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イスラエルでスマホとキャッシュレスはどこまで進んでる?

 9月中旬にイスラエルを訪問してきた。インテル(Intel)が主催した「Intel Technology Tour 2022」というイベントだが、イスラエル国内にある同社の拠点を巡りつつ最新の取り組みを取材することが目的だ。テクノロジーでは世界でも最先端を走る同国において、スマートフォン活用やキャッシュレスがどのように進んでいるのかをあわせて見てきたので紹介したい。

イスラエルのヤッファ旧市街の夕暮れ。聖書などでも言及される古代からある港町だ

ahamoローミング回線の罠

 まず事前準備として現地で必要になる通信回線だが、現在イスラエルと日本を結ぶ直行便はない。筆者の場合は先方が用意したチケットで、往路はエミレーツ航空のドバイ経由、復路はオーストリア航空のウィーン経由で飛ぶため、少なくともその3カ国で使えるものがほしい。

 通常であれば1回線あれば十分かと思うが、取材で外出時間が長くなることを考慮して念のため2回線用意しておくことにした。

 1回線目は標準で20GBの海外ローミングが可能なahamoを新たに契約して使い古しのPixel 3に、2回線目には対応エリアの多いAISの「SIM2Fly」をAmazon.co.jp経由で購入してPixel 5にそれぞれ投入した。Pixel 5は米国の友人宅で1年間眠っていたものをサルベージした状態のままで使い道がなかったが、今回初めて起動させてセットアップしている。

2回線目として導入したAISの「SIM2Fly」。15日間6GBで4000円

 回線以外の準備としては、イスラエルの入国手続きがある。コロナウイルスの感染状況が落ち着いた今であれば日本人はビザなしで問題なく入国できるが、コロナワクチン接種状況や陽性からの回復を事前に申告する「入国フォーム」への記載のほか、健康保険の加入と証明書の提示が求められる。

 結論からいうと、後者は最後まで証明の提出を求められることはなかったが、入国フォームについてはワクチン接種証明の提示が必要だ。紙の証明書に記されたQRコード、もしくは接種証明アプリのQRコード(VDS-NCのほう)をWebサイトにアップロードするだけで、すぐに審査証明書がPDF形式で発行される。

 このほか、イスラエルは出入国に際して長い質問や入念な荷物検査があることで知られるが、この審査を素早く通過するための「招待状」が今回はインテルから発行されており、紙で印刷したものとPDF形式のデジタルデータの2種類を用意しておいた。作戦としてはワクチン接種の審査証明を含め、入国に必要な書類はGoogle ドライブにアップロード、必要に応じて画面を見せる。紙を用意するのは念のためだが、今回はスマートフォンの提示のみで済んだので非常に楽だった。そのためにも携帯回線は必要なので、ローミングは2回線用意させてもらった。

 さて最初の中継地点のドバイだが、Pixel 3とPixel 5の機内モードを解除して利用を開始するとAISの回線が早速つながったので、Wi-Fiテザリングをオンにしてすべてのデバイスをぶらさげる。

 パソコンで調べ物をするときに空港の無料Wi-Fiにつないだ以外は、乗り継ぎ時間の4時間弱の間ずっとAISの回線を利用していたが、速度や圏外の不満も特になく快適に利用できている。そのままテルアビブ行きの飛行機に乗り込む直前までいったのだが、そのときふと「そういえばahamoはどうなった?」ということを思い出してPixel 3の画面を確認すると、到着から3時間以上経過するのに、いまだにつながる気配がない。

 これはさすがにおかしいということでahamoのサポートページを見ていると、なんとドバイ(UAE:アラブ首長国連邦)はローミングの対象外。目的地のイスラエルが対応しているのは救いだが、ドバイほどのメジャー都市が未対応というのはチェックミスで盲点だった。UAEが目的地で、数日以上滞在するなら気をつけたい。

ドバイ空港に到着。AISはすぐにつながったが、ahamoがなかなかつながらないのでサポートページを参照すると……
なんとドバイはahamoのローミング対象エリア外。同国滞在の場合は注意したい

