石川温の「スマホ業界 Watch」

今こそ日本で「型落ちハイエンドスマホ」の道筋を――「Snapdragon Summit」取材で感じた国内スマホ市場の課題

 先週、アメリカ・ハワイ州マウイ島にてクアルコムのイベント「Snapdragon Summit」が開催され、取材に行ってきた。

 ハイエンドスマートフォン向けチップ「Snpadragon 8 Gen 2」が発表され、カメラやAI、ゲームなどで大きな進化があった。

 確かにカメラにおいては「リアルタイム セマンティックセグメンテーション」に対応など、Snpadragon 8 Gen 2を搭載したスマートフォンが各社から発売されるのが待ち遠しくなってきている。

 しかし、プレゼンを聞いている一方で「日本だと円安の影響もあり、ハイエンド端末は誰もが手が出にくくなっているよなぁ」という失望感が頭をよぎった。

 「Snpadragon 8 Gen 2を訴求しているけど、日本で売れているのはSnapdagonの7や6シリーズばかり。ユーザーがSnpadragon 8 Gen 2に関心を持つようにするにはどうしたらいいのか」という疑問を、クアルコムのシニアバイスプレジデントであるアレックス・カトージアン氏にぶつけてみた。

 するとカトージアン氏は「確かにSnapdragonの6や7シリーズの方が世界各地でボリュームゾーンになっている。しかし、一方で8シリーズのようなプレミアムラインの規模も拡大している。単に最新のチップだけでなく、『Nマイナス1』や『Nマイナス2』といったチップも、より長い期間使われるようになっている。2年以上の期間があれば、使用する部材のコストは下がり、結果として、当社のチップの値段も下がり、ユーザーはより手軽な値段で購入できるようになる」と語る。

カトージアン氏

 「Nマイナス1」や「Nマイナス2」というのは、1年前や2年前のSnpadragonを指している。つまり、先代モデルにあたる「Snapdragon 8 Gen 1」を現行モデルとすれば、Nマイナス1は「Snapdragon 888」だし、Nマイナス2は「Snapdragon 865」のことになる。

 日本の場合、新製品が発売されると、あっという間に型落ちモデルの在庫は処分される傾向が強い。しかし、アメリカのキャリアを見てみると、Snapdragon 865を搭載したGalaxy S20なども在庫として取り扱われている。

AT&TのWebサイトより引用

 iPhoneの場合、「iPhone 14」が発売されても「iPhone 12」がかなり値下げされた状態で販売されている。

 アップルはiPhoneを数年間、作り続けることで部材の量産効果により、発売当初よりも安価に作れるようになる。結果として、「数年前のハイエンドモデルだけど手軽に買える」という状態になる。まさに同じことがAndroidスマートフォンでも、海外では当たり前になろうとしているのだ。

 日本でも最新機種だけを取り扱うのではなく、メーカーが同じハイエンドスマートフォンを数年間、作り続けることで、部材などの量産効果によって本体価格を下げていくという取り組みをしていってもいいのかも知れない。

 本体価格を段階的に引き下げられるようになるといいし、店頭での販売価格も柔軟にさげられるようにすべきだ。

 しかし、ここで厄介となるのが総務省が2019年に設定したルールだ。「在庫端末については、最終調達日から24か月経過で半額までの範囲で利益の提供可。ただし、製造が中止されたものは、最終調達日から12カ月経過で半額まで、24カ月で8割までの範囲で利益の提供可」というルールを作ってしまった。

 本来ならば、メーカーは1年ぐらい前の機種でも、安価になったチップを調達し、再び製造。ショップもそういった機種を調達し続けることで本体価格を下げ、さらに店頭でも柔軟な価格設定にできれば良かったが、総務省のルールでそうしたことも封じられてしまった。

 キャリアやショップが同じスマートフォンを継続的に調達し続けるといつまで経っても「最終調達日」にならず、店舗での割引が認められなくなる。これでは店頭での柔軟な価格設定ができなくなってしまう。

 総務省としては高額な割引を封じたつもりのようだが、結果として、本来であれば型落ちモデルが安くなることを封じる価格拘束力を持つようになってしまった。

 ハイエンドスマートフォンを持てば、ユーザーもサクサクとスマホを使え、大画面で楽しい毎日を過ごすことができる。一方で、キャリアにとってみても、高速処理で大画面のスマホが普及すれば通信料収入の回復に繋げることができる。

 もちろん、ハイエンドスマホが売れればメーカーもハッピーだ。「型落ちハイエンドを手軽に買える取り組み」を、日本でも業界が一丸となって取り組んでいくべきではないだろうか。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。