インタビュー

クアルコムのカトージアン氏に聞く、「Snapdragon 8 Gen 2」の魅力や世界情勢が与える影響

 米国ハワイで開催されているクアルコムのイベント「Snapdragon Summit」にあわせ、同社シニアバイスプレジデントであるアレックス・カトージアン(Alex KATOUZIAN)氏が日本の報道陣によるグループインタビューに応えた。

 モバイルやPC向け、XR、ウェアラブルなどSnapdragon全般を統括する同氏が語ったことをご紹介しよう。

Snapdragon 8 Gen 2について

――前日に「Snapdragon 8 Gen 2」が発表されました。イチオシの機能をピックアップするなら、どれになりますか。

カトージアン氏
 やはりAIカメラですね。カメラがこれだけ高画質で、AIのサポートがあるということだけで、使い勝手が格段にアップします。AIの補助がない場合と比べ、はるかに優れたユーザー体験になります。やはりAIカメラがイチオシの機能ですね。

 人々がスマートフォンを購入する際、本当にカメラは重視されるポイントです。カメラの品質はとても重要です。

――Snapdragon 8 Gen 2はハイエンド機種向けのチップセットですが、ミドルレンジスマートフォンについては、どう考えていますか。

カトージアン氏
 戦略としては同じです。プレミアム機種にイノベーションをもたらし、その後、下のクラスへ届けていきます。

 プレミアムクラスの機種の3~6カ月後、ハイティア(上位)のデバイスが登場します。そこからさらに3~6ヶ月後にミドルレンジで導入が進められるわけです。

――日本では、Snapdragon 6/7シリーズのスマートフォンがよく売れています。8シリーズを手に取っていただくには、何が必要でしょうか。

カトージアン氏
 Snapdragon 4/6/7シリーズのほうが、確かに世界各地で、ボリュームゾーンではあります。

 一方で、我々のプレミアムティア(8シリーズ)の規模は拡大しています。当社の顧客(スマートフォンメーカー)が活用されているわけです。

 昨年のプレミアム・ティア(Snapdragon 8 Gen 1)、その前の世代(Snapdragon 888)、さらにもうひとつ前の世代(Snapdragon 865)は、より長い期間にわかって利用されるようになっています。

 長期間、スマートフォンメーカーが用いることで、部材コストが下がります。当社のチップセットの価格も自然に下がり、より手頃な値段で購入できるのです。

 型落ちのプレミアム層を長持ちさせ、市場を拡大するのです。これは今、現在の話だけではありません。

 また、米国のキャリア(携帯電話会社)も、日本のキャリアも、端末販売で補助金(販売奨励金)があります。欧州にもあります。

 米国では、プレミアムクラスのスマートフォンを買う際、割安に買えるようにする代わりに2年契約になっていました。また、それまで使っていた端末を下取りに出すこともあります。

 下取り精度や補助金がある地域では、プレミアムクラスの機種がよく購入される傾向があります。一方で、東南アジアやインドなどではそうした機種の販売数は少なくなります。

衛星・HAPSへの取り組み

――話は変わって、NTN(低軌道衛星や高高度飛行機の基地局を使った通信)にどう取り組んでいますか。

カトージアン氏
 3GPP Release 17で取り入れられ、もちろんサポートしていくことになります。ただ、NTNはまだ時間がかかります。

――NTNで取り組む上で、もっともチャレンジングな点は?

カトージアン氏
 新しい仕様が発表されると、その導入にはやはり苦労が伴います。キャリアは早く導入したいと考えるところがあるかもしれませんが、時間がかかる場合もあります。

 クアルコムとしては、常に、最新かつ最高の機能を市場に送り出したい。すべてのインフラストラクチャー・パートナーと協力していきます。

 そして、インフラ・パートナーと技術プロバイダーとの協力関係を構築していきます。そしてキャリアやベンダーとともに市場へ参入します。こうした協力関係で、技術を推し進めたいと思います。

 協力関係のもとで進めていくことになるでしょうが、実際に実現にこぎつけるところは、やはり難しいところです。

製造プロセスについて

――半導体製造プロセスの微細化のスピードが減速していると思います。

カトージアン氏
 確かにそうです。そして、サプライチェーンは変化し、ウェハーのコストや製造装置のコストも上昇しています。

 そうした動向は、クアルコムだけではなく、最終的には消費者へ波及していきます。

 性能向上や電力削減を実現するために、ソリューションのどの部分に最先端のプロセスノードを入れるのか。

 ジャンルによって異なりますが、PC業界ではチップレット化が進み、先端ノードを減らし、ラギングノードをいくつか持つ方法を模索しているようです。

 最終的には、すべての市場がそのように考えなければならなくなるでしょう。というのも、微細化のペースが落ちているからです。そして、コストも上がっています。だから、(半導体設計の)デザインを多様化し、より手頃な価格になるように分割しなければならないのです。

