石川温の「スマホ業界 Watch」

KDDIによるキッザニア買収から4年半、買収後の変化とは――圓谷社長に聞く

 2018年10月、子ども向け職業体験施設「キッザニア」を運営するKCJグループをKDDIが買収し、子会社化した。当時「通信会社がなぜキッザニアを買うのか」と首をかしげた人も多かった。

 あれから4年半。KDDIの傘下となったキッザニアはどのように変わったのか。圓谷道成社長に話を聞いた。

 圓谷社長に話を聞いたのは、6月17日、スーパーフォーミュラの第5戦・東北大会が開催された、宮城県にあるスポーツランドSUGOだった。

圓谷社長

 スーパーフォーミュラとは国内最高峰の自動車レースだが、その会場で「アウトオブキッザニア」というイベントが開催されているのだ。

 キッザニアは現在、東京、甲子園、福岡に施設があるが、アウトオブキッザニアは、さまざまな場所に出向き、子どもがさまざまな職業体験をできるイベントだ。

 圓谷社長は「アウトオブキッザニア自体は何年も前からやっているが、最近は自治体と組むことが多かった。地方創生の文脈で地方自治体をやらせていただくことがあるが、どうしても、ある時期に1回だけで終わってしまう感じだった。1回限りではなく、ツアー的に継続してやりたいという思いがあったなか、スーパーフォーミュラとのご縁があった。世間的にはクルマ離れと言われているなか、私もレースが好きだし、レースに携わっている仕事もたくさんある。ぜひ子どもに経験させたいなと思い、実現する運びとなった」と経緯を語る。

 サーキットで子どもたちが体験できる職業としては「場内アナウンサー」「チームマネージャー」「メカニック」「ジャーナリスト」など多岐に渡る。

 実際、第5戦では、レースで使うタイヤのために、子どもたちが気温と路面温度を測定。その情報をテレビ中継でレポートするという仕事や、レース開始直前、コース上で「スタートエンジン!」とかけ声をかけたり、レース終了後に汚れている路面を掃除したりと、観客やテレビの視聴者にも見てもらえる仕事を体験していたのだった。

 子どもの親たちに話を聞いたが、いずれもクルマやレースが大好きで「サーキットに来るための理由」のひとつとして、アウトオブキッザニアに参加させたかったという声が多かった(自分もレース好きの父親として激しく共感)。

 スーパーフォーミュラを運営する日本レースプロモーションの上野禎久社長は「モータースポーツの現場で働く人たちが子どもから憧れる職業になってもらいたい。また、サーキットは家族と行って楽しい場所にしたい」という。

 ちなみに第6戦・富士スピードウェイでは「夏祭り」としてさまざまなイベントを実施。サーキットをレースに興味のない子どもや奥さんが来ても、楽しく過ごせる場所にしていく。

KDDIがキッザニアを欲しがった2つの理由

 そんなキッザニアはなぜ、KDDIの傘下になったのか。というか、なぜKDDIはキッザニアを欲しがったのか。

 圓谷社長は「それには大きく2つの理由がある」と語る。

 まずひとつがKDDIとしての「社会貢献」だ。通信会社として重要なインフラを担っているが、企業としてそれだけでは社会的な責任を果たしているとはいいにくくなっている。そんななか社会貢献のひとつとして、キッザニアを通して、子どもに向けた職業体験の場を提供するという考えがあるという。

 もうひとつが「顧客接点」で、圓谷社長は「キッザニアにはauのパビリオンはあるものの、大々的にKDDIやauのブランドは表に出していない。しかし、新たにファミリー層や子どもなどの顧客接点を作っていきたい」というのだ。

 実はKDDIの中期経営戦略(2023年3月期〜2025年3月期)では「サテライトグロース戦略」として、5G通信が中央にあり、「DX」「金融」「エネルギー」「LX」「地域共創」の5つを注力領域としつつ、そのまわりには「教育」「ヘルスケア」「モビリティ」「宇宙」がある。

 圓谷社長は「教育というジャンルがあるが、キッザニアはまさにここに位置づけられている。KDDIとしてNextコア事業として、これから広げていきたい分野のひとつとなっている」という。

 実はKDDIがキッザニアが欲しがった背景には「髙橋誠社長がキッザニアにauのパビリオンを出したい」と思っていたというのが発端のようだ。しかし、当時は別の携帯電話会社がパビリオンを出していた。KDDIが出資した後、その携帯電話会社は空気を察してくれたのか、キッザニアから撤退していったのだった。

 ところで、KDDIが経営に参加したことでキッザニアには変化があったのだろうか。

 圓谷社長は「表向きは変わってないように見えるかもしれない。しかし、会社の中身はだいぶ変えていった。買収当時、Webページはあったが、アプリは何もなかった。しかし、館内で過ごしやすくなるアプリを提供したり、昨年はオンラインで学びの要素があるコンテンツを提供するオンラインカレッジを無料で出したりなどデジタル化に取り組んできた」と振り返る。

 また、KDDIが経営参画後にキッザニア福岡がオープンしているが、福岡はテクノロジー要素を取り入れた先端技術エリアが設けられているという。

 たとえば、世界が抱える社会課題を解決するためのビジネスイノベーションセンターや宇宙訓練センター、7月20日はシミュレーションテクノロジーセンターがオープンする予定だ。

 今後のキッザニアについて圓谷社長は「やはり、子どもの生きる力を育むとともに、子どもたちの未来の社会をよくするために、子どもたちに新たな気づきを与えていきたいというのは変わらない。中心となるのが、東京、甲子園、福岡のパビリオンだが、なかなか来られない家族もいるので、アウトオブキッザニアやオンラインでの接点を大切にしたい。職業体験はパートナーの職業がメインとなるが、産官学連携や地方創生など、いろんな方々と連携していきたい」と抱負を語る。

 通信会社は値下げの影響で通信料収入が減りつつあり「非通信分野をいかに開拓するか」が重視されているが、KDDIは教育分野においてキッザニアが成功事例になろうとしているようだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。