イスラエルで移動手段を確保する

 イスラエル到着初日に5時間ほどだけフリータイムがあったので、ホテルのあるテルアビブ市内からエルサレムまで訪問して戻ってこられないかと考えた。

 両都市の移動手段としては主にバスと鉄道があり、どちらも交通系ICカードの「Rav-Kav」で乗車できる。ただ、Rav-Kavのカードをクレジットカードで購入し、残高チャージが可能なのは、到着空港であるベン=グリオン空港などにある限られた場所のみという過去の旅行記があったので、空港を離れるまでになんとかカードを入手したいと考えていた。現金チャージの場合はATMで現地通貨である「シェケル」をキャッシングしないといけないため、余計な現金は持ちたくなかったからだ。

 そこで空港到着ロビー正面にある公共交通情報センターの券売機に突撃してみたところ、決済場面でなぜかカードが認識されない。窓口にいるスタッフに事情を繰り返し説明したところ、有人窓口では現金のみしか取り扱えないの一点張りだったので、「機械の動作がおかしい」ということをようやく理解してもらい券売機をチェックしてもらったところ故障が判明。でも有人窓口ではカード決済ができないことは変わらずで、別の券売機で紙のチケットを発行して鉄道で市内まで移動してから街中でRav-Kavを入手しろという。

 結局、その場は同時間帯に到着した北米メディアの知り合いとタクシーをシェアして市内ホテルまで移動した。

空港ロビーにある公共交通情報センターと「Rav-Kav」の券売機。故障していて動作しなかった

 ホテルの場所はビーチに近くリゾート的には悪くないのだが、クレジットカードでRav-Kavカードが入手できるような券売機のある市の中心部には遠く、ただでさえ時間がないなかで中東の砂漠の日中30度超えの炎天下を1時間近くも歩いて行くのは現実的ではない。

 少し考えながらホテルから10分ほど歩いたところに携帯屋があり、その入り口にRav-Kavカードのマークを発見。カードを購入できるかと思ってスタッフと話したところ、同店を含む市内のあちこちでカードの入手やチャージは可能だが、現金のみしか受け付けていないとのこと。

 仕方がないので、店の前にあった「am pm」というスーパーにあるATMで100シェケル(日本円で約4000円ほど)を下ろし、カード購入代金(最低金額)の20シェケルと合わせ、残りをチャージした。イスラエルは公共交通が割と安めで、テルアビブとエルサレムを鉄道で移動しても15シェケルもしない。結局、エルサレムとの往復とトラム乗車2回、バス乗車4回でも80シェケルの残高は使い切らなかった。

ホテル近くで見つけた携帯屋
携帯屋の入り口にはRav-Kavカードのマークが。ただしカード入手とチャージには現金が必要という
しょうがないので向かいのam pmというスーパーのATMで100シェケルを下ろす
ようやく入手できたRav-Kavカード

聖地エルサレムへ

 イスラエルでひとつ驚いたことに、Google マップで示されるバスの運行時間の正確性がある。

 携帯屋でRav-Kavカードを入手してすぐにエルサレムへの公共交通での移動ルートを検索したのだが、店の前に1分後に到着するバスに乗って中央バスターミナルへと移動し、そこでエルサレム行きの長距離バスに乗り換えろと指示が出てきた。

 慌てていてスクリーンショットを撮り忘れたが、バスが遅延すると「1分遅延」などほぼリアルタイムで情報が更新され、実際にその通りにバスがやってきて乗り換えが可能だ。いろいろ世界中をまわってきたが、ここまで正確な乗り換え情報は初めてで、もしイスラエルに行ってGoogle マップを試す機会があったらチャレンジしてみてほしい。

 こんな感じで交通系ICカード入手に多少手間取ったものの、ホテルを出て1時間半後には無事にエルサレムのバスターミナルに到着できた。

Terminal 2000というバスターミナルに到着。ここでエルサレム行きの480番バスに乗り換える
バスターミナルにある券売機はRav-Kavカードのクレジットカードでのチャージが可能
バスに乗車。ドライバー横の端末にカードをタッチするだけでいい
写真だと分かりにくいが、天井から座席に向かって何本もケーブルが垂れ下がっている。実は各席の頭上にUSBポートがあり、バス移動の30~40分間を使ってデバイスの充電が可能

