石野純也の「スマホとお金」

「スマホを海外で使うならどこの料金が良い?」徐々に復活する海外渡航、携帯各社の料金体系を比較する

24時間プランが登場して以降、海外でのデータローミングが利用しやすくなっている。ここでは、4キャリアぶんの海外ローミングプランをまとめた

 前回、本連載で紹介したソフトバンクの「アメリカ放題」は、国際ローミングの中では異例の料金体系。しかもアメリカ限定。例外はあるものの、データ通信を利用する場合、通常は別途、データローミング料が発生します。ざっくり言えば、ドコモ、KDDIとソフトバンクで体系が異なるほか、ドコモのahamoや楽天モバイルのように、ローミング料そのものは無料になるケースもあります。

 23日には、海外渡航の最大の“関所”になっていた、帰国72時間前のPCR検査が条件付きで免除されることが発表されました。それに伴い、今後は海外旅行、海外出張が徐々に回復していくはずです。国際ローミングの需要も、高まることが想定されます。海外渡航需要が激減する中でも、料金が改定されてきたことを踏まえ、ここで改めて各社の料金体系をチェックしていきましょう。

24時間980円からのドコモとKDDI、「まとめ買い」や「事前予約」で割引も

  24時間単位でデータローミングを提供しているのが、ドコモとKDDI です。どちらも、専用アプリから申し込むことで、簡単にデータローミングを有効にできます。料金はほぼ横並びで、24時間あたり980円(不課税)。契約している料金プランからデータ容量が消費される点も、共通しています。現地に到着し、海外キャリアのネットワークをつかんだらデータローミングをオンにして、アプリから申し込みを行うだけと手順も簡単です。

端末の設定でデータローミングをオンにしたあと、アプリを開き、プランを選択する。画面はドコモの「パケットパック海外オプション」

 1日単位ではなく、24時間単位で課金されるため、いつ終了するかも分かりやすいです。夜、ホテルに着いたらWi-Fiにつなぎ、翌日の朝、外出する前にデータローミングをオンにするといった使い方をすれば、寝ている時間ぶんだけ料金を節約できます。これも、24時間単位で課金されることのメリットと言えるでしょう。24時間980円でほぼほぼ横並びのドコモとKDDIですが、ディテールは少々異なります。

 ドコモは「まとめ買い」で割引が適用されます。一般的なボリュームディスカウントに近い概念で、複数日をまとめて購入すると、そのぶん料金が安くなります。料金は3日間(72時間)だと2480円、5日間(120時間)だと3980円、7日間(168時間)だと5280円に設定されています。それぞれ、24時間ずつ契約したときとの差額は、それぞれ460円、920円、1580円。1週間ぐらい滞在する場合は、最初から7日間プランを選択した方がお得になります。

ドコモのパケットパック海外オプションは、複数日をまとめて購入すると料金が割安になる。ボリュームディスカウントに近い考え方だ
米国など、一部の国では5Gローミングにも対応する。ただし、4Gからの転用エリアが広く、速度はあまり出ないことも

 これに、KDDIの「世界データ定額」は「事前予約」で対抗します。通常は24時間980円ですが、渡航前に予約をしておくことで、料金が24時間490円まで下がります。ただし、490円はキャンペーンという位置づけで、ハワイやアラスカを含むアメリカや、韓国、台湾、香港、マカオ、タイ、プエルトリコ、米領バージン諸島に限定されます。それ以外の国や地域では、早割として料金が690円まで下がります。上記のキャンペーン適用国では半額、それ以外では24時間あたり290円の節約になります。

KDDIの世界データ定額も、コースは24時間単位。ただし、ドコモのパケットパック海外オプションとは異なり、複数日をまとめて購入しても料金は変わらない

 事前に予約するのは、まとめ買いと比べると少々手間ですが、その手間を惜しまなければ、料金はドコモより安くなります。早割の690円でも、7日間なら2030円の割引になり、ドコモで7日間プランを選択したときよりも料金は割安です。渡航が突然中止になったり、予定が変更になった場合でも、1時間前までキャンセルが可能なため安心です。国際ローミングを多用する人にはうれしい料金体系と言えるでしょう。

