法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
手頃な価格でGoogleのAIテクノロジーを楽しめる「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」
2019年5月15日 19:28
5月7日、米国で開催された開発者向けイベント「Google I/O」において、Googleはミッドレンジのスマートフォン「Pixel 3a」と「Pixel 3a XL」を発表した(関連記事)。国内ではGoogleストアでの予約を5月8日から受け付けており、5月17日から販売が開始される予定で、ソフトバンクからの発売も明らかになっている(関連記事)。発売に先駆けて、ひと足早く実機を試すことができたので、ファーストインプレッションをお送りしよう。
Googleのリソースを最大限に活かすスマートフォン
検索サービスとしてスタートしたGoogle。今や「Amazon」「Facebook」「Apple」と合わせ、『GAFA』と称される巨大企業として語られることが増えているが、スマートフォンのユーザーにとっては欠かせない存在であることも確かだ。スマートフォン向けのAndroidプラットフォームをはじめ、「Gmail」や「Googleマップ」、「Googleドライブ」「Googleカレンダー」「Google翻訳」「Chrome」など、さまざまなサービスを提供し、私たちユーザーはそれらを日常的に利用している。
そんなGoogleが手がけるスマートフォンがPixelシリーズになる。かつてGoogleは端末メーカーと共同で開発した「Nexus」シリーズというスマートフォンを提供してきた実績があり、国内でも「GALAXY Nexus」(サムスン製)、「Nexus 4」「Nexus 5」(LGエレクトロニクス製)や、「Nexus 6P」(ファーウェイ製)、「Nexus 6」(モトローラ製)などが発売された。Nexusシリーズは元々、開発者向けのリファレンス端末という位置付けだったが、いち早く最新のAndroidプラットフォームを体験できるため、国内でも人気を集めた。しかし、Nexusシリーズの端末はすでにプラットフォームのバージョンアップがAndroid 8.0/8.1で終了し、アップデートの保証期間も2018年11月に終了している。
このNexusシリーズと入れ替わるような形でスタートしたのがPixelシリーズで、スマートフォンとしては2016年4月に初代モデル「Pixel」と「Pixel XL」が発表されている。しかし、翌2017年に発表された「Pixel 2」と「Pixel 2 XL」も含め、日本向けには発売されなかった。ようやく昨年の2018年11月に三代目モデルとなる「Pixel 3」「Pixel 3 XL」が発売され、Google自ら販売するほか、NTTドコモとソフトバンクのラインアップにも加わった。ちなみに、「Pixel」というシリーズ名は当初、Googleが手がけるChromebookなどに使われたが、現在はスマートフォンのみに付けられており、実質的にスマートフォンのシリーズ名として扱われている。
PixelシリーズがかつてのNexusシリーズと大きく方向性が異なるのは、Nexusシリーズが前述のように、リファレンスモデルとして開発されていたのに対し、PixelシリーズはGoogleが持つソフトウェア、ハードウェアの技術に、Googleアシスタントに代表されるAIテクノロジーを組み合わせることで、Googleが提供するさまざまなサービスや技術を最大限に活用できるスマートフォンとして、作り込まれている点だ。リファレンスモデルは実用性よりも開発者向けの『標準仕様』であることに重きが置かれるが、Pixelシリーズは幅広いユーザーをターゲットにした端末であるため、実際に使っていくための『機能』が充実している。
ハードウェアの設計・製造については、台湾のHTCが委託されていたが、2017年にGoogleが同社のスマートフォン部門を買収しており、現在はその部門がPixelシリーズを担当しているという。今回の「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」は、昨年11月に発売された「Pixel 3」「Pixel 3 XL」の普及モデルに位置付けられており、基本的なコンセプトとデザインを継承しながら、筐体の素材を変更し、ハードウェアのスペックなどを抑えることで、手頃な価格を実現している。
上位モデルの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」は昨年のレビューでも説明したように、非常に完成度の高い端末だったものの、価格が10万円前後だったため、なかなか手を出せない人も多かったと言われていた。今回は「Pixel 3a」が4万8600円、「Pixel 3a XL」が6万円と、上位モデルの半額近い価格が設定されている。これに加え、5月17日までに予約すれば、GoogleのPlayストアで利用できる5000円分のコードがもらえるうえ、購入者はYouTube Music Premiumを3カ月間、無料で試すことができる特典も用意される。
