インタビュー

シャープ渾身のフラッグシップ「AQUOS R」開発者インタビュー(前編)

新デザインで目指したもの/スマホが動くスタンド「ロボクル」を作った理由

AQUOS R

 7月初旬にNTTドコモ、au、ソフトバンクの3キャリアから登場するAndroidスマートフォン「AQUOS R」は、シャープが放つ“渾身のフラッグシップ”だ。妥協のないスペックに、進化した120Hz駆動の「ハイスピードIGZO」、動いて話しかける充電スタンド「ロボクル」など、ユニークな機能を備えている。

 「AQUOS R」の開発陣から、各分野で代表して9名の皆さんにお話を伺った。前後編として、新フラッグシップに込めた熱い想いを余すところなくお伝えしたい。

手前左から、伏見聡氏(商品企画担当)、田邊弘樹氏(熱管理システム担当)、小林繁氏(商品企画部長)、佐藤雄一氏(ディスプレイ担当)、篠宮大樹氏(商品企画担当)。奥左から、酒巻拓朗氏(機構設計担当)、水野理史氏(デザイン担当)、飯田義親氏(エモパー担当)、田嶋健吾氏(ソフトウェア担当)

「AQUOS」を再確認したフラッグシップ

――今回の「AQUOS R」は、3キャリア統一の新ブランドとして発表されましたが、ブランド統一に至った経緯を教えてください。

小林繁氏(シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部長)

小林氏
 「AQUOS R」を発表したときに「3キャリアで統一ブランドになった」ということが大きく取り上げられました。しかし、シャープが強く伝えたかったのは、「AQUOS R」というブランドを新たに打ち立てたいという想いです。ブランド統一はその結果に過ぎません。

 「AQUOS R」は、各部門からトップレベルのエンジニアが結集した、シャープ渾身のフラッグシップです。新ブランドを立ち上げるに当たって、フィーチャーフォンの頃から手がけてきたAQUOSというブランドを再認識し、進むべき方向性を見いだしました。

 シャープはこれまで、モバイル業界をリードしていましたし、業界初・世界初といったものにも積極的に取り組んできた自負があります。例えば、解像度競争はフィーチャーフォンの初期から仕掛けてきましたし、今でこそ各社のカタログに書かれているレンズの明るさ「F値」も、シャープが「明るいレンズできれいに写そう」という活動をしたところから、競争軸になっていきました。

 この「新しい技術をオリジナルで、業界初・世界初という形で投入していこう」という我々のDNAの根本には、「人の役に立つものを作りたい」という思いがあります。振り返ってみると、人に寄り添って、人々がより利便性高く過ごすための携帯電話と作り続けて、「AQUOS R」というシリーズ一新に到達しました。

――統一ブランドに注目されがちではありますが、その先の世界観がある、ということでしょうか。

小林氏
 そうですね。世界観にこだわって伝えていきたいです。「AQUOS R」が引っ張っていく、これからのスマートフォンAQUOSは、「Warm & Technology」という新しいコンセプトを掲げています。

 世の中にはたくさんのスマートフォンがありますが、「かっこいいもの(Cool)・人によりそうもの(Warm)」と「先進技術を搭載したもの・普及している技術でまとめたもの」という2つの軸で分類すると、多くのスマートフォンは「かっこよくて先進的なもの」という領域にあることに気づきます。本当にそれだけがスマートフォンでしょうか。

 AQUOSには先進的な技術を取り込んでいますが、それはかっこよさを表現するために取り入れたというよりも、お客様によろこんで日々使ってもらえたらという思いで投入していました。例えば、進んだ技術というイメージがある光学式手ブレ補正も、「ケータイのカメラで普通に撮ると手ブレしますよね。気軽にしっかりと撮れるようにしました」という、親しみから出てきたアイデアです。

 そう考えていくと、ややウォーム寄りで、それでいて技術的に進んでいるという領域に、AQUOSというブランドの立ち位置があるよね、と気づきました。「Warm & Technology」というコンセプトには、スマートフォンAQUOSのDNAを改めて問い直して、親しみと先進感というものにフォーカスして開発していこう、という我々の想いが込められています。

Rに込めた4つの約束

――「AQUOS R」にはこのコンセプトがどのような形で反映されているのでしょうか。

小林氏
 「Warm & Technology」というコンセプトを2017年夏モデルの「AQUOS R」として、実際の製品にどう落とし込んでいくか。それを表現したのが発表会でも紹介した「Rに込めた4つの約束」です。

