法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

Leicaトリプルカメラ搭載で写真が楽しくなるSIMフリー端末「HUAWEI P30」
2019年5月21日 14:00
今年3月、フランス・パリにおいて、発表イベントを開催し、フラッグシップモデル「HUAWEI P30」シリーズを発表したファーウェイ。最上位モデルのHUAWEI P30 ProはNTTドコモから発売されることが発表になったが、国内のオープン市場向けには「HUAWEI P30」が発売されることになった。ひと足早くデモ機を試用することができたので、ファーストインプレッションをお伝えしよう。
スマホのカメラをリードするファーウェイ
スマートフォンを構成する要素の中で、ここ数年、各社の競争が激化しているものと言えば、やはりカメラをおいて他にない。
かつて、携帯電話やスマートフォンを構成するハードウェアの進化は、ディスプレイの例などを見てもわかるように、各社の主力モデルが毎年、あるいは2年に一度くらいのペースで新製品を投入し、徐々に進んでいく印象だったが、スマートフォンのカメラについては、この2年ほどで、一気に様変わりしてしまった印象だ。
そのトレンドのひとつを作り出したのがファーウェイだ。
2015年に発売された「honor 6 plus」で、はじめて背面に2つのカメラを搭載し、被写界深度の差を活かすことで、奥行きのあるシーンで撮影すると、撮影後にピントが合う位置を調整できる機能を実現した。当初は「ピントが合う位置を変更できるのは面白いかもしれない」という評価だったが、一眼レフで撮影したときのように、ボケ味の利いた写真を撮影できるというトレンドを作り出すきっかけとなった。
ファーウェイのマルチカメラという取り組みは、ドイツの老舗光学機器メーカー「Leica」との協業により、大きく進化を遂げることになる。2016年4月に発表された「HUAWEI P9」では、カメラの心臓部であるイメージセンサーにモノクロセンサーとカラーセンサーを搭載し、モノクロセンサーで得た明暗情報をカラーセンサーで得た情報に組み合わせることで、それまでのスマートフォンにはなかった高品質な写真の撮影を可能にした。
その後、Leicaとの協業によって開発されたカメラは「Leicaカメラ」として、ファーウェイのHUAWEI Pシリーズ、HUAWEI Mateシリーズに展開され、2017年10月発表の「HUAWEI Mate 10 Pro」では初のAI対応による被写体認識、2018年3月の「HUAWEI P20 Pro」では5倍のハイブリッドズーム、2018年10月発表の「HUAWEI Mate20 Pro」では広角と光学3倍と超広角のトリプルカメラ搭載というように、ライバルメーカーに先駆けて、多彩な機能を搭載し、スマートフォンのカメラをリードし続けている。
最強モデル「HUAWEI P30 Pro」のバリエーションモデル
今回発表された「HUAWEI P30」は、2019年3月、フランス・パリで発表されたHUAWEI P30シリーズの2機種のうちの1機種になる。
HUAWEI P30シリーズは「Rewrite The Rules of Photography(写真撮影のルールを書き換える)」というキャッチコピーからもわかるように、スマートフォンのカメラをさらに進化させたモデルとして、仕上げられている。
上位モデルとなる「HUAWEI P30 Pro」については、すでにグローバル版のファーストインプレッションをお伝えしたが、5月16日に開催されたNTTドコモの発表会において、国内向けにはNTTドコモから「HUAWEI P30 Pro HW-02L」として発売されることが発表された。
普及モデルの「HUAWEI P30」についてはSIMフリースマートフォンとして、家電量販店やオンラインショップなどを通じて、国内のオープン市場向けに展開される。HUAWEI P30を『普及モデル』と表現したが、スペックや機能を見比べると、上位モデルとほとんど変わらない仕様となっており、ミッドハイクラスのバリエーションモデルという位置付けに近い。
フラットなボディに6.1インチディスプレイを搭載
まず、外観からチェックしてみよう。昨年のHUAWEI P20シリーズはそれまでのHUAWEI P10シリーズなどと同じように、コンパクトでフラットなボディデザインが採用されてきた。
今年3月に発表されたモデルの内、HUAWEI P30 Proはディスプレイの左右両端を湾曲させる流線形のボディデザインを採用したのに対し、HUAWEI P30は従来のHUAWEI P20などと同じように、前面はフラットなディスプレイを備えたスタンダードなデザインを採用している。
