インタビュー
「ドコモはスマートスピーカーは手がけない」、ドコモ吉澤社長インタビュー
AIも5Gもサービスの整備に注力、次の“還元”のヒントも語る
2017年6月29日 20:17
2017年からの中期目標「beyond宣言」を掲げ、新たな料金プランや5G、AIのオープンプラットフォーム化など、幅広い分野で取り組みを進めるNTTドコモ。その一方で「店頭での説明が不十分」と総務省から指導があったばかり。今、ドコモが何を考え、次にどんな一手を打つのか。代表取締役社長の吉澤和弘氏へのインタビューをお届けする。
吉澤社長からは、AIや5Gなど次世代に向けたドコモの基本的な姿勢がパートナーとの協業による「使ってもらえる環境作り」にあることが語られたほか、docomo withに続く次の“還元策”として、何らかのサービスと料金のセットや、シニア向けの取り組みを考えていることが明らかにされた。
シンプルプラン、docomo withの利用件数
――この春、シェアパック向けで月額980円の「シンプルプラン」や、特定機種の購入で通常よりも料金が安くなる「docomo with」の提供が開始されました。まだ日は浅いですが、それぞれの利用動向は?
吉澤氏
5月から提供を開始した「シンプルプラン」は30万件を超えました。申し込みの翌月から適用になりますので、6月から適用された実際の契約数が17~18万件。残りは7月からの適用分、つまり申し込みが30万件を超えている、というところです。
――予想通りの実績ですか?
吉澤氏
我々の思惑よりもちょっと少なかったですね。またdocomo withについては、利用件数が12~13万件です。対象機種は「arrows Be F-05J」「Galaxy Feel SC-04J」の2機種ですが、「Galaxy Feel SC-04J」のほうがちょっと人気ですね。わりといい実績ですよね。
基本的な機能がしっかりしていて、防水防塵でデザインも良く、価格も2万~3万円という機種で、フィーチャーフォンから乗り換える方が多く、スマートフォンを使いたいが料金がネックになっていた方、それでもドコモを使いたいという方に当たったなという感じがします。
もちろんdocomo withだけではなく、他の施策を考えなければいけません。それでも、端末は安く補助(端末割引)がないものと、これまでの売り方を踏まえつつ料金を工夫して還元するようなものと、両サイドから展開したいと思います。
これからのdocomo withのラインアップは
――docomo with第1弾はミドルクラスのスマートフォンが対象でした。「当たった」ということであれば、今後の対象機種もミドルクラスのものから、ということになりそうでしょうか。
吉澤氏
iPhoneやXperiaといったハイエンド機種が好きな方もいて、そういった機種へdocomo withを適用するか、ご要望を拝見していきたいです。
――要望はまだ強くはないですか?
吉澤氏
強くはないですね。ただ、docomo with対象機種をいったん購入していただいて、その後、SIMロックフリーの機種に、ということはできます。我々としてはそういう使い方もウェルカムです。もっとも、端末を購入しやすいよう補助があって成り立っている機種もありますから、まだ難しいですね。
――通年ですと、また秋頃に、次の新機種が発表されると思いますが、そうしたタイミングでのdocomo with対象機種を拡大されますか?
吉澤氏
秋冬でもdocomo with対象機種はいくつか増やしたいです。ただ、フラッグシップ機種に当てはめるかどうか。今までのやり方とdocomo withのどちらかを選べるよう、並列にするというのは難しいです。
――docomo withとシンプルプランの両方を適用すれば月額280円となるとのことですが、実際、そういうユーザーは多いのでしょうか?
吉澤氏
そういう方はいらっしゃいますが、まだ大勢を占めているわけではありません。そのあたりの動向は今後見ていきます。
――そうした割引が適用されるユーザーからすると、安くなった分、dTVなど他のサービスを利用してもいいと思うケースがあるかもしれません。
吉澤氏
その通りです。実際に店頭ではそうした形でオススメすることもあります。
個人的に使っているのはGalaxy S8+
――この夏の注目機種としては、「Galaxy S8/S8+」もあります。
吉澤氏
実は「Galaxy S8+」を使っています。
――あ、そうなんですか!
吉澤氏
これまでずっと「Note」(GALAXY Note Edge SC-01Gのことか)を使っていたんです。フィーチャーフォンとタブレットと3台併用していたのですが、今回、これ1台にまとめました。使いやすいですよ。
――お気に入りのポイントは?
吉澤氏
やっぱり持ちやすい。長いディスプレイで、横にして使うと文章も読みやすいです。映像を観るときもキレイです。会社のメールやイントラにもアクセスできるようにしています。
――ちなみにGalaxy S8/S8+の売れ行きはいかがですか。
吉澤氏
まだ発売して間もない(6月8日発売)ですから……今はXperia(XZs、XZ Premium)がちょっと人気ですね。それに次いでこれですね。
AIは「サービスがなければ面白くない」
――ハードウェアに関しては、スマートフォンではなく、最近、AI対応のスマートスピーカーが話題です。
吉澤氏
ドコモとしては、そうしたデバイスに固執はありません。
――なぜでしょう?
吉澤氏
自分たちで用意するよりも、得意な方々がいます。室内向けのマイク/スピーカーデバイスを手がけるよりも、オープンなイニシアティブでAIのAPIを開放して充実しなくちゃいけないかなと。サービスは、僕らがいろんなパートナーの方と一緒になって用意しなければいけないと思います。検索だけではなく決済や取引もありますよね。
――サービスなどの環境を整えてこそ利用に繋がるというのはよくわかります。一方で、他社が先行することでユーザーが持って行かれてしまうという懸念はありませんか?
吉澤氏
あまりありません。サービスへのリンクやトランザクションがちゃんと処理される、ということをいかに充実させるかが重要です。もちろん、富士山の高さを調べたり、芸能人のことを調べたりするといった使い方もあるでしょうが、それは今の技術でも既に実現しています。
(AIを活用するなら)やりたいことがかなえられるほうがいいでしょう。取引、残高照会、位置情報を使った先読みなどができないと面白くないんじゃないか。たとえばタクシーを呼ぶにしても、東京で送迎を依頼できても、福岡ではできないということでいいのでしょうか。仕組みやサービス内容を作り込む必要があります。外出時に宅配便が来ることが判明し、自宅で受け取れないなら調整をする、といったところまで実現できなければ意味がない。
他社が宅内のスピーカーデバイスを展開する中でドコモのものはないのかと言われたら何か考えなきゃいけないかもしれませんが、ただ、そこで何ができるかを考えておかないといけません。現在考えているサービス、機能が実現できるのであれば、そんなに焦る必要はないと思っています。
――ちなみにグーグルやLINEがスマートスピーカーの投入を予告していますが、現時点で、ドコモとしてそうした企業との距離感をどう考えていますか?
吉澤氏
完全に拒否するというわけでありませんし、一緒にできることがあればやるべきでしょう。たとえばグーグルさんとはたくさんお付き合いがあります。
繰り返しになりますが、ドコモとしてはAIのオープンなAPIプラットフォームを展開します。そこへデバイスを繋いでいただいて、サービスも充実させていく。AIエージェントAPIには、自然対話や先読み、IoTといったエンジンを用意しており、皆さんに使っていただくということです。
スピーカー/マイクデバイスを作りつつ、APIの展開やサービスも全てやるというのは難しいでしょう。
次の“還元”は?
――2016年度の決算会見で「beyond宣言」を発表したほか、ユーザーへの還元を強めていくと打ち出しました。次の一手は?
吉澤氏
還元の第1弾としてシンプルプラン、ウルトラシェアパック30を出したわけですが、「docomo with」は第2弾のつもりです。決算会見での説明では、第1弾での還元額は300億円としており、それ以降を数百億円としており、docomo withも含まれます。
次の展開として、ひとつ言われているのは「長期へのお客さまへの還元が少ないのではないか」ということです。今は契約期間にあわせた割引を通信料から差し引いていますが、実感がない、とよく言われます。これは料金からの割引で、割引後の金額が当たり前になって、割引された感覚が得にくいのでしょう。そのあたりはもうちょっと考えなきゃいけないと思っています。
料金やサービス、ポイントを融合させてもっとお得感を示せないかと考えています。
――競合他社はクーポンを配付していますね。最近、他誌のインタビューで吉澤さんは否定的な見解を示していましたが。
吉澤氏
毎週金曜日のクーポンはちょっと……。当社も学割で一時展開しましたが、あれは本当にお客さまへの還元になるのかなと。もちろんパートナーの店舗への送客効果はあるでしょう。ただ、我々自身はそれならポイントで還元してどこでも使って、という形を長期契約ユーザー向けに考えられるかもしれません。
あるいは、月額数百円の何らかのサービスをひとつ、料金に埋め込む(セットにする)とか。
――dTVやdマガジン、DAZNなど、ユーザーから人気のサービスと料金のセット、といったところでしょうか。
吉澤氏
そういうものもあるかもしれませんし、あるいは、安心・安全向けのパックや「スゴ得コンテンツ」のようにサービスをまとめてしまうとか。
あとはシニア向けです。今はフィーチャーフォンユーザーが多く、これまで「シニアはじめてスマホ割」のような施策を展開していますが、それだけではなく、シニアだからこその料金体系といったものがないか、考えていきたいですね。
――特定のサービスの通信料を無料にする、カウントフリーはいかがでしょう。かつては否定的な見解でした。
吉澤氏
アイデアはいろいろ検討すべきですね。ただし今、何かあるかというと、そういうわけではありません。そうしたセットを考えて行くのもひとつの競争ですよね。
ITリテラシーが高い人向けの取り組み
――何かサービスとセットになる料金ですとか、条件が増えていくと、店頭での説明という課題が出てくると思います。折しも、28日には総務省からの指導がありました。解約、クーリング・オフ制度に関するもので、ドコモとしては改善に努めていくとのことでしたが、丁寧な対応は待ち時間の増大にも繋がりかねません。どうバランスを取っていきますか?
吉澤氏
非常に大きな、永遠の課題かもしれません。これまでは店頭に頼っている部分はあって、丁寧なご説明で時間がかかってしまうところがあります。
一方で、お客さまのなかにもリテラシーの違いがあります。今、セルフ端末を作ろうと考えています。そこで手続きや処理を簡単にできるようなものですね。リテラシーが高い方は契約や更新などを、ネットやセルフ端末で進めていただくという形です。
――ユーザーサポートではチャットボットを活用する企業も増えています。
吉澤氏
ドコモでも始めています。LINEを使いながら、悩み事や質問事項を投げていただくと対応するといった形になりますが、beyond宣言のひとつとしてAIを活用する具体的な取り組みを進めています。
――待ち時間の短縮などの目標は?
吉澤氏
公表はしていませんが、当社の営業部隊内では掲げています。来店そのものは、私どもの新しいサービスなどを紹介するいい機会でもあります。ただ待ち時間を、待ち時間と思わせないようなことを何かできないか、今、いろいろと考えを巡らせています。
使ってもらえる「5G」にするため
――ドコモとしての取り組みは多岐にわたりますが、吉澤さんが個人的に思い入れと言いますか、注力したい分野はどういったものになりますか?
吉澤氏
今、注力したいのは、「5Gを、スタート時点からいかに、その良さをわかってもらうか」ということですね。過去を振り返ると、3G、4Gの開始時には「そんなに高速になって何に使うの?」と言われたんです。でも、実際には高速化にあわせて、動画サービスなどが進化してきました。
5Gでは、過去の二の舞、三の舞は避けたい。そこで今の段階で5G時代にどうなるか体験できるようにしておき、パートナーになり得る企業の方々に、こんな使い方ができそう、と発想していただけそうな環境を整えています。
――東京以外でも展開していきますか?
吉澤氏
はい、最近では医療関係で和歌山県立大学と協力しました。将来的には遠隔医療、遠隔手術のようなものを実現したいですね。遠隔操作する機器もかなり遅延を少なくできるようになり、鮮明な映像を伝送できるようになっています。
――5Gでは、ネットワークへの投資だけではなく、パートナーと組んでサービスやアプリケーションを提供していくと。
吉澤氏
言ってみれば、新しいサービス、新しいビジネスと5Gをあらかじめ組み込んだ形で考えていければなと(企業へ)お伝えしていきたいですね。
5G時代の料金の考え方は
――5G時代になるとコンシューマーとドコモの関係、といったところも変化していきますか? たとえばIoTもまた5Gで更なる進展が期待されていますが、これまでの発想ですと、1つの機器に備わる1回線ごとに料金がかかるという形になりそうです。まだ時期尚早かもしれませんが、どう思われますか?
吉澤氏
たぶんドコモとお客さまの間での料金というところでは、サービスを提供する企業さんが必ず存在することになるのではないでしょうか。既に実現済のサービスとしては、たとえば日産さんの「リーフ」という自動車にはドコモの回線が組み込まれています。これは月額費用をお支払いいただいているのではなく、5年ごとでメンテナンス費用に含む形です。
自動車も、今後、コネクテッドカーと呼ばれ、インフォテイメント(情報、エンタメコンテンツの提供)が利用されるようになっても基本的には同じような形になるのではないでしょうか。その中で特別なコンテンツでは都度課金にできます。スマートメーターも同じです。仕組みを下支えしつつ、いわゆるB2B2Cサービスのなかでドコモは企業から料金をいただく形になるのではないでしょうか。
――回線の使い方、というところですと、最近はeSIMがタブレットに組み込まれてコンシューマー向け製品で登場しました。あるいは市場全体を見ると、MVNOが1契約で複数枚のSIMカードを提供しています。ドコモとして、回線の新しい使い方や体験を提供することについては?
吉澤氏
今は海外を含めて、いろいろな工夫がありますよね。まずeSIMについては、将来的にはウェアラブルデバイスなど応用範囲が拡がるだろうと思っています。チャイナテレコムと国をまたいだアクティベーションも発表しています。
一方、複数SIMのような動きについては今はまだ、特に何もありません。
「ドコモ経済圏とは絶対に言うな」
吉澤氏
回線契約は、ドコモの手がけるもののひとつで、全てではありません。dマーケットや光回線を手がける中で、サービスのひとつです。そうなると、そこに連なるのはdアカウントです。会員向けにサービスや価値をいかに拡げるかを考える時代だと思います。
特に最近、(社内で)言っているのは「ドコモ経済圏と絶対に表現するな」と。ドコモ回線契約の方だけを優遇する、サービスを提供するということではなく、ドコモのdアカウント会員であれば優遇を受けられるわけです。グーグルさんもFacebookさんも回線契約は関係ないですし、もっと広く受け止めるべきだと思っています。
9月はどうなる?
――次の新機種はどうなりますか? 毎年9月には話題のスマートフォンの新モデルが登場しますが、たとえば昨年は他社が大容量プランで先行しました。
吉澤氏
9月はまだどうなるかわかりませんけども……たとえば大容量プランということでは、容量はもうかなりのものになっています。かといって米国のようなアンリミテッド(無制限)なプランはなかなか言い出せません。先日、上海でGSMAの会合もあったのですが、みんな「アンリミテッドは良かったのか?」と口にしていました。
もちろんグローバルで見ても通信量はかなり増えています。欧州もこれからLTEという面はありますが、それでも3GB、5GBとなってきているという話ですし、利用動向にあわせていくことはあるかもしれません。パケット単価は安くなってきていますが、端末との関係では……まだお話できるものはありません。
――なるほど。本日はありがとうございました。