 「Reality」「Response」「Reliability」「Robotics」という4つの「R」に、AQUOS Rが提供する4つの価値を表現しています。

 シャープのスマートフォンといったらこの機能というのが「ディスプレイ」「カメラ」「AI」です。お客様にも期待される機能ですし、開発メンバーがなにも言わなくてもこだわる部分です。それを「Reality」(リアリティ)として表したのが、IGZOディスプレイの表現力や、カメラの描写力です。

 「Response」(レスポンス)は、2015年冬モデルから搭載している倍速駆動のIGZOを進化させ、より進化したヌルヌルさを体感いただけるようになっています。さらに、倍速IGZOの動作を支えるハードウェアにもきめ細やかなチューニングを施し、最大限のパフォーマンスを発揮できるようにしています。

 「Reliability」(リライアビリティ)は、ハイパフォーマンスなスマートフォンを安心して使えるという安心感・親近感を改めてお約束させていただきます。

 「Robotics」(ロボティックス)は、AIそのものですね。スマートフォンAQUOSで続けてきた話しかけるAI「エモパー」に、今回は、ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」で培ったきた“動き”を取り入れています。この領域は、今後もっとも成長していくポテンシャルを秘めていると考えています。

 もちろん、この裏側には、「Renewal」や「Revival」といったAQUOSをお届けする我々の想いも込められていますが、お客さまへのお約束は「4つのR」に表しています。

――新しいブランドとして打ち出された「AQUOS R」ですが、実際の端末のロゴや画面では「AQUOS」のロゴが使われていますね。

小林氏
 もちろん端末に「AQUOS R」と刻印したほうがいいじゃないかという意見はありました。しかし、それでは、「RがついていないAQUOSってなんだろう」となってしまいます。

 「R」はあくまでもAQUOSを牽引するフラッグシップです。「R」を核に、AQUOSブランドを全体で「Warm & Technology」というコンセプトで推し進めていきたいと考えています。

 ちなみに、このAQUOS Rのロゴには、裏話があります。この「R」という“たった1文字”を、小林章さんという、欧米の著名なロゴも多く手がけていらっしゃるタイプディレクターの方にデザインしていただきました。直接お客様に関係することではないので大々的にアピールはしていませんが、フラッグシップとしての決意が込められた1文字です。

一新のデザイン、ポイントは「持ちやすさ」「触感」

――これまでのAQUOSシリーズから一新されたデザインは、どのように決められたのでしょうか。

水野理史氏(シャープ IoT通信事業本部 デザインスタジオ 課長)

水野氏
 最初に「Warm & Technology」というコンセプトをベースに、デザインの開発担当それぞれが、本当にたくさんのデザイン案を出していって、コンセプトを深く掘り下げていきました。

小林氏
 書きまくる。作りまくる。

水野氏
 そうそう。みんなたくさんのアイデアを持っていて、本当に、いっぱい作りました。作るたびに良くなっていったという感じですね。

――デザインのポイントを教えてください。

水野氏
 「Warm & Technology」というコンセプトを具現化するために、デザインセンターでは形のコンセプトを作らなければいけない。そこで考えたのが「Comfort & Quality」です。

 まず、「手にもっていかに持ちやすいか」ということを徹底的に考えました。

 世の中のスマートフォンのデザインでは「見て新しい」というところにまず注力されて、ユーザーにとって本当に使いやすいかどうかは、あまり考えられてこなかったのではじゃないか、と我々は思ったんですね。そこで、手にもったときの快適さを徹底的に追求しました。

 加えて、作りの精度感を重視しています。成形品ではスキマとか、ヒケとか、塗装のダレといったところが、全体の質感を落としていきます。スマートフォンを手に持ったときの距離感はだいたい30cm。これは腕時計を見るときと同じくらいの距離感です。腕時計をデザインコンセプトとして取り入れ、眺めたときに、いかに美しく見えるかを追求しました。

 そして、触感ですね。「手に持った時にいかに感じるか」という。目をつぶって手に取っても、シャープのAQUOSだとすぐわかるような、特徴的な触感を考えました。

――側面のフレームは独特な形状になっていますね。

水野氏
 通常、スマートフォンというのは、全世界に供給するようなものなので、どうしても単純な造形になってしまうんですね。ドリル1本でぐるーっと回せばできるような形に大量生産に適した形ばかりになってしまいがちです。

