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ソフトバンク通信20年の歩みとAI-RAN――周波数制約からのインフラ構築と次世代戦略

 過去に「繋がらない」と指摘されたネットワークを、いかにして現在の通信インフラへと構築してきたのか。ソフトバンクは10月1日、携帯電話事業の参入から20周年を迎えた。

説明会会場には、年表をプリントした手ぬぐいが飾られていた

 これにあわせ、これまでのモバイルネットワーク整備における技術的課題と、次世代のAI-RANを見据えた戦略を語る報道関係者向けの説明会が開催された。

 プラチナバンドを持たない状況での参入や、データトラフィックの急増を引き起こしたiPhoneの発売、そして新技術の導入まで、同社が取り組んできたインフラ整備と課題解決の歴史が、モバイルネットワーク本部長の長野哲也氏から語られた。

ソフトバンクモバイルネットワーク本部本部長の長野哲也氏。2000年J-フォン東京入社。無線エンジニアとしてキャリアをスタートし、2G・3G・4Gの業務に従事。2013年にNW検証部コア検証課課長、2018年にサポート部部長、2023年モバイルコア統括部統括部長、2026年4月から現職。

プラチナバンドなし・基地局2万局からの参入

 1981年に設立されたソフトバンクは、いわゆるパソコン向けのソフトウェアの流通事業と出版事業が祖業だ。インターネットに関する事業にも積極的に取り組み、2000年には宅内向けの高速通信サービスへ参入。2005年11月にはいったん、1.7GHz帯での新規参入が認められた。

 その前の2004年には、800MHz帯の再編にあわせて周波数の割り当てを求めるなど、ゼロからの基地局建設をスタートしようとしていた段階もあった。

 しかし、2006年、ソフトバンクはボーダフォンを買収。1兆円以上の資金を投じた方針転換だった。

 長野氏によれば、ボーダフォン買収によって設備と1500万を超えるユーザーを引き継いだものの、当時の割り当て周波数は1.5GHz帯と2.1GHz帯の計60MHzしかなく、基地局数も2万局程度にとどまっていた。

 現在と比べると、当時の基地局数はわずか5%程度。さらに、電波が障害物を回り込んで建物の奥まで届きやすい「プラチナバンド(700〜900MHz帯の周波数)」を持たないまま、限られた周波数と設備で他社と競合しなければならない状況からのスタートだったと長野氏は振り返る。

iPhone発売によるトラフィック増と電波改善宣言

 その限られたインフラの中で、同社は国内初のiPhone発売に踏み切る。

 国内の携帯電話はそれまでもネットを利用したサービスが提供され、スマートフォンと呼ばれる製品も存在していた。しかし、アップルならではの操作感とデザイン性などから「iPhone」は前年に海外で発売されていた初代モデルから国内でも注目されており、ソフトバンクでの発売は、“インターネットを常に持ち歩く時代の到来”を告げるものとして大きな話題となった。

 同時にそれは、ネットワークへの負荷が急激に高まることを意味していた。トラフィックの増加を前に、ネットワーク部門のメンバーにとってはここが大きなチャレンジの場面になったと長野氏は語る。

 このトラフィック増を支えるため、2010年3月に打ち出されたのが「電波改善宣言」だ。同社は保有する資産を活用し、2010年時点で6万局だった基地局を翌年には倍増の12万局へ引き上げる計画を断行する。さらに、無料のWi-Fiスポットを、ピーク時には46万スポットにまで拡大させ、逼迫するネットワークの負荷を分散させた。

 基地局を増やすための取り組みとして、当時ウィルコムが保有していた約16万局のロケーションを有効活用した点も大きなポイントとなる。

 ただし、ウィルコムのロケーションは設置スペースが限られている場所が多かった。そこで、物理的な制約をクリアするために無線機の小型化を推進し、展開スピードを加速させたという。

 また、伝送路をIP化してコスト削減を実施することで、基地局増強への投資を割り当てる工夫も凝らされていた。

900MHz帯の獲得と多重ネットワークによる容量確保

 大きな転機となったのは2012年3月。携帯電話事業参入から6年越しとなるプラチナバンド(900MHz帯)が同社に割り当てられた。

 長野氏は、周波数特性として1局あたりのカバーエリアが広く、障害物を回り込み屋内に浸透しやすいプラチナバンドの獲得は、是が非でも欲しかったと当時の状況を説明する。

 同社は2012年7月のサービス開始からわずか9カ月間で、当初予定していた1万6000局の申請を超える2万局を展開するペースでエリア構築を進めた。

 最も大変だった時期について問われた長野氏は、電波改善宣言を出してからプラチナバンドを獲得するまでの期間が非常に厳しい状況だったと語る。さまざまなソリューションを用いて基地局を倍増させ、Wi-Fiでエリアを補完し続けた時期は、現場にとって並々ならぬ労力が必要であったという。

 しかし、プラチナバンドを獲得してエリアを広げたものの、900MHz帯だけでは増加するトラフィックの容量(キャパシティ)を捌ききれないという課題に直面する。そこで同時に推し進められたのがLTEの整備であった。