 エルサレムのバスターミナルは新市街のやや外れにあるので、観光名所の集中する旧市街への移動にはトラムを利用する。

 トラム乗車には車内の検札機にカードをタッチする必要があるのだが、興味深いのは、乗車中の車内はつねに超満員というほど人でごった返しているなかで、検札機まで手が届かない人のためにカードをバケツリレーのように渡していって近くの人が検札機にタッチ、そのまま逆ルートでカードを戻していく光景が頻繁に見られたことだ。

 トラムの乗車時間は10分ほどで、すぐに城壁に囲まれた旧市街の北西の端に到着する。

エルサレムに到着。左の建物がバスターミナルで、右の建物が鉄道のイツハクナボン(Yitzhak Navon)駅。ここは新市街なので、トラムに乗って旧市街の入り口まで移動する
エルサレムのトラムは車内に検札機があるので、ここで乗車後すぐにカードをタッチする。車両が仏アルストトム製なので、検札機もフランス国内でよく見かけるタイプ
エルサレム旧市街北西にある「新門(New Gate)」と呼ばれる入り口に到着。人通りの多い「ヤッファ門(Jaffa Gate)」などに比べるとこぢんまりしていて寂しい

 門を抜けると、城壁の中は古代世界だった。筆者が進入したエリアは旧市街でもキリスト教区と呼ばれる場所で、古い建造物が整然としており、比較的静かで大人しいエリアだ。ときどきアラブ商人が軒を構える“スーク”のような通路はあるものの、道も綺麗でスーツケースを引いて歩いても問題ないほどだ。

 ゴルゴタの丘という名称で呼ばれる、イエス・キリストが処刑されたあとに建てられたという伝説のある聖墳墓教会が位置するのもこのエリアで、次の予定に間に合わせるためにエルサレム滞在猶予時間が2時間を切っている筆者はひたすらに早歩きでチェックポイントを走破していった。

石造りの旧市街。道は滑らかで、スロープも付いていてスーツケース抱えた旅行者にも優しい
エルサレムに限らずイスラエルの旧市街にはどこにでも猫がいて、縦横無尽に走り回ったり、日陰で休んでいたりする
旧市街のスークのような街並み。ここはまだキリスト教区なので整然としているが、イスラム教区のスークはより雑然としていて、商人の客引きも激しい
聖墳墓教会内部にあるイエス・キリストの石墓とされるもの

 聖墳墓教会をざっとまわったあとは、イスラム教区の一部を通過しつつ、ユダヤ教区へと移動する。ユダヤ教区は旧市街の南東の一角であり、「嘆きの壁(Western Wall)」と呼ばれる聖域のあるエリアだ。ほかの教区と違って、このエリアはやや近代的に改装された建物もそれなりにあり、おそらく旧市街で最も綺麗でモダナイズされた場所だろう。

 筆者はイスラエル到着からここまでノンストップで移動してきたこともあり、ほぼ飲み食いなしで15時が近かったこともあってユダヤ教区で軽い食事をすることにした。

 キャッシュがないのでカード決済ができる店舗を探しながらの移動だったが、実際にはそんな心配は不要で、露天のような店でも非接触対応カード決済端末が設置されており、スマートフォンを“タッチ”するだけで支払いが完了する。立ち食い店舗で地元料理の「ファラフェル」と呼ばれる豆をボール状にしたサンドを食べてみたが、これもカード払いで問題なかった。

 嘆きの壁を見学しつつ、時間がないのでそのまま旧市街を出てトラムでバスターミナルの場所へと戻り、今度は鉄道でテルアビブまで戻ることにした。本数は1時間に1~2本程度だが、30分でテルアビブ市内に到着できるため、時間さえ合わせれば渋滞に巻き込まれないぶんバスより正確な移動がしやすい。やはり帰りも改札機にRav-Kavカードをタッチしてダブルデッカーの車両に乗車。この車両も席に電源が設置されており、デバイスと充電器があれば移動しながらの充電が可能なようだ。