背面側はわずかに両端を湾曲させており、手にフィットする形状に仕上げている。ボディ幅も71.36mmに抑えられており、iPhone XRの75.7mmなどと比べても持ちやすい。
ボディ右側面には電源キーと音量キー、左側面にはピンで取出すタイプのSIMカードトレイ、下部にはUSB Type-C外部接続端子と3.5mmイヤホンジャックを備える。3.5mmイヤホンジャックは従来のHUAWEI P20や上位モデルのHUAWEI P30 Proにも備えられておらず、HUAWEI P30独自の特長のひとつとなっている。
ディスプレイは2340×1080ドット表示が可能なフルHD+対応6.1インチOLED(有機EL)を搭載する。従来のHUAWEI P20ではディスプレイの上部に凹型のノッチ(切り欠き)があったが、HUAWEI P30ではノッチがしずく型となり、後述するように、指紋認証センサーがディスプレイ内に移動し、レシーバー(受話口)も内蔵のマグネット式スピーカーに変更されたことで、本体前面のほとんどをディスプレイが覆う仕上がりとなっている。
本体には3650mAhの大容量バッテリーを内蔵しており、付属のACアダプタにより、急速充電に対応する。HUAWEI P30 Proが対応するワイヤレス充電には対応しない。防水防塵はIP53となっており、上モデルのHUAWEI P30 Proやライバル機種が対応するIP68に比べると、性能が抑えられている。雨に降られたときなど、一般的な用途であれば、あまり問題にならないだろうが、防水防塵性能が上位モデルほど高くないこと(これでも十分なレベルだが……)はある程度、意識して、使うことをおすすめしたい。
ディスプレイにはHUAWEI Mate 20 Proに続き、光学式の指紋認証センサーを内蔵する。有機ELディスプレイの内側に指紋認証センサーが内蔵されており、内側から光を当てて、指紋を読み取る。読み取り位置は画面上で光るため、迷うことはなく、指紋認証時のアンロック速度も従来に比べ、30%改善されているという。実際に何度も操作したが、ストレスなく使うことができた。指紋認証がうまくいかないときは、顔認証も搭載されているので、こちらと併用する形で使えるはずだ。
チップセットはHUAWEI P30 Proと同じKirin 980を搭載する。従来のKirin 970から、デュアルNPUにするなどの改良が加えられている。メモリーは発売される国と地域によって、仕様が異なるが、国内向けはRAM 6GB、ROM 128GBのモデルが投入される。
プラットフォームはAndroid 9 Pieをベースに、ファーウェイ製のユーザーインターフェイス「EMUI 9.1」を組み合わせている。EMUIではAndroidプラットフォームの操作に欠かせないナビゲーションキーをカスタマイズできるが、HUAWEI P30では出荷時設定が[ホーム]キー、[戻る]キー、[履歴]キーを画面最下段に表示する「3つのキーによるナビゲーション」から、上方向へのスワイプでホーム画面を表示する「ジェスチャー」に変更されている。少し慣れが必要だが、画面をより広く使うことができる。ホーム画面はすべてのアプリをホーム画面に表示する「標準」、ボタンのタップでアプリ一覧を表示する「ドロワー」の両方を選べるようにしている。
モバイルデータ通信の対応バンドなどについては、本誌記事を参照していただきたいが、今回試用した範囲ではNTTドコモ、au、ソフトバンクのそれぞれのネットワークを利用したMVNO各社のSIMカードも利用することができた。デュアルSIMデュアルVoLTEにも対応する。少し変わったところではGPSが複数のチャンネルに対応しており、位置情報をより早く正確に測位できるという特徴を持つ。カーナビやトレッキングなど、屋外での利用だけでなく、信号が弱くなってしまうビル街などでも効果を発揮するはずだ。
新開発「RYYB」センサーによるLeicaトリプルカメラを搭載
さて、HUAWEI P30と上位モデルのHUAWEI P30 Proとの大きな違いのひとつに、カメラが挙げられる。
グローバル版を試用したファーストインプレッションでもお伝えしたように、HUAWEI P30 ProにはLeicaクアッドカメラが搭載される。これに対し、HUAWEI P30にはLeicaトリプルカメラが搭載される。つまり、上位モデルには4つのカメラが搭載され、HUAWEI P30には3つのカメラが搭載されているわけだ。ただ、両機種のカメラはまったく別物というわけではなく、イメージセンサーなど、一部は共通仕様となっている。
