ケータイ用語の基礎知識

第837回: ARKit とは

iOS 11以降に標準搭載のARアプリ用フレームワーク

 「ARKit」は、iPhone・iPad向けのAR対応アプリのためのフレームワークです。米アップル(Apple)により提供されており、iOS 11で標準的な機能として組み込まれました。機種としてはiPhone6s以降で利用できます。

 ARとは、「拡張現実」を意味する英語“Augmented Reality”の略で、現実世界のモノや出来事に、コンピューターやスマートフォンを使って情報を付加すること、また付加された世界のことを言います。たとえば、ある家具店のARアプリでは、対応したスマートフォンのカメラで部屋を撮影すると、そこにあたかも家具を置いたように見えます。これで、部屋のスペースが家具を置くのに十分空間が空いているか、また、家具が部屋にフィットするか、確認できるわけです。

 よくVR(仮想現実、Virtual Reality)と対比されますが、VRは現実にはない物をあたかも存在するように見せたり感じさせたりする技術とされることが多いでしょう。それに対して、現実に存在するものに対してさらに情報を付加することで、より現実を深く知ることができる、あるいは現実にフィットさせて架空のものを表現し、リアリティを感じさせるのがARです。

iPhoneやiPadだけで楽しめる

 スマートフォンでARを実現するには、カメラ機能が捕らえたライブ映像に、2Dや3Dで描写したCGを組み合わせる必要があります。それも、本当に違和感なく現実の情報を拡張するならば、不自然にならないようCGを配置したり、カメラの動きに合わせて動かしたりする必要があります。このようなARに必要な一連の技術を、クリエイターのために、あらかじめOS標準のものとして用意しているのがARKitです。

 ARKitに用意されている機能は、ARアプリを作成するための基本要件のうちのいくつかです。具体的には、カメラによるシーンキャプチャや、カメラで捉えた現実空間から「平面」を認識して、CGで作られた「オブジェクト」を、あたかもそこにあるように置くことなどができます。

 そして「モーショントラッキング」、つまりスマートフォンのカメラで背景を写して、そこに3Dオブジェクトを置き、スマートフォンが右を向いたり左を向いたりしたら、それに合わせて3Dオブジェクトの見える位置を変えるというところまでは簡単に作れるようになっているのです。

 ARKitには録画機能もあります。つまり、作り出したCGと実際のカメラの画像を合成して録画するわけです。部屋の中には実際にはいないバーチャルアイドルが踊っている映像を撮る、というようなアプリを作ることも可能でしょう。

アップルの開発者向けサイトから、iPhoneでのARのイメージ

 ARKitの特長は、iPhoneやiPad以外のハードウェアが不要である点でしょう。一般的にARアプリを作成するには、「空間の認識」が不可欠ですが、ARKitでは、現実の空間から、床に平行な「平面」のみを認識すると割り切ることで、ハードウェアはスマートフォン・タブレットに標準で付いているカメラのみで済ませています。ただし、この「現実空間からの平面の認識」は、現状のiPhoneのカメラでは、机やイスの座面など、「地面と平行な平面」のみが可能です。もう少し複雑な、たとえば壁面がどこにあるかなどの情報を得るには、iPhoneのカメラだけでなく深度センサーなどの機器が必要になるでしょう。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)