 我々は今回、時計のような情緒性をもったデザイン表現を、金属加工でいかに実現できるかを検討しました。そして編み出したのが、「Emotional edge(エモーショナルエッジ)」という特徴的な形状なんです。側面は切り立ったエッジがありますが、上下にまわっていくとエッジが消えていくような、特徴的な造形に仕上げています。

 スマートフォンに触れるときは、手に持つときと、握るときという2つの持ち方がありますよね。持つときは、手からすべってツルッと落とすということがありがちです。そのとき、手にしっかり引っかかって落とさない形状であるということ。握った時は、しっかりホールドして操作しやすい形状であるということが重要です。

 側面にエッジを持たせているのは、端末が表向きであろうと裏向きであろうと必ずひっかかるから。そして、上下のフチに向かうにつれてエッジが消えていくことで、持ったときに違和感なくフィットする。こういった特徴を持つのが、今回の「Emotional edge」(エモーショナルエッジ)というデザインです。

酒巻拓朗氏(シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 機構開発部 技師)

――このフレーム形状は削って、磨いてを繰り返して形作っているのでしょうか。

酒巻氏
 サイドにはエッジがあって、それが上下に向かうにつれて消えていくというこのフレームは、金属に研磨を繰り返しかけて、完成度高めています。

 技術的な話になってしまいますが、基本的には切削で作っていくので、エッジのところと上下のRをつけていくところ、それがつながっていく部分をいかに滑らかに表現するかというところに苦労し、相当な人数を投入して試行錯誤を繰り返しました。

――触感のこだわりを教えてください。

水野氏
 テクノロジーや先進感を表現するうえで、やはり質感というのは非常に欠かせないなと考えました。それを金属という素材で表現したのが、この「リキッドメタル」です。金属でありながら“未来感”を象徴する質感を追求しました。

 それがこの水銀の水滴のような仕上げです。ベタなたとえですが例えば映画の「ターミネーター2」のような、ああいった世界観ですね(笑)。

 金属の表面に多層膜蒸着によるコーティングをほどこしたことで、金属でありながら、セラミックのようなちょっと違った質感、光の変化を表現することによって、パッと見たときに「なんかちょっと新しいな」と思える。持ったときの先進感とかやわらかさが感じられる表現を目指しました。

――最近のスマートフォンのデザインでは、各社「2.5Dガラス」や「メタル素材」などをアピールすることが多いですが、シャープとしてはユーザビリティーを重視されているということでしょうか。

水野氏
 そうですね。ユーザビリティーを考えずに、こんな技術を使った、こんな素材を使ったというだけでは、単なる技術誇示で終わってしまいます。ただの材料をどう生かすのか、という観点からデザインしています。

――造形そのものは、ものすごく新しい、というよりはオーソドックスな部分もありますが、デザイン性ばかりを追求しているわけでもない、ということですか。

水野氏
 デザイン性ばかりを追求すると、どうしてもなんだか持ちにくい、というものができてしまいます。ユーザーから見て本当に使いやすいスマートフォンとはなんなのか、というのを考えていかないといけないですね。

――カラーでは、3キャリア共通のマーキュリーブラックとジルコニアホワイトのほかに、ドコモではクリスタルラベンダー、auではライトゴールド、ソフトバンクではブレイズオレンジと、各キャリア専用カラーをラインナップしていますね。

小林氏
 携帯電話としてのAQUOSは歴史が長く、各オペレーターさんの中でのブランドの立ち位置が若干、違っています。中心的なブランドとして存在できているオペレーターさんもあれば、安心感を求めるたお客さまに買っていただいているオペレーターもあり、逆に先進感を求めて買っていただいているオペレーターさんもあります。

 お客さまがどうしてAQUOSを選んでいただいているのかを考えていくと、オペレーターさんごとに異なるカラーを提供するのが最適解だったと考えています。

左から、マーキュリーブラック、ジルコニアホワイト
左から、クリスタルラベンダー(ドコモ限定色)、ライトゴールド(au限定色)、ブレイズオレンジ(ソフトバンク限定色)

――シャープでは過去「EDGEST」というコンセプトで三辺狭額縁の攻めた時代もありましたね。

水野氏
 あれは単純に技術誇示に走ると、結局手に持つ道具として違う方向にいって、ユーザーから嫌われるという、典型的な例なのかなと思います。

 技術誇示は必要なんですけども、それプラス、ユーザーの目線もちゃんと考えていかないと、これからのスマートフォンというのはちゃんと作れないのかなと思います。今後はより人工知能みたいな方向に進化するので、機能的にも人に寄り添っていかなきゃ。

