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ソフトバンクと科学大、「ドローンWi-Fi中継装置を用いた捜索支援システム」を開発
2025年11月28日 12:09
ソフトバンクと東京科学大学は、遭難者の救助をよりスムーズに進めることを目指し、「ドローンWi-Fi無線中継システムを用いた遭難者捜索支援システム」を開発した。
上空にWi-Fi中継装置を積んだドローンを飛行させ、遭難者と捜索者の位置情報をリアルタイムで取得、共有するという仕組み。Wi-Fiを用いることで、遭難者がどの通信事業者の回線を使っていても捜索できるようになった。
従来の課題を超えて、Wi-Fiへの転換
ソフトバンクと東京科学大学は2016年から、GPSを使った遭難者位置特定システムの研究開発を進めてきた。当初は「ドローン携帯無線中継システム」を採用していたものの、いくつかの課題があった。
一つは、ソフトバンクに割り当てられた周波数帯を利用していたため、ソフトバンク以外の回線を使う端末の位置情報が取得できなかったキャリア依存の問題。もう一つは、電波法関係審査基準の規制により、ドローンを地上と有線で接続・係留しなければならず、広い範囲を飛行できなかった点だった。
東京科学大学の藤井輝也氏は、システムの効果自体は確認できたものの、「実用的には使い物にならなかった」という正直な課題があったと話す。
そこで新システムでは、ほぼすべてのスマートフォンに搭載され、通信事業者に依存せず利用できるWi-Fiに着目した。加えて、2.4GHz帯のWi-Fiは上空での利用が可能なことから、ドローンを係留せず自由に飛行できるようになった。
システム性能と広域捜索の実現
Wi-Fiはモバイルネットワークに比べると通信エリアが狭いという弱点があったが、高利得の指向性アンテナをドローンに搭載することで補った。これにより、1回約15分の飛行でカバーできる捜索範囲が約3~4kmまで拡大。中継距離は最大5kmまで届くとしている。
さらに、通信のバックホールには従来の大型な静止衛星ではなく、小型でインターネット接続がしやすい低軌道衛星(LEO)を利用できるようになり、システム構築までの時間も大幅に短縮された。
こうした取り組みにより、従来の携帯無線中継システムと同等の機能を、Wi-Fi無線中継システムでも実現できたことになる。
遭難者との双方向コミュニケーションも
このシステムには位置特定だけでなく、遭難者に呼びかけたり、応答を受け取ったりできる双方向のコミュニケーション機能も搭載できる。ドローンにはマイクとスピーカーが搭載されているものの、回転翼による騒音の影響を抑えるため、昇降装置でマイクとスピーカーを最大80m降下させ、回転翼から遠ざける工夫が施されている。
呼びかけの音声は、聞き取りやすさを優先し、低い声を女性の高い声にAIで変換して出力することが可能。また、捜索関係者がシステムにスマートフォンを接続することで、遠隔地にいる家族や知人が直接声を届けられる仕組みも用意されている。
実用化に向けた要件と展望
藤井氏は、このシステムが携帯通信事業者に依存しないことで、電波法上の制約がなく、消防機関やセキュリティ会社など、誰でも構築して自由に使える点が大きな利点になると説明する。ルーターなど一般的な機器を採用しているため、万が一故障した場合も修理ではなく交換で対応でき、扱いやすいとアピールする。
ソフトバンクと東京科学大学は今後、今回のシステムと「Wi-Fiを活用した遭難者携帯端末の位置特定システム」を統合し、自治体や公共機関、企業などと連携しながら、実用化に向けた取り組みを進めていく方針。具体的な事業展開はまだ検討段階にあるものの、システム導入のハードルが下がったことで、「手を挙げてくれるところとは一緒に実証実験を進めていきたい」としている。
