5.6インチの「Pixel 3a」と6インチの「Pixel 3a XL」
まず、外観からチェックしてみよう。今回発売された「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」は昨年の「Pixel 3」シリーズでの展開と同様に、ディスプレイサイズや解像度、ボディの大きさ及び重量、バッテリー容量などの仕様に違いがあるものの、基本的にはソフトウェアやカメラ、ネットワークの対応などは共通仕様となっている。どちらの機種を選ぶのかは、基本的にディスプレイサイズとボディサイズ、バッテリー容量などで判断すればいいわけだ。
ボディは上位モデルの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」のデザインを継承しており、背面は塗装の仕上げが若干、異なるものの、ツートーンのデザインは共通となっている。外装パーツ類のレイアウトも基本的には同じで、前面のほとんどをディスプレイが占め、右側面の電源ボタンと音量ボタン、背面に指紋認証センサーとカメラ、下部にUSB Type-C外部接続端子を備える。
「Pixel 3」「Pixel 3 XL」では下部の外部接続端子の横に備えられていたSIMカードスロットは、左側面に移動している。外観は見分けがつきにくいが、「Pixel 3a XL」は「Pixel 3 XL」のディスプレイ上部にあったノッチ(切り欠き)がなく、少しすっきりしたデザインと仕上げられている。ただし、後述するように、インカメラはデュアルカメラからシングルカメラに変更されている。
ボディサイズは両機種ともディスプレイサイズが変更されたことで、幅、高さ共に数ミリの違いがある。価格差はかなりあるが、ライバル機種と比較すると、ボディ幅はiPhone XSの70.9mmに対し、Pixel 3aは70.1mm、iPhone XRの75.7mmに対し、Pixel 3a XLは76.1mmとなっており、ほぼ同サイズで、手に持ったときの印象も大きく変わらない。ボディカラーは両機種ともジャストブラック、クリアリーホワイト、パープルの3色がラインアップされており、専用の背面カバーなどのアクセサリー類も販売される。
ディスプレイは「Pixel 3a」が2220×1080ドット表示が可能なフルHD+対応5.6インチOLED(有機ELディスプレイ)、「Pixel 3a XL」が2160×1080ドット表示が可能なフルHD+対応6インチOLEDをそれぞれ搭載する。上位モデルの「Pixel 3」がフルHD+対応5.5インチOLED、「Pixel 3 XL」がQHD+対応6.3インチOLEDだったため、「Pixel 3a XL」についてはコストダウンのため、スペックが抑えられている。ただし、「Pixel 3 XL」の6.3インチという対角サイズはやや大きめのノッチを備えた形状のものであり、解像度が違うものの、中央部分の縦方向の長さという点ではほぼ同じで、ブラウザなどで表示したときの情報量は変わらない。
OLEDの10万対1の高コントラストは同じだが、「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」はUHDA認証によるHDRをサポートしておらず、前面のガラスもGorilla Glass 5ではなくなっている。アンビエント表示(Always-on Display)などの表示機能はサポートされ、現在流れている音楽の曲名を待機画面に表示する「この曲なに?」(Now Playing)は利用できる。
FeliCaを搭載し、Google Payに対応
バッテリーは「Pixel 3a」が3000mAh、「Pixel 3a XL」が3700mAhを搭載しており、「Pixel 3」の2915mAh、「Pixel 3 XL」の3430mAhよりも大容量化している。パッケージにはUSB-PD 2.0対応のUSB-C 18Wアダプターが同梱されており、18Wの急速充電に対応し、15分で最大7時間の利用が可能な充電ができる。従来モデルが対応していたワイヤレス充電には対応しない。バッテリーが大容量化し、ディスプレイの解像度が抑えられていることもあり、バッテリー駆動時間は上位モデルの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」よりも長くなっている印象だ。