小林氏
 「EDGEST」は「EDGEST」で、コアなファンがいらっしゃるデザインですし、私どもはそこに対しても答えを出していかなければいけません。狭額縁が悪と言うわけではないと考えています。

 ただ、今のスマートフォンは一度お買い上げになられたら3年間くらい使われるので、人の生活に溶け込んでいけるものにしていくには、日々使っていて馴染むものでなければなりません。そういった観点から、この夏モデルでは「Warm & Technology」というコンセプトに沿う新しいデザインを提案しています。

“動くスタンド”「ROBOQUL」でエモパーにさらなる親しみを

――今回、動く充電スタンドとして発表された「ROBOQUL(ロボクル)」もこれまでになかった取り組みですね。

篠宮大樹氏(シャープ IoT通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 主任)

篠宮氏
 ロボクルは、4つのRのうち、4つ目の「Robotics」の取り組みです。

 これまでAQUOSでは、タイミングよく話しかけるAI「エモパー」を2014年から搭載しています。それと連動して、端末側に話しかけるような“動き”を付けられないかと取り組んでいました。2016年にはイルミネーションや画面内できらめく光を使った「ヒカリエモーション」を取り入れ、エモパーの表現に“動き”の要素を与えるアプローチをしていました。

 今回は一歩進めて、充電スタンド「ロボクル」によって、スマホに実際の“動き”をつけています。「AQUOS R」を取り付けると、エモパーが話しかけるときに、インカメラでユーザーさんを探して、振り向いてくれます。

――そもそも、なぜ作ろうと思ったのでしょうか。

篠宮氏
 シャープではロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」で早くからロボティックスに取り組んでいるのですが、AQUOSのエモパーでは発話だけでAIの“人格”を表現しようとしていました。

 ただ、実際にロボット感を出して行くにはどうしても発話では不十分だとも思っていまして、エモパーに合わせて、動きを付けていく必要があると考えました。

小林氏
 人型ロボットの研究には「モダリティー」という興味深い概念があります。ただ動かないロボットと話すよりも、まばたきや身体の揺れのように、ときどき動くようなロボットと話す方が、人間は愛着や親近感がわきやすいのだそうです。体温と声、目の動きとうなずきといったように、組み合わさっていくほど、生命観を感じるんですよね。

 「ヒカリエモーション」を取り入れたときもエモパーがしゃべる内容によって、ぶわっと広がる光の表現すると、「おお、本当に生きている」と感じてくださった多くいらっしゃいました。そこに動作を加えて、生命観を高めた、というのが1つ目の理由です。

 2つ目にスマートスピーカーのようなホームアシスタント機能を搭載した製品が登場していますが、ホームアシスタントに一番近いところにいるのはやっぱりスマートフォンなんですよね。クラウドにつながっていますし、マイクもスピーカーも搭載していますし。動きだけが足りていなかったので、それを加えることでホームアシスタント的な機能が実現できると思っていました。

飯田義親氏(シャープ IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部 プロダクトソリューション開発部 技師)

飯田氏
 エモパーの視点から見ると、「ユーザーさんを見つけてしゃべる」という瞬間、心を通わせる瞬間でもある。ロボクルの開発では、心地よくしゃべり始める瞬間に話し出すように、かなりの調整を重ねてきました。

小林氏
 今までのエモパーは、「スマホを置いたらしゃべる」といったように、ユーザーさんが何かを動作をしないとしゃべりださないという限界がありました。

 ここで例えば「出発する時間ですよ」といった、今どうしても伝えたいことを話し出すには、ユーザーさんに能動的に話しかけないといけません。ロボクルによってそれが可能になり、エモパーがより良いタイミングでユーザーさんに話しかけることができるようになります。

――ロボクルには、ソフトウェアアップデートで機能が追加されていくのでしょうか。

小林氏
 「AQUOS R」からUSB Type-C端子を搭載しているので、今までのmicroUSB搭載の機種では使えませんが、アップデートに対応しやすいように設計しています。

 絶妙なのが画面オンで作動する挙動を、Androidの標準APIによって実現しているところですね。だからこそGoogle アシスタントの「OK Google」のかけ声で画面を点灯するという動作を実現できています。Android OSのバージョンアップにも対応できる作りにしています。

(後編に続く)

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