インタビュー

シャープ渾身のフラッグシップ「AQUOS R」開発者インタビュー(後編)

「高速応答」強化でさらなるヌルヌルを/ハイパフォーマンスを支える画期的な熱管理

AQUOS R

 7月初旬にNTTドコモ、au、ソフトバンクの3キャリアから登場するAndroidスマートフォン「AQUOS R」は、シャープが放つ“渾身のフラッグシップ”だ。妥協のないスペックに、進化した120Hz駆動の「ハイスピードIGZO」、動いて話しかける充電スタンド「ロボクル」など、ユニークな機能を備えている。

 「AQUOS R」の開発陣から、各分野で代表して9名の皆さんにお話を伺った。前後編として、新フラッグシップに込めた熱い想いを余すところなくお伝えしたい。

(前編はこちら)

ハイスピードIGZOは「高速応答」の強化でさらにヌルヌルに

――AQUOSシリーズはディスプレイにこだわって開発されていますが、「AQUOS R」ではいかがでしょうか。

佐藤雄一氏(シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 システム開発部)

佐藤氏
 ディスプレイは、「Rに込めた4つの約束」のうち「Reality」を実現する代表的な機能です。さらに、もう1つのR「Response」では表されるこだわりの「高速応答」をさらに強化しています。

 開発ではまず、「最高のディスプレイパフォーマンスとは何か」を検討しました。その結果、導き出したのが「倍速×WQHD×高速応答×高色域」という4つのかけ算です。

 1つめの倍速は2015年冬モデルの世代から搭載している120Hzで駆動する「ハイスピードIGZO」のディスプレイです。今回さらに改良し、解像度を「WQHD」に向上させました。

 さらに今回、特に強化したのが「高速応答」です。液晶パネル全体の設計を見直し、手に吸い付くような“ヌルヌル感”を徹底的に追求しました。2016年夏のハイスピードIGZO搭載モデルとの比較で約1.5倍ほど高速な応答速度を実現しています。

――「高速応答」とはどういったものでしょうか。

小林氏
 倍速液晶の「倍速」というのは単純に描画が走るスピード(フレームレート)です。応答というのは、なにか操作をして描画が走った瞬間に液晶がクイっと反応して色が変わるまでのスピード(反応速度)になります。両方にこだわらないと本当の“ヌルヌル感”は出せないんですよ。

佐藤氏
 ふだんスマートフォンを使っていると、スクロールした後に残像が残って、可読性が落ちてしまうことがありますよね。ゆっくりとスクロールしながらも読めるようなディスプレイを目指すと、ただ駆動速度を倍速にしただけではほとんど効果がない。液晶の変化するスピード自体が早くならないと対応できないのです。

小林氏
 一般的なスマートフォンの120Hzというフレームレートでは液晶パネル1フレームを描画するので8msほどの時間がかかります。それに対して、応答時間は20msと、2倍以上もかかるんです。単純にフレームレートを高めていくだけではなく、応答時間を短くすることで、本当のパフォーマンスを体感できるようになります。「AQUOS R」では液晶ドライバーなども、全面的に手を加えて、6msという応答時間を実現しています。

田嶋健吾氏(シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 第一ソフト開発部 技師)

田嶋氏
 この「高速応答」の実現に向けて、私はソフトウェア開発の面からパフォーマンスの改善に取り組みました。「AQUOS R」では、コンセプトは「持続するヌルヌル」というコンセプトを決めて、ユーザーインターフェイスを見直しています。

 「ヌルヌル」な動作とは「柔らか」かつ「滑らか」なものということで、「柔らかく滑らかな動作が持続する」という使用感を目指しました。

――「柔らか」や「滑らか」というコンセプトはどのように反映されているのでしょうか。

田嶋氏
 「柔らかさ」というのは、単純に画面のアニメーションをゆっくりにしても実現できます。しかし、それでは起動やスクロールの速度が遅くなり、ストレスが溜まってしまいますよね。そこで、画面変化の挙動1つ1つを検証して、スピードは落とさずに、柔らかいと感じる画面遷移を追求しました。例えば、アプリの起動画面ではふわっと起動するアニメーションを採用して、最短の時間で遷移しながらも「柔らかい」動きになっています。

 「滑らか」については、スムーズな動作という基本的な部分は満たした上で、フリックとか、パラパラっとリストをスクロールするときの「カクつき」といったシーンを徹底的に削除しています。各フレーム落ちの原因を探して対処していく地道な作業です。

小林氏
 画面をずっとハイスピードカメラで撮ってるんだよね。スクロールしたところとかをコマ送りで眺めて、アニメーションがひゅって飛んでたら、「こらあなんでやあ」ってなって調べるという。そういうシャープが得意な作業です(笑)。

――地道な作業ですね……。

小林氏
 実際、感覚的には120Hzで2コマくらい飛んだら、人間の目では分かるよね。

田嶋氏
 分かってしまうんです。なので、本当に目に見えないレベルの飛びまで高速カメラで確認しながら、「あっ飛んだ」とか一喜一憂しながら、この項目を変えてみたらどうなるのかなといった、本当に地道なトライアンドエラーを繰り返しています。

