ケータイ用語の基礎知識

第983回:「Xperia PRO-I」で採用、像面位相差オートフォーカスとは

像面位相差AFとは

 像面位相差AFとは、カメラのオートフォーカス(以下AF)の仕組みのひとつです。デジタルカメラでは、2010年に富士フイルムによって実用化されました。

 スマートフォンでは、2021年10月発表のされたソニー「Xperia PRO-I」がこの像面位相差AFを利用した同社の1.0型イメージセンサー「Exmor RS」を搭載するなど、いくつかのスマートフォンのカメラモジュールでこの方式を利用されています。

 その仕組みは簡単に言うと、像面つまりイメージセンサー上で「位相差検出」を行うというものです。

位相差AFの仕組みの原理については

 で解説していますが、簡単におさらいしておくと、「撮像用センサーの後ろにセパレーターレンズを置いて画像を2つに分けたとき、画像のピントが正しく合っていれば、(後ろの像もセンサーで測って)2つの像の位置は一定になるはずだ」という考え方を基にしています。

 なお、画像イメージを撮像するセンサーをイメージセンサー、セパレーターレンズで分けた画像を撮像するセンサーを位相差センサーと呼ぶとここではします。

Xperia PRO-Iに搭載のセンサー

 ちなみに、これもおさらいしておくと、もうひとつ取り上げた代表的なAFの方式、コントラストAFは「画像のピントが正しく合っている画像であれば、画像のコントラスト値が最も高いはずだ」という考え方を基にした方式です。画像を撮像し、コントラスト値を測り最も高いところをピント位置とするのでしたね。

 さて、像面位相差AFは、位相差を使ってフォーカスを決める方式ながら、位相差センサーという「部品」を必要としません。名前のとおり「像面」つまり「イメージセンサー」内に位相差センサーの役割を持つ受光センサーを配置することで、イメージセンサーのみで位相差を見分け、焦点合わせを行います。

 像面位相差AFの仕組みとしては2021年11月現在、「遮光幕」を使うタイプと「デュアルピクセルCMOS」とするタイプがあります。

 「遮光幕」を使うタイプは、現在、多くの像面位相差AFセンサーで使われています。イメージセンサー上に、部分的に光が届かないように覆う幕を張り、その上に、幕上に光が通る数ミクロン程度の「上側を遮光したスリット」「下側を遮光したスリット」を開けておきます。これを2つずつペアにしてセンサー上を適当な間隔で並ぶように配列します。

 カメラの焦点合わせによってスリットを通って通過する光が、上からきたものも下からのものも、上下に動きます。焦点が合った時には両方の位相差センサーの役割をするイメージセンサーが受光するはずです。

画像素子の一部をスリットのついた遮光幕で覆い、位相差センサーとして使う。ピントが合えば、レンズとスリットを通り抜けた光が画素に当たる。

 この原理によって、イメージセンサーの一部を位相差センサーとして使用することが可能となりました。

 もうひとつの「デュアルピクセルCMOS」タイプの像面位相差AFでは、こちらは「1つの画素を2つのフォトダイオードに分割し、その一方から画像信号を読むと、像面位相差AFのセンサーとして機能し、両方のから読みだすと撮像素子としてのイメージを得ることができる」という原理を利用しています。

 こちらは、スマートフォンでは、サムスン製のイメージセンサーで利用されています。

位相差AF・コントラストAFに比べてどういうメリット・デメリットがあるか

 スマートフォンの場合、位相差AFで問題になるのは、セパレーターレンズなどの物理的にサイズの大きな仕組みが必要になってしまうことです。

1インチセンサーを備えるXperia PRO-I

 今回解説した像面位相差AFによって、位相差AF搭載イメージセンサーと比べると、セパレーターレンズなどの物理的に大きく重くなりがちな光学系の制約を受けずに大きなイメージセンサーをスマホに載せることが可能になりました。

 像面位相差AF搭載スマートフォンの優位性は、たとえばコントラストAFカメラモジュール搭載スマホと比べて、画像のピントが合うまでの時間が短くて済むところなどが挙げられます。

 これは、コントラストAFだと、元の画像がピントが合っていなかったとき、つまりイメージセンサーが捕らえた画像のコントラストが低かった時、それを高くするには、ピントを遠くするか近くするか、どちらが結像に近いかはやってみないとわかりません。つまりとりあえずピントを合わせようとして失敗してやり直す、ということがありうるわけです。これに対して、像面位相差AFではピントの遠い近いは原理的にわかる(図1右図で光が合焦しない場合を考えてください)ということも関係しているでしょう。

 像面位相差AFの位相差AFセンサー・コントラストAFセンサーと比較してのデメリットとしては、像面位相差AF用センサーは自ら「遮光幕」を使って撮影できない画素(欠損画素)を作り出しているという点が挙げられるでしょうか。AF精度をあげるためには位相差センサーを多く配置したほうがよいですが、画質のためには欠損画素は少ない方がよいというジレンマを抱える方式でもあるわけです。

 また、像面位相差AFは、位相差AFよりも測定センサーが小さいために暗所ではオートフォーカス能力が弱い傾向にある、ということも原理的にはいえます。

 ただし、これらの傾向は、あくまでその原理から言えるメリット・デメリットです。実際の性能は、カメラモジュールの実装・アルゴリズム・内部パーツの性能などの要素で大きく変わります。

 たとえば、コントラストAFでもレンズを動かすサーボモーターが圧倒的に速ければ、それの遅い像面位相差AFより実用のピント合わせは快適かもしれません。そのため、ここで説明することはあくまでも現状の端末における傾向や、一般論としてとらえてください。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)