 これは、そう簡単ではありません。細かいことをいろいろ考えないといけない。どの部分を古いノードに残すか、どの部分をより高度なノードに残すか、そしてそれらを一緒にインターフェイスに加えるか。高度なパッケージング戦略とはどういうものか。

 最終的には、能力を分割するために、2つ、いや3つのノードを並行して動かすことを考えなければならないと思っています。

なぜイベント名から「Tech」がなくなったのか。

――初日の基調講演を受けて、メッセージの内容が単なるスペックアップから、ユーザーにとって何ができるのか、という内容に変わったように思えました。

カトージアン氏
 そのように受け取っていただいた、あなたの感覚は、まったく正しいです。まさにクアルコムがやろうとしていることです。

 私たちは先進的な技術に重点を置いています。技術から目を離したことはありません。CPU、GPU、AI、カメラ、ビデオ、オーディオ、セキュリティコネクティビティなど、あらゆる分野で最高の技術を提供し続けます。

 私たちは、常にテクノロジーから離れることはありません。しかし、ユーザー体験に結びつかないテクノロジーは、ある意味で無意味なものです。

 だから、私たちは、消費者が理解できるように説明できない限り、「チップに(新機能を)何も加えない」というルールにしています。

 たとえば、消費者の前で、「AIプロセッサーは、こんなにたくさんの機能が使えます」と言っても、消費者は何も理解できないでしょう。

 でも、「「ほら、見てください、あなたの目が見ている光景を、このスマートフォンなら限りなく近い写真に切り取れますよ」とお伝えすれば、理解していただけます。

 最高の写真を、何も考えずに、その一瞬を切り取る。高画質なビデオを撮影し、それを家族と共有することができます。

 また、携帯電話の中には、自分の身分証明書や財布が入っていて、それが私たちの技術によって安全に保護されています。

 たとえば、UMTS(3G世代の通信技術)で、当時、ビデオ通話ができるようになりました。フィーチャーフォンでデモをしましたが、理解は広がりませんでした。

 でも、それから数年後、アップルが「FaceTime」を紹介したら、誰もが使えるようになったんです。

――「Snapdragon」という名称も、当初はチップセットの名前だけでしたが、広く活用されるようになっていますね。

カトージアン氏
 はい、その通りです。本当にSnapdragonがクアルコムという企業を引っ張っているんです。

――素朴な疑問なのですが、以前は「Snapdragon Tech Summit」という名称でしたが、今回は「Snapdragon Summit」に変更されています。

カトージアン氏
 それも同じ理由なんです。dragonというブランドとそこからもたらされる体験を伝えるためです。それが「Snapdragon Summit」と「Snapdragon Tech Summit」の違いです。

 たとえばサムスンを例に出すと、「Exynos」というチップセットがありますが、「サムスン」という企業名のほうが知られていますよね。

 クアルコムでは8月、マンチェスター・ユナイテッドとのパートナーシップを締結しました。彼らには10億人以上のファンがいます。そのうち、35%は「Snapdragon」が何であるかを理解しているというデータがあります。つまり3億5000万人です。これはすごいですよね。

 というわけで、Snapdragonは、さまざまな分野で活用できるかなというわけです。

半導体不足からこれまで、そしてこれから

――1年前のイベントでは、半導体不足について質問がありました。この1年、どのような変化がありましたか。

カトージアン氏
 いい質問ですね。本当に前代未聞の事態でした。

 新型コロナウィルス感染症によるロックダウンで、サプライチェーンも止まりました。工場も機械も停止したんです。働く人々も自宅にこもることになりました。

 再開まで2~3カ月では効きません。復旧まで本当に時間がかかりました。

 お客さま(スマートフォンメーカー)からは、もっと供給してくれ、と何度も言われました。私たちも必死に手段を講じました。

 しかし、不測の事態が起こりました。とても不幸な戦争が起きたわけです(※ロシアによるウクライナ侵攻を指すとみられる)。

 欧州、中国、米国はすべて不況に直面しています。インフレが進行し、GDPは減少しています。たとえば中国の金融引き締めは、消費者の買い控えを招きます。

 ロックダウンからの再開でニーズが高まり大量供給が再開された最中、不測の事態が起き、不況に陥ると、人々は何も買わなくなります。

 だから供給過剰になるのです。だから在庫が積み上がったのです。

 (1年前は半導体不足だったが)今は供給に制約はありません。しかし、人々はデバイスを購入しないので、供給過剰になる可能性があり、過剰で陳腐化した状態にならないようにしなければなりません。供給分を償却しなければならないのです。経費になるのです。私は、この問題にきちんと取り組み、お客様が在庫を切り崩せるようにしたいのです。

 そして、2023年末~2024年にかけて、さらにビジネスを拡大させたいと考えており、そのための計画も順調に進んでいます。

――ちなみに、最近、日本国内で、複数企業が出資した「Rapidus」(ラピダス)が設立されましたが、ご存知ですか?

カトージアン氏
 いえ、私は知りませんね。

――なるほど、本日はありがとうございました。