世界データ定額は、事前予約をすると料金が割安に。米国など、一部の国や地域では半額に下がる

 2社とも、24時間単位のデータローミング以外に、1日最大2980円のデータローミングも提供しています。ただし、明らかに料金が割高で、利用するメリットは少ないです。1日のカウント方法も、日本時間が基準になり、時差の大きな国では使い勝手が悪いです。ただし、こちらは契約しているデータプランを問わず、容量が無制限になるので、国内分のデータ容量を消費しないのは、ほぼ唯一のメリットと言えるでしょう。

ソフトバンクも24時間単位に追従、ただしデータ量の扱いには違いも

 先行して24時間単位のデータローミングを提供していたドコモやKDDIに対し、ソフトバンクもようやく7月に、24時間980円もしくは72時間2940円の「海外あんしん定額」を導入しました。これまで、ソフトバンクのデータローミングには、最大2980円の「海外パケットし放題」とアメリカ限定のアメリカ放題しかなく、アメリカ以外での海外ローミング料が他社と比べて割高になっていただけに、うれしいお知らせと言えるでしょう。KDDIが世界データ定額を開始したのが16年7月のため、実に6年遅れでの導入になりますが、ようやく金額が横並びになりました。

 ただし、データ容量の消費の仕方は、他社と異なります。先に述べたように、ドコモやKDDIは契約している料金プランのデータ容量を消費するのに対し、ソフトバンクの海外あんしん定額では、24時間あたり1GB、ないしは72時間で3GBのデータ容量が付与されます。現時点では、キャンペーンとして、これが3GB、9GBに増えています。この方式には、メリットとデメリットの両面があります。

ソフトバンクも、7月に新サービスを開始。海外あんしん定額で、24時間単位のデータローミングを導入した。データ容量は1GB。ただし、23年7月12日まではキャンペーンで3GBに増量される

 メリットとしては、国内で使うはずだったデータ容量を消費しないことが挙げられます。慣れない国ではスマホの情報に頼ることも多いため、データ容量を消費しがち。うっかりデータ容量を使い切ってしまうと通信速度に制限がかかり、帰国後の使い勝手が悪くなります。海外ローミング用に別途3GBなり9GBなりのデータ容量が付与されれば、こうした心配はなくなります。

 一方で、24時間を選択した場合、1日のデータ容量が制限されてしまうため、ある程度、使い方に気を付けなければならないのはデメリットと言えるでしょう。たとえば、ホテルのWi-Fiの通信速度が遅く(海外あるあるですね)、テザリングに頼ろうと思うと、3GBの容量が制約になります。キャンペーンで72時間が9GBになっているうちはまだいいのですが、1GBとなると、スマホだけで使い切ってしまう可能性も高くなります。

スマホでガンガン通信していると、あっという間に1GBを超えてしまう。キャンペーン終了後にデータ容量が減ってしまうと、魅力が大きく損なわれそうだ

 低容量から中容量の料金プランを契約している場合には、ソフトバンクのメリットがある一方で、データ容量が大きい料金プランの場合には、ドコモやKDDIの方が使い勝手はよくなります。ドコモやKDDIでも、データ容量無制限プランの場合、30GB程度の制限はありますが、24時間単位の容量は決められていないため、日によって変動が多いときに便利です。こうした使い方ができないソフトバンクの海外あんしん定額は、必ずしも“安心”とは言い切れないような気がしています。

データローミングが無料の楽天モバイルとahamo、ただし注意点も

 一方で、楽天モバイルの国際ローミングは、大手3キャリアの主要ブランドとは少々料金体系が異なります。同社は、「マルチIMSI」という技術を採用しており、海外渡航時のみ、SIMカードのIMSIが切り替わります。IMSIとは、SIMカードのSIMカードに割り振られる加入者識別番号。海外でのみ、仏キャリアのOrangeとして振る舞うように設計されています。

iPhoneのフィールドテストモードで確認したIMSI。「h_MCC」が「208」、「h_MNC」が「1」になっており、OrangeのIMSIでAT&Tにローミングしていることが分かる