 フレーム落ちしたということは処理が間に合わなかった部分では、システム屋さんとも協力して、その瞬間だけパフォーマンスを上げてこれをクリアしていくというのを地道にやっていきました。

小林氏
 本当に地道なパフォーマンス改善を繰り返して、「高速応答」というのを実現しています。これまでの倍速液晶のAQUOSをお使いのお客さまでも、「AQUOS R」を触っていただくともう戻れないというくらい、“ヌルヌル”な動きになっていますよ。

――ディスプレイの画質について、新しい取り組みはありますか。

佐藤氏
 画質についても、これまで通りのチューニングに加えて、新しい取り組みを行っています。それがHDR再生のサポートです。「HDR(ハイダイナミックレンジ)」というと、スマートフォンでは写真撮影機能でお馴染みですが、一般的な画像・映像に比べて、輝度情報をふんだんに盛り込んだコンテンツを指します。

 AQUOS Rでは、「HDRの動画コンテンツの再生」に初めて対応しました。HDR対応のコンテンツを再生するときに、黒つぶれや白飛びが抑えられて、くっきりした映像で楽しめます。

 絵作りについてはAQUOSならではのこだわりもありますが、HDR対応では「プライム・ビデオ」でコンテンツを配信しているAmazonさんと協力しています。

 ただし、スマートフォンAQUOSでずっと続けてきた「鮮やかな色を出したい」という我々のこだわりに対して、Amazonさんのこだわりがぶつかってしまう部分もあり、一筋縄ではいきませんでした。我々の画質調整チームがAmazonさんの本社があるシアトルに通い、お互いが折り合えるポイントをなんとか見つけだしました。結果的には、早い段階でAmazonさんの認証を取得できました。

目で見たように撮れる超広角カメラ

――AQUOSは「カメラ」も支持されていますが、「AQUOS R」にはどのようなカメラが搭載されていますか。

篠宮大樹氏(シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 主任)

篠宮氏
 カメラは、ディスプレイと並ぶ「Reality」のもう1つの要素に位置づけています。メインカメラの画素数は昨年の夏モデルから引き続き約2260画素となっていますが、「超広角」に進化しています。35mm換算で22mm相当、角度でいうと90度の超広角です。目で見た風景と近い物を収められるようになっています。今回は電子手ぶれ補正に新たに対応しています。動きながら撮影する動画などで、よりブレにくくなりました。

 インカメラの方もかなり強化していて、「AQUOS史上最強のインカメラ」になっています。画素数は夏モデルでも最高クラスの約1630万画素で、35mm換算で23mm、画角ではこちらも90度というという超広角で撮影できます。みんなでセルフィーを撮影したり、タワーのようなランドマークと一緒に撮影したりしても、端が切れることなく収めることができます。

――他社では、カメラを横に2つ並べるトレンドがありますが、シャープとしてはどのように考えていますか。

小林氏
 モノカラーのカメラを付けたり、画角を変えてズーム用にしたり、いろんな方式がありますよね。トレンドとしては認識しています。そもそも2012年には3D用に2つカメラ搭載した端末も作っていたメーカーなので、2眼カメラの取り組み自体は否定しません。

 ただし、今回は「解像感」を重視したため、単眼で高画素のカメラを搭載しています。国内のお客さまが写真に求められるものを聞くと、露出や色、それと解像感とみなさんおっしゃるんですね。加えて、画角が重要な要素だと認識しています。

 20メガのカメラを2つ搭載するという可能性もなくはないですが、デザインやサイズに影響しますし、現時点では見送ったというところです。ただし、カメラはシャープ独自にモジュール化している技術的には優位にある部分ですし、今後、検討する可能性は十分あると捉えています。

倍速駆動を支える新発想の発熱管理

――もともと倍速駆動のディスプレイでさらに解像度も上げているとなると、処理の負荷が高まってバッテリー消費も増えてしまうと思います。どのようにして乗り越えていったのでしょうか。

佐藤氏
 おっしゃる通り、大変苦労した部分です。もともとIGZO液晶ディスプレイには、画面の書き換え速度を柔軟に変更できる「液晶アイドリングストップ」という技術がありまして、倍速ディスプレイで省エネを実現するベースになっています。ソフトウェア改善やハードウェアとの設計合わせ技で、動作効率を総合的に改善しています。

田嶋氏
 ソフトウェアからは、温度上昇を抑えてパフォーマンスを持続するという観点で、作り込みを行いました。例えば、「AQUOS R」では、ディスプレイの駆動速度を60Hzと120Hzから、ユーザーが切り替えられるのですが、それぞれに対して先ほど紹介した最適化を実施しています。

田邊弘樹氏(シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 システム開発部 課長)