HUAWEI P30のLeicaトリプルカメラは、広角、超広角、3倍望遠から構成される。メインで利用する広角カメラは4000万画素のイメージセンサーにF1.8の27mm相当(35mm換算)のレンズ、ワイドに撮影できる超広角カメラは1600万画素のイメージセンサーにF2.2の17mm相当(35mm換算)のレンズ、遠くを撮影するときに便利な3倍望遠カメラは800万画素のイメージセンサーにF2.4の80mm相当(35mm換算)のレンズを組み合わせる。
望遠カメラに光学手ぶれ補正を搭載するほか、いずれのカメラもAIを利用した手ぶれ補正に対応する。フォーカスはレーザーAF、位相差AF、コントラストAFに対応する。本体前面のディスプレイ上部に内蔵されたフロントカメラは、3200万画素のイメージセンサーにF2.0のレンズを組み合わせている。
これらのカメラの内、注目されるのは背面の広角カメラに採用されている新開発の「RYYB」イメージセンサーだ。イメージセンサーのカラー配置を一般的なRGGB配列(Red/Green/Green/Blue)から、RYYB(Red/Yellow/Yellow/Blue)配列に変更することで、約40%以上、多くの光を取り込み、暗いところでも明るく写真を撮影できるようにしている。センサーそのもののサイズもiPhone XS MaxやGalaxy S10+などのライバル機種が1/2.55インチのセンサーを採用しているのに対し、HUAWEI P30はHUAWEI P30 Proと同じ1/1.7インチのセンサーを採用している。
実は、ファーウェイは昨年のHUAWEI P20 ProとHUAWEI P20まで、冒頭で説明したモノクロセンサーとカラーセンサーの組み合わせる手法で、暗いところでも独特の雰囲気を感じさせる非常に美しい写真撮影を可能にしていたが、今回は新しい世代へ進化させることを考え、イメージセンサーそのものからセンサーメーカー(おそらくソニーセミコンダクタソリューションズ)と共同で開発することで、新世代のカメラを作り出している。ちなみに、業界関係者によれば、こうしたイメージセンサーの構造そのものを変更してしまうようなものを特定の端末メーカーと共同で開発することは非常に珍しく、イメージセンサーを製造するメーカーとの密接なコミュニケーションによって、作り出されたものだという。
実際に撮影した印象については、作例を見ていただいてもわかるように、暗いところでの撮影、屋外での撮影、人物なども非常に高いクオリティで撮影することができている。遠くの写真を撮るのであれば、ハイブリッド10倍望遠や50倍デジタルズームを搭載する上位モデルにアドバンテージがあるが、HUAWEI P20も光学3倍、ハイブリッド5倍、30倍デジタルズームでの撮影が可能であり、AIによる被写体認識や画像処理なども同等の性能が利用できることを考えれば、上位モデルに遜色のない活用が可能と言えるだろう。
Leicaカメラで写真を撮る楽しみが拡がる一台
ここ1~2年、ハイペースに進化してきたスマートフォンのカメラだが、冒頭でも説明したように、Leicaの協業によって作り出されたファーウェイ製端末のカメラは、カメラ業界でも高い評価を受けてきた。今回のHUAWEI P30に搭載されたカメラは、その評価に満足するのではなく、もう一歩、上を目指して開発されたモデルだ。メインとなる広角カメラのイメージセンサーには上位モデルのHUAWEI P30 Proと同じものが採用されており、AIによる被写体認識や画像処理などは同じものが使われ、誰でも簡単に美しい写真を撮ることができる。もちろん、カメラだけでなく、基本的なユーザビリティやパフォーマンスも優れており、本体のデザインや仕上がりも良く、非常に満足感の高い一台と言えそうだ。
少し悩ましいのは価格設定だろう。7万7800円(税抜)という価格は、性能を考えれば、十分にお買い得と言えるが、5月16日に発表されたNTTドコモ版のHUAWEI P30 Proが思いの外、安く、9万円を切る価格が設定されたため、グローバルモデルに比べ、上位モデルとの価格差が少なくなってしまった。とは言うものの、SIMフリー端末として購入できるのは、HUAWEI P30であり、NTTドコモ以外のユーザーやMVNO各社のユーザーにとっては、こちらがファーストチョイスになる。ライバル機種との比較についてもLeicaカメラやAIによるパフォーマンスなど、さまざまな面でアドバンテージがある。Leicaカメラを中心に、スマートフォンを存分に楽しみたいユーザーには、要チェックの一台と言えるだろう。