嘆きの壁と岩のドーム。写真で見て分かると思うが、エルサレムの街は意外とアップダウンが激しいので、旧市街をくまなくまわろうと思うとけっこうな運動になる
エルサレムの鉄道駅のイツハクナボン駅。2018年にできたばかりの駅であり、旧市街を含む市内へのアクセスが格段に良くなっている
鉄道駅の改札機もRav-Kavカードを使って乗車する
鉄道のプラットフォーム。地下80メートルに位置し、地上からはエスカレーターとエレベーターを複数回乗り継いでアクセスする。核シェルターの用途を想定しているという話で、この手の建造物の入り口のセキュリティチェックはかなり厳しい

そういえば携帯電話の話があまりなかったよね

 冒頭のローミング話と交通系ICカード、キャッシュレスについては触れたが、スマートフォンの話があまりなかった気がする。

 イスラエルで行動中は地図や情報チェックをこまめに行いつつ、写真撮影も含めスマートフォンをずっと使い続けてきたわけで、6台もイスラエルに持ち込んだ割には、一日の終わりにはほとんどのデバイスのバッテリーが空に近い状態だった。そんななかで現地の携帯事情に少し触れてみたい。

 イスラエルは割と裕福な国なので、テルアビブ市内のショッピングセンターなどでは、ちょうど発表されたばかりのGalaxy Z Flip4やFold4がさまざまな場所で宣伝されており、目玉商品として見かけることも多かった。

 ただ、端末価格はシャオミ(小米)のミドル端末でさえ10万円近かったりと、いまの円安水準ではわざわざイスラエルで買い物をするほどの興味はわかない。だが筆者の同業者で今回のインテルツアーに参加していた某氏のスマートフォンがツアー初日に突如動作不能になってしまい、緊急で端末を入手する必要があり、ちょうどモールで予定があった筆者が端末の代理購入を行った。

 日本入国に際して待機措置を避けるには、MySOSアプリをスマートフォンに入れてワクチン接種証明書を事前に提示する必要があり、またツアーでの各種連絡にスマートフォンは必須のもの(WhatsAppが連絡ツールだった)。

 なので某氏からは「予算3万円ほどで端末探してきて」という依頼があり、唯一予算に収まる端末だったGalaxy A03を購入してきた。チップセットはUNISOC T606なので性能はお察しだが、価格が549シェケル(約2万2500円)と要件を満たしている。

 最新のハイエンド端末については軒並み20万円にリーチしているので、円安とテルアビブの物価の高さをあらためて実感する。

テルアビブのアズリエリセンターにあったRedという携帯ショップ
Galaxy A03を購入する。これでも日本円で2万2500円ほどで、一昔前ならミッドレンジの端末が買えた値段だ

 また現地のサービス事情だが、タクシー配車アプリとして「Gett」があり、同国で細かい移動や急いでいるときは重宝することになる。バス網の発達するテルアビブ地域圏だが、必ずしも観光客にとって理想の動きができるわけでもなく、このような移動手段を確保しておくと非常に便利だ。

 実際、人の移動の多い時間帯はGett利用客でほとんどのタクシーが埋まってしまい、道ばたで手を挙げて捕まえるのが非常に困難なほど。また、テルアビブはナイトライフが非常に充実しており、22時を過ぎてもレストランが開いていたりと食事に困らない。

 これはフードデリバリーも同様で、日本では深夜に配達を停止してしまうサービスも多いなか、真夜中でも水色のバッグをかついだドライバーを多数見かける。イスラエルで一番シェアを獲得しているのは先日ドアダッシュ(DoorDash)との合併が完了したウォルト(Wolt)で、中心部の目抜き通りなどでバスを待っていると、10分ほどの待ち時間に何十台ものバイクが通過していくほどだ。それだけスマートフォンを利用するユーザーが多いことの証左でもある。

イスラエルでタクシー配車を行うGettアプリ
Gettでドライバーを呼び出しているところ。使い勝手はほかの競合アプリとほぼ同じ
イスラエルではWoltのバッグをもったドライバーを非常によく見かける