石川温の「スマホ業界 Watch」

復活のシャープスマホ、海外展開に勝算はあるか?

 京セラ、FCNTとスマートフォン事業からの撤退が相次いだ日本のメーカーたち。残る日本メーカーは2社となってしまったが、そんななか、そのうちの1社であるシャープが「グローバルへの再挑戦」を始める。

家電で築いたブランドで勝負

 先日、開催された新CM完成披露イベントにおいて、同社のスマートフォン「AQUOS」を台湾とインドネシアでフルラインアップ展開すると明らかにしたのだ。

 実はシャープではすでに台湾、インドネシアでAQUOSの一部モデルを販売していたという。

 シャープ 通信事業本部の小林繁本部長は「台湾はだいぶ前から、インドネシアは最近、販売を始めたばかり。インドネシアはこれまで4Gメインだったが、5Gがジャカルタ以外にも広がったので、今後、フラグシップモデルを出していきたい」と語る。

シャープ 小林氏

 特にインドネシアでは「白物家電メーカーとしてのシャープ」としてのブランド認知が高いようだ。

 小林本部長は「インドネシアでは、オープンマーケットでスマートフォンを売っているが量販店でイベントをやると販売が伸びる。実は冷蔵庫や洗濯機においては、インドネシア国内でシェア1位だったりもするので、信頼できるブランドとして、現地では好意的に見られているようだ」という。

 冷蔵庫や洗濯機と同じメーカーのスマートフォンを買ってくれるかはかなり謎ではあるが、シャープブランドの信頼感は確実にインドネシア国民に根付いているようだ。

 今回、シャープはAQUOSスマートフォンの「フルラインアップ」としてエントリーからハイエンドまで幅広く世界に向けて商品展開をしていく。

左からAQUOS wish3、AQUOS R8 Pro、AQUOS R8

海外からの注目高し

 この宣言を聞いたときに、筆者は「ようやく来たか」と膝を打った。

 なぜなら、実はシャープのスマートフォンは実は密かに世界から注目されていると、数年前から認識しており「早く世界で出せば良いのに」とずっと思っていたからだ。

Leitz Phone 1

 なぜ、シャープの製品が世界で求められているかとわかったかと言えば、筆者がYouTubeチャンネルを運営しているからにほかならない。

 YouTubeチャンネルで、2021年に「Leitz Phone 1」の紹介やレビュー動画をアップした際、海外からのアクセスが数%にも達したのだ。

 国でいえば、ベトナムやドイツ、フランス、ロシア、イラク、ミャンマー、ポーランド、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦、ルーマニア、チリ、コロンビア、ボリビア、コスタリカ、チェコ、ドミニカ共和国など多岐に渡っていた。

 当然、コメントもあり「なんで英語で解説してくれないのだ」「これは日本でしか買えないのか。海外でも売ってくれ」と外国語で書き込まれたのであった。

 特に多かったのがタイ、台湾、インド、インドネシア、マレーシア、香港、アメリカといった国や地域であった。

 シャープが今回、「台湾とインドネシアでフルラインアップ展開する」と発表したときに納得したのは、この2つのエリアからシャープへの期待値が高いというのが、YouTubeを見れば一目瞭然だからだ。

 シャープも当然のことながら、世界から注目されているのは理解しているようで「AQUOS R8 Proを発表したときは香港、台湾あたりからのサイトへのアクセスが跳ね上がった。全体の何分の一ものアクセス数を稼いでいた。また、ヨーロッパからのアクセスも多かった。さらにサイトの滞留時間も長く、結構、見られているようだ。最近は、発表内容を外国語に翻訳した方がいいかなと考えている」(小林本部長)という。

 ひとつ気になるのがライカブランドのスマートフォンである「Leitz Phone」は海外で出せるのかという点だ。ライカは日本ではシャープを製造メーカーとしてパートナーに選んでいるが、中国などではシャオミが相手となっている。

 小林本部長に尋ねたところ「Leitz Phoneはライカとの相談次第で出せるのではないか。国ごとに取り決めが違い、またLeitz Phoneはライセンスではないので、気にする必要はない」という。

 Leitz Phoneに関しては取り扱いキャリアとしてソフトバンクも絡んでくるため、どこまで現実味を帯びているのかは不透明ではあるが、海外には確実に「Leitz Phoneが欲しい」というユーザーがいるだけに、なんとかそうした人たちの手に届くようになると、シャープにとってもハッピーなのではないだろうか。

インバウンド需要もポイントに

 日本にいるユーザーからすれば、円安基調ということで、ハイエンドスマートフォンがどうしても高く感じてしまう。

 一方で、海外であれば当然のことながら、そこまで高価に感じないだろう。

 LEITZ PhoneやAQUOS R8 Proのようなハイエンド端末が、SIMフリーで日本国内の家電量販店で売られていたらコロナ禍が落ち着き、大挙して日本に訪れてきている訪日外国人が「お土産」として、買って帰ることも考えれるだろう。

 シャープは、今回のCM完成披露イベントで「シャープのスマホはスペック表を埋めるよりもスペック表をつくる会社だ」とアピールしていた。世界初の技術などを他社に先駆けて取り入れることで、スマートフォンのトレンドをいち早くつくってきた実績がある。

 当然、海外のスマートフォン大好きユーザーとすれば、AQUOSを欲しいと思うニーズがあるのは間違いない。今回のように海外展開を強化するのも1つの策だろうし、訪日外国人が円安と免税を背景に気軽にハイエンドのSIMフリースマートフォンをお土産として家電量販店で買えるような環境が整備されると、日本メーカーも世界で名を轟かせることができるのではないだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。