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価値は「機能から体験へ」。Google CloudのイベントでKDDIや日立が語る「AIエージェント活用戦略」

 19日、東京都内でGoogle Cloudの法人向けイベント「Agentic AI Summit '26 Spring」が開催された。本イベントでは、AIが単純なタスク支援にとどまらず、複雑な業務を自律的にこなす「AIエージェント」の時代が到来したことが強調された。企業が提供する価値は「機能」から「体験」の競争へとシフトしていくなか、KDDIや日立製作所、サイバーエージェントがそれぞれのAIへの取り組みを示した。

通信を基盤にAI戦略を進めるKDDI

 「グーグル検索」を国内で初めてモバイル端末に持ち込んだKDDI。KDDI 執行役員 先端技術統括本部長の藤井彰人氏は、これまでにもさまざまなサービスの実装を経験してきたことを説明する。同社とグーグルは、古くから関係を築いてきた。

左=KDDIの藤井彰人氏

 前出の検索サービスに始まり、Androidスマートフォンの取り扱いも早くから始めた。YouTubeやメタバース関連でも協力を続けてきたが、AI関連でもこれまでの関係性を活かして、新たなサービスの社会実装に挑む。

 本業の通信と組み合わせて「AIの活用に応えるため、その土台を提供していきたい」と藤井氏。グーグルとは、グーグルのクラウドプラットフォームやKDDI GPU Cloudのほかグーグルの分散型クラウドなどローカルなAI基盤も提供する。スマートフォンやIoT、ネットワークにもクラウドやAIを活かして、通信とAIを融合させる。

KDDIの3つのAI戦略

 KDDIとGoogle Cloudは、両社が結んだ戦略的パートナーシップに基づき個人向けや法人向け、自社向けと3つの方向性で新たな価値を提供する。

 個人向けにはグーグルの生成AIモデル「Gemini」やAIアシスタント「NotebookLM」などのAIを活用。コンテンツプロバイダーの権利を守りながら、高い信頼性を持つ情報を取得できるサービスの展開を目指す。

 虚構の情報を示したり、コンテンツのポリシーに違反したりすることがないよう、グーグルの専門家チームからどのようにサービスを成り立たせるかのノウハウを得ながら、開発を進めている。同サービスは今春にも提供が始まる見込み。ほかにも、フィジカルAIの社会実装に向けて接客用途の国産ヒューマノイドの開発にも取り組んでいる。

 法人向けには、大阪府堺市のシャープ堺工場跡地に「大阪堺データセンター」を設立。1月に稼働を開始した。データの保管や処理を国内で完結させるサービスへの関心が高まっている。

 藤井氏も「5~10年前まで全部(国外の)クラウドでいいのではと思っていた」と話すが、地政学的なリスクの高まりに加えて、料金の値上げやサービス自体を停止させられる可能性など、不安の種は尽きない。一方ですべてを自前で取り揃えることも難しいとして「Gemini Enterpriseをローカルで保持して活用することも大事」と説明した。

 社内のAI活用も促進する。KDDI社内でAI活用のハッカソンを開催したところ、優勝したのはエンジニアのチームではなく、広報部門のチームだった。藤井氏は「非エンジニアがAIを活用して業務改善できるというのを確認できて、とても刺激的だった」と実感を述べた。

AIの業務への利用、日立やサイバーエージェントの例

 AIの活用が進んでいるのは、もちろん通信事業者だけではない。日立製作所では社会課題解決にAIを取り入れ、同社が持つ業界の専門的な知識やデータをかけ合わせ「HMAX」というブランドで推進している。

 日立は自らを「カスタマーゼロ」(最初の利用者)と位置づけて、同社の業務にAIを積極的に取り入れている。鉄道事業では、走行データと天候や摩耗条件を組み合わせて鉄道保守の最適化や作業員の働き方改革を目指す。同社によれば、エネルギー消費量と保守コストともに、最大約15%の削減に成功したという。

 ほかにも、オフィスワーカーの働き方改革としてGemini Enterpriseを取り入れた。利用率や複数のAIの使い分けなど、課題もあるものの部署横断の組織を立ち上げ、Google Cloudとともに国内4万人規模でのデジタルシステムやサービスへの展開を目指す。

 また、サイバーエージェントでは広告事業などでAIを活用している。クリエイティブ制作・編集向けの独自AIツール「AISCREAM」を開発し、これまで実際のデザイナーが手がけていた制作をAIに置き換えた。

 実際のデザイナーの制作量が30点/月であるのに対して、AI活用の場合は平均で172本/月と5.6倍の効率化が可能になった。生産点数は120万点を超えており、制作工程の30%を圧縮できているという。

AIに継続的な投資が求められる

 AIエージェントの普及により、ビジネスを取り巻く環境やユーザー体験も大きく変わることが予想される。企業が提供する価値は「機能から体験に移り変わる」とGoogle Cloud テクノロジー部門 執行役員の寳野雄太氏は語る。

 提供される体験のハードルが上がると、ユーザーは失望しやすいと寳野氏はキャンペーン申し込みにたとえて説明する。参加条件のわかりづらさやフォーム入力の不備によるやり直しなどは誰しも経験しがちなことだが、寳野氏によると、一度の悪い体験でそのサービスを避けるようになるユーザーは82%、そのブランドへの体験が期待を下回った場合、ほかのブランドを探す割合は70%に上るという。

 こうした事実をもとに「競争の形が変わる。ITに全く関係がないサービスでも、そのブランドが嫌われてしまえば、選ばれなくなる。同じ機能を提供していても体験が違えば、選ばれるものは変わる」と、企業が提供する価値が「機能そのものから体験に移り変わる」と予見を示した。

 KDDIの取り組みの例に代表されるように、インフラとサービスの両輪を整える事業者があり、日立やサイバーエージェントでは、業務プロセスをAIで効率化することが当たり前のものとなりつつある。

 グーグルでは、こうした世の中の変化を受けて「まずAIエージェントを使い始めること」が重要と説明する。使わないとフィードバックが得られず、適切な体験を作れないとする。データ基盤やエージェント評価などへの投資が、いま求められているとした。