ボディ周りで違うのは防水・防塵の対応で、上位モデルの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」がIP68対応だったのに対し、「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」はIP52対応となっている。IP5Xは粉塵からの保護に対応することを表わしているが、IPX2は「鉛直から15度の範囲で落ちてくる水滴に有害な影響を受けない」となっており、実質的には「防滴」仕様のレベルであり、一般的な防水・防塵対応端末よりは慎重に扱った方が良さそうだ。
チップセットは米Qualcomm製Snapdragon 670を搭載する。他機種ではあまり採用例が少ないチップセットだが、ミッドレンジからミッドハイモデルを狙ったチップセットとされている。メモリー(RAM)は4GB、ストレージ(ROM)は64GBとなっており、外部メモリーカードはサポートされない。写真や動画をたくさん撮影するユーザーにとっては、ストレージに少し不安があるかもしれないが、Googleフォトを活用し、クラウドにアップロードしていく使い方が適している。「Titan M」と呼ばれるセキュリティモジュールは上位モデルから継承されているが、画像処理や機械学習をハードウェアで処理するコプロセッサ「Pixel Visual Core」は搭載されていない。
プラットフォームは最新のAndroid 9 Pieが搭載される。ユーザーインターフェイスもAndroid標準を採用しており、ホーム画面から上方向にスワイプすると、タスク一覧が表示され、画面中段以上までスワイプすると、アプリ一覧が表示される。最近では同じAndroid 9 Pieを搭載しながら、GalaxyやスマートフォンAQUOSがホーム画面から上方向にスワイプするだけで、アプリ一覧が表示されるユーザーインターフェイスを採用しているが、個人的には「Pixel 3a」や「Pixel 3a XL」などで採用されているユーザーインターフェイスの方がアプリ一覧を表示するときに引っかかるような印象があり、今ひとつ慣れない。好みの問題でもあるが、ユーザーインターフェイスを切り替えられるような仕様になっているとうれしいのだが……。ちなみに、プラットフォームについては3年間のOSのバージョンアップ、毎月のセキュリティアップデートが保証されており、安心して使うことができる。
Googleアシスタントについては[ホーム]キーの長押しで表示できるほか、従来モデルに引き続き、本体側面を握る(スクイーズする)ことで、Googleアシスタントを起動する「Active Edge」も継承されている。
日本向けモデルのみの仕様となるが、FeliCaを搭載しており、おサイフケータイ、Google Payを利用することができる。背面にはおサイフケータイのロゴがプリントされていないが、指紋認証センサーの真下あたりに内蔵されているようで、カードリーダーの機能を起動し、Suicaなどの非接触ICカードをかざすと、内容を読み取ることができる。背面には「Pixel Imprint」と呼ばれる指紋認証センサーが内蔵されており、指紋を登録しておくことで、ロック解除などに利用できる。
AIで写真撮影を進化させるGoogle
昨年11月に発売された上位モデルの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」は、背面に搭載されたカメラがシングルながら、Googleの機械学習を活かしたAIにより、ポートレートモードでボケ味の利いた写真を撮影できるほか、発売後のバージョンアップにより、夜景モードが追加されるなど、マルチカメラを採用する他のスマートフォンとは違った方向性で進化を遂げている。
今回の「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」も基本的に同じ方向性で仕上げられており、背面カメラのセンサーやレンズも同じものが採用され、同じようにボケ味の利いた写真や暗いところでの撮影にも強さを発揮している。
カメラの仕様としては、背面カメラが12.2メガピクセル、画素サイズ1.4μmのイメージセンサーに、F1.8のレンズを組み合わせており、デュアルピクセルによる位相差検出AF、光学式及び電子式手ぶれ補正にも対応する。前面カメラは8メガピクセル、画素サイズ1.12μmのイメージセンサーに、F2.0のレンズを組み合わせ、フォーカスは固定となっている。前面カメラのスペックが抑えられたことはセルフィー重視のユーザーにとって、気になるかもかもしれないが、前面カメラでもAIを活かしたポートレート撮影を実現しており、被写体(自分)を際立たせた写真を手軽に撮ることができる。
撮影モードについては基本的に上位モデルの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」と共通で、「写真」や「ポートレート」をはじめ、「パノラマ」「動画」を選ぶことができ、「その他」には「夜景モード」「360度パノラマ」「フォトブース」「スロモ録画」「Playground」「レンズ(Googleレンズ)」が用意され、新たに「タイムラプス」も追加された。
