石川温の「スマホ業界 Watch」

iPhone Airがアマゾンで異例の大幅値引き、叩き売りとなった理由とは

 iPhone AirがAmazonで「お買い得」になっている。7月29日よりタイムセールとなっており、17万7800円の256GBモデルが13万9800円、21万2800円の512GBモデルが15万6800円、1TBモデルは本来22万9800円なのだが、16万9800円で売られている。

 256GBモデルは21%オフ、512GBと1TBモデルは26%オフであり、アップル製品の最新モデルがこの値段で売られているのはかなり異例だ。29日朝からSNSで話題沸騰となっており、1TBモデルは29日の16時過ぎには在庫がなくなっていた模様だ。

 iPhoneは先日、値上げをしたばかりだ。実は値上げ直前、Amazonではプライムデーを開催しており、そのときもiPhone Airは同様の割引を展開していた。

 まさに「プライムデーで買い逃して悔しい」と思っていた人からすれば、チャンスが再び巡ってきたことになる。

 そもそも、なぜiPhone Airは何度も叩き売りされるのだろうか。やはり日本で「在庫が余っている」のは間違いない。

 昨年9月にiPhone Airが発表、発売された際、メディアやインフルエンサーの間での評判は高かった。

 なんといっても「薄く」、携帯性に優れる。これまで、あまりデザインを変えてこなかったアップルが、意欲的に攻めた意匠にしてきたことで、目新しさがあったのは間違いない。

 しかし、一般のiPhoneユーザーの反応は薄かった。

 「カメラが1つしかないなんて」――iPhoneユーザーが最も懸念するのが、iPhone Airにはメインカメラが1つしかないという点であった。「超広角や望遠が使えないなら、選択肢にはならない」という声が大きかった。

 これまでアップルは、カメラの数や画質などで、他メーカーと争ってきた。ユーザーは、アップルの言うがままに、3つのカメラを搭載したiPhoneを購入してきた。

 しかし、ここにきて突然、iPhone 16eのようにエントリーモデルでもないのに、カメラが1つしかないiPhoneを出されても、ユーザーとしては面食らってしまうだろう。

革新的なiPhone Airだがユーザーの理解は得られず

 また、iPhone Airはその薄さからバッテリーの持続時間に関してもイマイチだったりする。自分も昨年9月からiPhone Airを愛用しているが、唯一、不満に感じているのがバッテリーだ。普段使っていると、夜までバッテリーが持つことはなく、日中、どこかのタイミングでの充電を余儀なくされている。

 確かに充電の不満はあれど、この薄さ、携帯性の良さは他のiPhoneに代えがたい魅力になっている。

 アップルユーザーの多くは、アップルに革新的な製品を求めてきた。しかし、ティム・クックCEO時代のアップルは、スティーブ・ジョブズのころの「革新的なものづくり」よりも、「絶対に失敗しない安定的で保守的なものづくり」で販売台数を稼いできた。

 これまで長らく保守的なスタンスだったアップルを追いかけてきたユーザーこそが、いつの間にか保守的なもの選びしかできなくなってきた。

 結果として、突如、革新的なiPhone Airを投入したところで、アップルユーザーはその革新性を理解できず、「選択肢から外す」ことしかできなくなっていたのだ。

国内で在庫過多となった理由

 今から数カ月前、某キャリア関係者と話す機会があったのだが、よく見るとiPhone Airを持っていた。

 通常、キャリア関係者は、そこそこ古い機種を持っていることが多く、最新機種を業務用端末として使っているなんて、かなり異例だ。

 話を聞くと、やはり、「社内でiPhone Airの在庫がだぶついている」ようで、早くも業務用端末として、社員にばら撒かれているということであった。

 では、なぜ、登場時は期待に満ちあふれていたiPhone Airが、ここまで在庫処分されているのだろうか。世界的にもあまり人気がないというiPhone Airであるが、特に「日本市場」においては世界と異なる事情が存在する。

 日本で売られているiPhoneはBand 11と21に対応した「日本専用モデル」となっている。一方で他の国で販売されるiPhoneの多くは、複数の国と地域で販売できるような周波数帯に対応している。

 しかし、日本市場ではNTTドコモやKDDI、ソフトバンクが持つ1.5GHz帯に対応せざるを得ないため、独自の仕様となってしまっているのだ。だから、日本で余っているiPhone Airを他国で流通させることができない。

 iPhoneのモデムは、これまでクアルコムがメインであった。しかし、最近ではアップル独自開発のモデムに切り替えつつある。

 最初にアップル独自開発モデムである「C1」が搭載されたのは2025年2月発売の「iPhone 16e」であった。iPhone 16eで初めて搭載されたC1はBand 11と21に非対応であったため、「特にドコモユーザーは注意が必要」と言われたものだった。

 実際、メインで使われている周波数帯とはいえないため、非対応であっても、さほど影響はないとされていた。

 だが、NTTドコモ、アップルとしても、一部の周波数帯に対応していないのはよろしくないと考えていたようで、後継モデムとなる「C1X」でBand 11と21に対応したのだった。

 しかも、アップルとしては「iPhone Airは売れる」と予想していたようで、日本独自仕様のiPhone Airを大量に仕込んでいたものと思われる。

 結果、山のような在庫となり、Amazonでたびたび叩き売られ、キャリアの業務用端末としてばら撒かれる顛末を迎えたようだ。

 まさに日本特有の周波数に合わせてしまった「ガラAir」というべきiPhone Air。

 不運でしかないガラAirではあるが、おそらく、この9月にはiPhone Airの後継機種が出る可能性は低いと考えられ、しばらくはiPhone Airシリーズの「最新モデル」という座をキープするだろう。

 アップルにとっては災難でしかないが、日本のユーザーにとってみれば、メモリーの高騰と円安基調で、これだけスマホの値上がりが続く中、最新のチップで、Apple Intelligenceに対応したiPhone Airがお買い得に買えるのはかなりありがたいことではないだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。