 ただ、この仕組みは端末側がマルチIMSIに対応している必要があり、一部モデルでは利用ができません。楽天モバイルが公式で扱う端末を利用するのが無難と言えるでしょう。実際、米ハワイでiPhone 13 Proを使って楽天モバイルのローミングを試したところ、IMSIがOrangeのものに切り替わっていました。海外キャリアの電波をつかんだ状態でデータローミングをオンにすると、すぐに通信が始まります。

iPhoneの場合、すぐにAT&Tの電波をつかみ、ローミングが可能な旨を知らせるSMSが届いた

 料金体系も少々特殊で、データローミングそのものに料金はかかりません。ただし、これは2GBまで。以降は、1GBごとに500円の料金が必要になります。渡航期間が短かったり、あまりスマホに頼らなかったりすれば2GBでも十分ですが、テザリングをするなど、ヘビーな使い方には向きません。1週間程度の海外渡航だと、データ容量が足りなくなる人も多そうです。とは言え、2GB追加したとしても料金は1000円。他社のデータローミングと比べれば、まだ割安な設定です。

データローミングは2GBまで無料。ただし、2GBを超えたときには1GBあたり500円で速度制限を解除する必要がある

 もう1つ注意したいのは、使用したデータ量の扱い。データローミング中のデータ使用量も国内ぶんに合算されるため、計画的に利用しないと、ローミング料とは別に、料金が上がってしまう可能性があります。例えば、普段のデータ使用量が2GBのとき、料金は1078円で済んでいますが、これに加えてデータローミングで2GB使うと、料金は2段階目の2178円に上がってしまいます。さらにデータローミング中に2GBを超過し、もう2GB足すと、先に述べたように1000円の料金がかかります。

海外での通信も通信量に合算されるため、段階制の料金プランを採用する楽天モバイルの場合、料金が上がってしまうおそれも。写真は現行料金プランのUN-LIMIT VII

 また、現状、楽天モバイルは「UN-LIMIT VI」から契約していたユーザーに対し、データ使用量が1GB以下のときに1078円をキャッシュバックしています。データローミングが無料だからと言って、1GBを超過すると、これが適用されなくなる点にも注意が必要です。同社は、国内でもKDDIのネットワークにローミングしていますが、データ容量の扱いに関してはそれと同じ。無料とは言え、料金がかかる、または上がるポイントがあることは忘れないようにしましょう。

「UN-LIMIT VI」から契約していたユーザーが、無料だと思って海外で2GB使ってしまうと、キャッシュバックやポイントバックの対象外になってしまう。この点は、注意が必要だ

 データローミングの料金がかからないキャリアは、もう1社あります。それがドコモのahamoです。こちらも、楽天モバイルと同様で、データ使用量は国内ぶんと合算されます。ただし、ahamoに関しては、元々データ容量が20GB一択。オプションの「ahamo大盛り」で加算される80GBはデータローミングに使用できないため、楽天モバイルとは異なり、いつの間にか料金が上がってしまう心配はありません。元々の料金差があるのも事実ですが、この点では、シンプルな料金体系と言えます。

ahamoは、20GBまでデータローミングが無料。データ使用量は、国内ぶんと合算される。ただし、連続利用できるのは15日間まで

 なお、 データローミングが無料の楽天モバイルとahamoに関しては、利用可能な国や地域がやや限られています 。ローミング先を絞ることで、かかるコストを抑えていることが推察できます。楽天モバイルは66、ahamoは82の国や地域をカバーしていますが、ドコモやKDDI、ソフトバンクと比べると見劣りします。それでも、日本人の渡航先はかなりカバーしてはいますが、日本からの渡航者が少ない国や地域に行くときには要注意。この場合、海外専用のSIMカードやeSIMプロファイルを入手するなど、別の手段を検討する必要がありそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya