応端末と差が出ることも考えられる。
SIMカードは2枚のnanoSIMカードを装着可能なデュアルSIMに対応し、両スロットとも5Gネットワーク、4G LTEによるVoLTE通話に対応する。
その他の通信規格としては、FeliCa/おサイフケータイ、NFC TypeA/B、Bluetooth 5.2、Wi-FiはIEEE802.11a/b/g/n/ac/axに対応する。Wi-Fiは2.4GHz/5GHz帯の対応で、IEEE 802.11axで6GHz帯を利用する「Wi-Fi 6E」には対応していない。
おサイフケータイはGoogle PayによるモバイルPASMOやiD対応がカタログなどでうたわれており、モバイルSuica/モバイルPASMOの対応機種一覧(2022年12月15日版)にも掲載されているので、安心して利用できる。
Android 12対応「ZenUI」を搭載
プラットフォームはAndroid 12を搭載し、原稿執筆時は2022年10月1日版のセキュリティパッチが適用されていた。日本語入力はAndroid標準の「Gboard」を採用する。
ユーザーインターフェイスはASUS独自の「ZenUI」を搭載しており、いくつかの実用的な機能が利用できる。Androidでは通知を表示するため、ステイタスバーから下方向にスワイプするが、「Zenfone 9」ではホーム画面を下方向にスワイプして、通知が表示できたり、本体側面のスマートキーを下方向にスワイプしても表示できる。
「Zenfone 9」はコンパクトなため、この機能を利用しなくても画面最上段に手が届く人もいるだろうが、片手モードを設定することにより、画面全体を一時的に下半分に表示でき、画面上段に表示されているアプリのアイコンやメニューなども容易にタップできる。
また、背面をダブルタップして、スクリーンショットを撮るなど、独自の動作を設定できる。スクリーンショットのほかに、カメラの起動、ライトの点灯、サウンドレコーダー、Googleアシスタント起動、音楽や動画などを再生中の再生/一時停止などが選べる。
こうした便利機能は[ヒント]アプリにまとめられており、チュートリアルを見ながら、設定できるため、Zenfoneシリーズにはじめて触れるユーザーにもわかりやすい。
6軸ハイブリッドジンバルスタビライザー搭載カメラ
カメラは背面にソニー製IMX766の5000万画素/F1.9(35mm換算23.8mm相当)を採用した広角カメラ、ソニー製IMX663の1200万画素/F2.2(35mm換算14.4mm相当)を採用した超広角カメラ、ディスプレイ左上のパンチホール内にソニー製IMX663の1200万画素/F2.3(35mm換算27.5mm相当)のインカメラを搭載する。
メインで利用する5000万画素の広角カメラは、2×2 OCL方式による全画素AFに対応しており、暗いところなどでもすばやくフォーカスを合わせ、ノイズの少ない写真を撮ることができる。1200万画素超広角カメラはマクロ撮影にも対応する。
撮影モードは「写真」「動画」「ポートレート」「スローモーション」「タイムラプス」などが用意されているほか、β版として、長時間露光で光の軌跡を捉える「ライトトレイル」も利用することが可能だ。
今回の「ZenFone 9」で注目されるのは、メインで利用する広角カメラに、6軸ハイブリッドジンバルスタビライザーを搭載していることが挙げられる。スマートフォンのカメラでは光学式や電子式の手ぶれ補正が搭載され、ある程度、撮影時の手ぶれを抑えた撮影ができるが、こうした手ぶれ補正は本体に搭載されたジャイロセンサーの情報を基に、カメラモジュール内のレンズやイメージセンサーを動かす「レンズシフト式」や「センサーソフト方式」のしくみによって、実現される。
一方、ジンバルはスタビライザーなどとも呼ばれ、デジタルカメラやスマートフォンなどをアーム状の器具に固定し、内蔵ジャイロセンサーを使って、カメラなどを常に特定の方向に向くように固定するしくみのもので、コンシューマー向けのものとしてはDJIの製品などが知られている。
「Zenfone 9」にはこうしたジンバルと同様の動きを実現する構造が組み込まれている。一般的な手ぶれ補正と異なるのは、同じようにジャイロセンサーの情報をもとにしながら、カメラモジュール全体を動かすことで、ぶれを抑えた撮影をできるようにしている。
具体的に、どういう映像が撮影できるかというと、テレビの街歩き番組などで流れているぬるぬると動くような映像が挙げられるが、ランニングや自転車(MTB)での走行中に身体に固定しておき、撮影することもできる。こうしたシチュエーションには別売のアクセサリー「Smart Backpack Mount」が役に立つわけだ。筆者も何度か動画を撮影してみたところ、階段などを勢いよく歩いてもぶれを抑えた撮影ができた。
ただ、正直なところ、街歩き程度であれば、電子式手ぶれ補正をしっかりと実装したほかのスマートフォンでも同程度の撮影ができるという印象で、もう少し大きなぶれが起きそうなシチュエーションの方が「Zenfone 9」の6軸ジンバルの効果を体感できそうだ。そういったシチュエーションの撮影が日常生活にあるかというと、なかなか少なく、6軸ジンバルを活かした映像の撮影に適しているのは、トレランやスキー、スノーボードを楽しんだり、自転車でツーリングに出かけるなど、アクティブな活動をするユーザーに適していると言えそうだ。
そう考えると、GPS信号をもとにしたトラッキングのアプリと連動して、「この地点では、こんな映像が撮れた」といった活用ができた方がもっと楽しいかもしれない。いずれにせよ、ユーザー自身で活用するシーンを積極的に見いだしていく必要がありそうだ。
コンパクトで持ちやすく、アクティブに活用できる一台
スマートフォンのサイズは大画面化によって、ボディそのものも大きくなり、やや携帯性が徐々に失われてきたという指摘が多い。特に、ハイエンドモデルは冒頭でも説明したように、大型化の傾向が強く、コンパクトなモデルを選ぼうとすると、どうしてもミッドレンジ以下のモデルの選択が中心になってしまう。
今回の「Zenfone 9」は、こうしたニーズに応えられる『パワフル&コンパクト』なモデルという位置付けだ。幅68.1mmというサイズは手が大きくない人にも持ちやすく、2022年のハイエンドチップセットであるSnapdragon 8+ Gen 1によって、さまざまなアプリをパワフルに使うことができる。
6軸ジャイロセンサー内蔵カメラは、より効果的なシチュエーションが少し限られるかもしれないが、これからのシーズン、ウィンタースポーツを楽しむ人は、面白そうな映像を手軽に撮ることができそうだ。防水防塵やおサイフケータイなど、日本仕様もしっかりとサポートしており、安心して選べる一台と言えそうだ。