実際に、人物や屋内外で撮影してみたが、環境に大きく左右されることなく、バランス良く撮影することができた。なかでもポートレートは面白いように背景がボケるが、シチュエーションによっては「ちょっとやり過ぎ?」と感じてしまうほど、メインの被写体が際立った写真を撮ることができた。
ただ、ひとつ気になったのはカメラを起動し、撮影モードによって、画角が大きく変わってしまう点だ。「写真」と「ポートレート」では被写体との距離が数十cm違うような画角の変化で、最初は戸惑ってしまう。この画角の違いは上位モデルの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」と共通の動作で、カメラモジュールの仕様もそのまま受け継いだということだろう。
また、上位モデルの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」では撮影時、AIによる画像処理が働くため、保存に少し時間がかかるという指摘があったが、ソフトウェア処理の最適化とユーザーインターフェイスの見直しにより、ストレスなく、撮影できるようにしている。具体的には、背面カメラの場合、多くの端末が撮影直後にプレビュー画面を表示しているのに対し、「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」はプレビューを表示せずに、バックグラウンドで画像処理を続けつつ、ファインダー画面では次の写真を撮影できるようにしている。たとえば、連続して、何枚も撮影するような使い方でもタイムラグを感じさせることはない。ただし、前面カメラでポートレート撮影をしたときは、やや処理に時間がかかり、使い方によってはストレスが残る印象だ。
また、上位モデルの「Pixel 3」「Pixel 3 XL」で好評を得た「Top Shot」も継承されている。写真を撮影するとき、シャッターを押すタイミングがずれてしまい、誰かが目を閉じていたり、風で髪型が崩れていたり、目線がずれているといったことが起きやすいが、ファインダー上段の[モーション]を[自動]や[ON]に設定することで、撮影時に複数枚を連続で撮影し、ベストな写真をピックアップすることができる。普段から[自動]のままでもかまわないが、人物を撮影するなど、「ここぞ」というときに「ON」に切り替えて撮影すれば、より確実に撮影できるだろう。
ソフトウェア、ハードウェア、AIで進化する「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」
Googleによるスマートフォンというと、かつてのNexusシリーズのイメージが強く、どちらかと言えば、「玄人受け」するリファレンス端末という印象があったが、昨年11月に登場した「Pixel 3」「Pixel 3 XL」は明確に方向性を転換し、「Googleのハードウェアとソフトウェア、AIを活かしたスマートフォン」として仕上げられていた。
今回発売された「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」は、この方向性をしっかりと継承しており、Googleのサービスを最大限に活用できるスマートフォンとして仕上げられている。なかでもシングルカメラながら、ボケ味の利いた写真が撮影できるポートレートモードをはじめ、GoogleアシスタントやGoogleレンズといった機能も充実しており、ユーザーがいろいろと試しながら使っていく楽しみを用意している。
しかも商品としての魅力やユーザビリティを大きく下げることなく、上手くコストダウンを図っており、上位モデルの半値近い価格を実現している。
今年は各携帯電話会社による端末購入補助が廃止され、完全分離プランへ移行するため、多くのユーザーが端末価格に敏感になるタイミングであり、お手頃価格で上位モデルとほぼ同等の機能が利用できる「Pixel 3a」「Pixel 3a XL」は非常に魅力的な選択肢と言えそうだ。
気になる点としては、防滴レベルに抑えられた防水・防塵対応、ワイヤレス充電非対応、グローバル向けから削除されたeSIM対応などが挙げられるが、国内ではニーズの高いおサイフケータイには引き続き対応しており、各携帯電話会社の扱うスマートフォンから移行するユーザーのニーズにもしっかりと応えられる製品に仕上げられている。昨年の「Pixel 3」「Pixel 3 XL」がそうであったように、今後、バージョンアップなどで、さらにGoogleが提案する新機能がいち早く体験できることも他機種にはないアドバンテージだ。手軽にGoogleのサービスを便利に活用したいユーザー、最新のAndroidプラットフォームを体験したいユーザーを中心に、おすすめできるスマートフォンと言えるだろう。