 ソフトバンクの2.1GHz帯LTEに加え、ウィルコムの2.5GHz帯LTEを組み合わせたハイブリッド4G LTEを構築し、さらに1.7GHz帯と2.1GHz帯を束ねるダブルLTEを展開することで、異なるベンダーや運用手法のネットワークを1つに統合し、全体のキャパシティを引き上げる対策をとった。

スループット向上に向けたC-RANとMassive MIMOの導入

 通信容量(キャパシティ)の確保と並行して、通信速度(スループット)を向上させるための根本的な仕組み(アーキテクチャ)の変更も実施された。従来のネットワーク構成では、BBUと呼ばれる制御装置が各基地局のロケーションに配置される分散型のD-RAN構成であり、基地局ごとの個別制御にとどまっていた。これを4Gの時代から、制御装置を集約して複数の基地局を協調制御するC-RAN構成へと移行させた。

 長野氏によれば、このC-RAN構成への早期移行によって周波数間の干渉を抑え、キャリアアグリゲーションを効果的に運用することが可能になったという。現在の5Gネットワークでは標準的となっている構成を4G時代から構築していたことが、後のパフォーマンス向上に寄与している。

 さらに2016年には、本来5G向けの技術であったMassive MIMOを世界に先駆けて4Gネットワークに導入した。

 大容量時代に向けた先行投資として、周波数利用効率を引き上げ、混雑エリアでの快適な通信を提供する狙いがあった。他社との品質差を生む要因について長野氏は、新しい技術を先行して導入していくマインドや社風が根底にあると説明。C-RAN構成やMassive MIMOの導入といった複合的な技術基盤が品質向上に繋がっていると分析している。

5G SAの展開とAI-RANを見据えた次世代構想

 現在のネットワーク運用においては、顧客のスループットや応答時間などの体感品質をビッグデータとして収集し、基地局設計やパラメータ調整、需要予測に反映させている。

 5Gにおいても、コアネットワークが単独で動作する5G SAを積極的に展開しており、RedCapやVoNRといった新技術を順次導入している。利用ニーズに応じた最適化も進んでおり、たとえばF1日本GPでは、優先制御機能「Fast Access」を用いて一般通信より多くのリソースを割り当てたほか、キャッシュレス決済やミリ波映像伝送を同時に提供し、イベント価値の向上に貢献したという。

 今後のネットワーク進化の軸となるのが、AI-RANの開発と導入だ。

 AI時代における新たな課題として長野氏が指摘するのが、AIデバイスやロボティクス、XRの普及に伴うトラフィック特性の変化だ。従来は下り(ダウンリンク)偏重だった通信トラフィックにおいて、カメラ映像やセンサーデータのアップロードなどが増加し、上り(アップリンク)の需要が高まると予測されている。

 この上りトラフィックの増加に対応するため、同社は通信領域での速度向上メカニズムの導入を進めている。具体的には、端末の送信電力を上げてエリアの端でも通信を安定させる「HPUE(高出力端末)」や、帯域幅の広いTDDを利用する「UL Tx Switching」などの対応を進め、増加する上り需要に備える。

 また、基地局の無線制御(RAN)自体にAIを組み込む試みも始まっている。従来はあらかじめ決められたルールで制御していた基地局内に、AIの推論モードを実装。ソフトバンク独自のデータモデルを学習させることで、「混雑状況に応じたリアルタイムな電波の最適化」などを目指すという。

 さらに、同社が保有するあらゆる通信データや運用ノウハウを学習させた独自の大規模モデルであるLTMの検証も開始されている。これまで人間が行ってきたネットワークのオペレーション業務をAIに代替させ、予兆検知などによる障害の未然防止に役立てる構想も進行中だ。長野氏は20周年を節目ではなく次の変革の起点と位置づけ、AIを軸としたネットワークの高度化に取り組む姿勢を説明した。

災害時も途切れない通信への備え

 新たな技術導入の一方で、東日本大震災の教訓から「非常時でも途切れないネットワーク」の整備も進められてきた。可搬型基地局やドローン基地局といった地上・海上の対策に加え、近年では衛星とスマートフォンが直接通信する「Starlink Direct」や、成層圏から通信を提供する「HAPS」など、宇宙や上空からのアプローチも強化している。さらに、通信障害時などに他社回線へ乗り入れる「JAPANローミング」は、サービス開始から半年で計9回の提供実績があるという。

6Gに向けた「3Dネットワーク」構想

 さらにその先にある6G時代を見据え、新たな周波数帯である「7GHz帯」を用いた屋外での実証実験も実施されている。すでに東京の銀座エリアにおいて、現在の5G(Sub6)相当の通信エリア形成を確認したという。

 6Gのネットワークにおいては、地上だけではなく、ドローンの制御やセンシング技術に対応するため、上空をもカバーする「3Dの通信ネットワーク」の構築が必要になると長野氏は見立てており、次世代通信を軸としたインフラの高度化へ挑み続ける姿勢を示した。