DATAで見るケータイ業界
キャリアネットワーク仮想化構築の2つの方向
(2016/4/8 08:00)
ソフトバンクとNTTドコモが、自社ネットワークに仮想化技術を導入したと発表した。
ソフトバンクは2016年2月にエリクソンのVirtual Mobility Management Entity(vMME)とOpenStackをベースにしたEricsson Cloud Execution Environment(ECEE)、オーケストレーション用Ericsson Cloud Manager(ECM)を導入、既に商用運用されているという。
またドコモは2016年3月から仮想化されたEPC(vEPC)の運用を開始すると発表している。今回の仮想化に採用されたベンダーはNECとシスコ、エリクソンの3社である。
ドコモのvEPCはETSI NFV(European Telecommunications Standards Institute Network Functions Virtualisation)に準拠したもので、EPCソフトウェアをマルチベンダー環境で動作させることができる仮想化技術の運用としては世界初だという。
当コーナーにおいても過去何度かネットワーク仮想化(NFV/SDN)の動向について取り上げており、その中で2016年頃からキャリアネットワークにNFV/SDNの導入が始まるものと予測していたが、国内大手2社がほぼ同時に運用開始になるとは正直思っていなかった。
興味を引くのはソフトバンクがエリクソン1社のシングルベンダーで仮想化を実現したのに対し、ドコモは前述3社のマルチベンダーで実現したことだ。
ネットワークの仮想化は、これまで高価な専用ハードウェア中心だった通信キャリアのネットワーク構成を、汎用サーバーに置き換えて、ネットワーク機能はソフトウェアで提供しようとするものである。
従来はテレコムベンダーの専用機器に機能を依存していたがゆえに、特定のベンダーを長く採用せざるを得ず、ベンダーロックインが高コストの一因になっていた。NFV/SDNなどの仮想化技術は専用機を用いないため、マルチベンダー化を推し進める要素を元来持っている。
ドコモは国内ベンダー中心でネットワークを構築しており、いわゆるNTT仕様(ドコモ仕様)とも相まって、機器の高コスト体質が課題になっている。今回、ドコモがマルチベンダーで仮想化ネットワークを構築したことは従来からの高コスト体質から脱却する一助となる可能性がある。ドコモは今回採用したベンダー以外にも、ノキア(含アルカテルルーセント)、ファーウェイなどとも仮想化実験を行っている。更なるマルチベンダー化が進むのか注目される。
一方、ソフトバンクはエリクソン1社のシングルベンダーで仮想化ネットワークを構築した。ソフトバンクは従来からネットワークの運用管理をベンダーに依存している部分が多い。現在も基本的にはエリクソンとノキアの2社が主流を占めている。ベンダー主体でネットワークの運用管理をしてもらおうとすれば、1社で構築した方がメリットが出るということも考えられる。
ネットワークの仮想化の特徴の一つは新サービス提供までの時間の短縮にある。ソフトバンクはインフラなどの下位層よりもサービスなどの上位層により注力することになるだろう。
今回の2社の仮想化ネットワーク構築手法は典型的な2つの方法を示したように思える。NFV/SDN市場にはサーバーなどのIT系ベンダーが進出をもくろんでいるが、シングルベンダー化はキャリアネットワーク構築に一日の長があるテレコムベンダーが既存市場を守るための有力な方法として打ち出したものとも言える。今後もキャリアのネットワーク仮想化は進んでいくが、各キャリアがどのような構築方法をとるかに注目していきたい。