田邊氏
 機構設計チームではハードウェア面から熱効率の改善に取り組みました。今回、AQUOS Rでは、最新のSoC「Snapdragon 835」を搭載しています。実は、このSoCをサンプルを得た段階で徹底的に検証して、IGZO液晶と組み合わせるといいものができるなという感触を得ていました。

――ハードウェアでは、どのような工夫をされたのでしょうか。

田邊氏
 「AQUOS R」では、温度制御について2つの新しい工夫を入れています。1つは、チップセットやカメラ、液晶ドライバーなどの熱源から発生した熱を、端末全体に均一に逃がしていくという、構造上の工夫です。

 放熱材として熱伝導性の高いアルミニウムプレートを挿入し、広範囲に熱を拡散しています。さらに、端末内部に意図的に空間を残して、熱が内部の空気を伝わり、端末の表面と裏面から均一に逃れていく設計になっています。

 もう1つの工夫が、新しい温度管理システムです。具体的には、端末表面の温度を測る「表面温度センサー」を取り付けました。端末の表面が発熱しすぎると、低温やけどのブレーキをかけるわけですが、これまでは端末表面の温度が分からないので、基板上の温度から推測していました。高温を示す温度センサーからより低い表面温度を推測するわけですから、ある程度のマージンを持ってブレーキを踏むことになります。

 最大のパフォーマンスで限界まで動作させるには、端末表面の温度を正確に知る必要がある。そこで、「表面温度センサー」です。

 とはいえ、スマートフォンの表面に温度センサーを設置するわけにはいきません。そこでシャープの熱シミュレーションシステムでさまざまなモデルを検証して、「端末表面の温度と一致する場所」を端末内部に見つけ出しました。そこに温度センサーを設置しています。

――たまたまその位置にセンサーを取り付けられる場所があったのですね。

田邊氏
 実は、基板の上じゃないんです。ただ考えていても、絶対気づかないような場所でした。

小林氏
 え、そこ置く? みたいな意外な場所ですよね。「新温度センサー」の発想は一見シンプルですが、筐体の温度を正しく知ることで、正しいマージンでブレーキをかけられるというが、意外と革新的なんです。しかも、端末内部のセンサーから表面の温度を知るというところに、これまでのAQUOSで培ったノウハウがあってのものでした。

2年間のOSバージョンアップという約束

――「4つのR」の中で「Reliability」(信頼性)での取り組みを教えてください。

篠宮氏
 「AQUOS R」では、最新のAndroid体験を2年間楽しんでいただけるように、発売後2年間のOSバージョンアップを保証しています。

 もう1つの要素として、一歩進んだ防水・防塵性能があります。シャープのIGZO液晶ディスプレイはもともと水濡れに強いのですが、今回はそれに加えて、タッチパネルの感度調整を徹底的に最適化しており、水に濡れても快適にお使いいただけます。

――本誌の読者からは「2年間のOSバージョンアップ」に注目が集まっていたようでした。

小林氏
 実はこれまでもシャープは積極的にOSバージョンアップに取り組んできました。Android 7.0では最速でバージョンアップを提供した機種もありましたし、ここ2年でOSバージョンアップを2回経験している機種も、5~6モデルほどあります。

 今回の発表では、OSバージョンアップを「発売日に」お約束したところが画期的だと考えています。これまでは「アップデートをする機種かしない機種」というのを、ある意味くじ引きのように選ぶ形になっていましたから。

――OSバージョンアップでは、「Android One」の取り組みも生かされているのでしょうか。

小林氏
 そうですね。Android Oneを経験したことで、グーグルさんやチップセットのベンダーさんとの連携が密になりましたし、私たち自身の作り方にも変革が起きましたね。

――このほか、読者に伝えたいことはありますか。

小林氏
 結果的にあまりお話ししていない部分ですが、「AQUOS R」ではソフトウェア面でも大きくブラッシュアップしています。ホームアプリはAndroid 7.0のユーザーインターフェイスに合うよう作り直していますし、一部のシャープ製のアプリは外しています。フィーチャーフォンからスマートフォンへ移行していた時期に必要とされていたアプリで、役割を終えたかなというものを無くしています。

 その代わりに、パフォーマンスですとか、OSバージョンアップの安心感ですとか、今求められている機能にフォーカスして作り込んだ、シャープ渾身のフラッグシップが「AQUOS R」です。

 最後に、デザインについては発表後から発売までの間にも日々進化させていますので、店頭モックだけでなく、実機をぜひ手に取ってみていただきたいとおもいます。楽しみにしていただければと思います。

――本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

手前左から、伏見聡氏(商品企画担当)、田邊弘樹氏(熱管理システム担当)、小林繁氏(商品企画部長)、佐藤雄一氏(ディスプレイ担当)、篠宮大樹氏(商品企画担当)。奥左から、酒巻拓朗氏(機構設計担当)、水野理史氏(デザイン担当)、飯田義親氏(エモパー担当)、田嶋健吾氏(ソフトウェア担当)

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