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“IoTデバイスの素”、クアルコムとサンダーソフトが提供するリファレンスモデルとは

サンダーソフトが開発する画像認識アルゴリズムのデモ

 あらゆるモノがネットに繋がり、それぞれが連携してより便利になっていく――そう語られる「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)」。家庭向けには、ハブ(中心)となるデバイスとドアの開閉や室温などを確認できるセンサーなどを提供するサービスが登場し、業務向けでも水道やガスの検針、自動車などさまざまな分野での活用が期待される一方で、まだまだ普及の途上にある。

 そうしたIoT分野に対して、スマートフォン向けのチップセット「Snapdragon」シリーズを手がけるクアルコムから、IoT向けのリファレンスモデルが提供されている。リファレンスモデルとは、企業が製品を開発する際、参考にする素地となるもの。IoT製品と一口に言っても、製品が備える機能によって、どういったCPUやGPUが適しているのか、あるいは熱対策や低消費電力化はどうするのか、はたまたLTEやIoT向け通信規格のLoRAなどをどう組み合わせ実装していくかなど、開発時に取り組むべき課題は数多い。

クアルコムではIoTデバイス向けリファレンスモデルを提供
リファレンスベースで開発された自撮りドローン

 クアルコムが提供するリファレンスモデルは、Snapdragonを採用し、スマートフォンに搭載されるようなカメラ、各種センサーなどとの連携、あるいは通信機能の制御はお手の物。つまり開発時に課題となるような部分がある程度、まとめられており、より短期間・低コストで製品を世に送り出せるようになる。

 クアルコムでは、サンダーソフトなどと協力し、25種類のリファレンスモデルを取り揃える。そのラインアップは、スマートウォッチなどウェアラブル製品、Webカメラ、ドローン、VRヘッドマウントディスプレイなどで、「自動車やスマートフォン、コンピューティング以外の全てがターゲット」(須永 順子氏、クアルコムCDMAテクノロジーズ 副社長)と幅広いゾーンを狙ったものだ。

VR開発キット

 たとえばVRヘッドマウントディスプレイは、Snapdragon 835というXperia XZ Premiumにも搭載されたハイエンドなチップセットを搭載。動きを検知してVRコンテンツ内に反映させるモーションセンサーカメラや、6DoF(どの方向の動きも検知する)をサポート。たとえばユーザーが装着した状態で前後左右に動いたり、しゃがんだりしても検知して、VRコンテンツ内の映像が変化する。ハイエンドゆえ米1500ドル(約16万5000円)とかなりの高額で開発者向けに販売されているが、これも同様の機能をゼロから開発するよりも安価な製品作りに繋げられたり、あるいはVRコンテンツを制作する企業にとっては頼りになる開発環境として活用できる。

IoTデバイスでのエッジコンピューティングをアピール
Snapdragonのパワフルな性能が活きる

 スマートフォンと同じチップセットにすることで、たとえばIoT製品のOSにAndroidを採用してアプリを流用できるようにしたり、よりパワフルなスペックを実現したりできる。特にこれからはIoTデバイスが爆発的に増えれば、ネットワークカメラや気温センサーなど、1つ1つのデバイスの機能はシンプルなものだったとしてもやり取りされるデータが莫大なものとなる。クアルコムとサンダーソフトでは、そうしたデータ全てをクラウド上で処理するのは難しくなっていくため、IoTデバイスにも一定の処理能力が必要となるはず、と読む。

AIアルゴリズムをIoTデバイス上で

 その一環としてサンダーソフトが提案するのは、IoTデバイスで動作するAIアルゴリズムだ。これは、クアルコムが提供する「Snapdragon Nueral Processing Engine(NPE)」の上で動作するもの。たとえば顔認識や、物体認識をもとに、食品を認識してカロリーをはじき出す、といったアルゴリズムをサンダーソフト側が開発中だという。現在のAIの多くは、クラウドサーバーへ写真やセンサーのデータを送り、識別したり何らかの結果を返すという形が一般的とされるが、Snapdragon NPEは、IoTデバイスというローカル環境で実行可能なものであり、クラウドへ一極集中することなく分散して効率的なデータ処理が可能とうたう。

サンダーソフトの強み

 IoTに関心のある企業にとって実証実験(Proof of Concept、PoC)と、実際のサービスや商品の提供はまた別の話。だが、そうした面でもクアルコムと協業するサンダーソフトは一貫したサポート体制をウリにする。24日に開催された記者説明会では、サンダーソフトでは3000人の技術者を抱え、これまでSnapdragonベースの製品開発にも数多く関わっており「Snapdragonを知り尽くしている」(今井 正徳氏、サンダーソフトジャパン代表)。リファレンスモデルの提供だけではなく、企業が求めるカスタマイズや試作品の開発、さらには量産の立ち上げまでを手がけられる体制が他社にない強み、とアピールしていた。