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携帯の電波とドローンで遭難者の捜索支援、ソフトバンクのデモ飛行を見てきた
2022年12月5日 05:00
ソフトバンクと双葉電子工業は、東京工業大学と共同で、災害時に要救助者のスマートフォンなどをドローンで特定するシステムを開発した。
現在実証実験を進めている段階だというこの取り組みについて、今回報道陣向けに一連の流れが公開された。本稿では、特定する仕組みや実際のようすをお届けする。
山菜採り中の遭難や雪崩、土砂災害など「目視できない」救助者を特定
今回のシステムでは、ドローン基地局の仕組みと同様のものを活用し、遭難者のスマートフォンが圏外であっても、位置を特定し捜索に役立てられる機能や、実際に捜索する消防関係者の意見を取り入れた機能で構成されている。
具体的には、「ドローン基地局による携帯回線やWi-Fiによりユーザー端末を通信エリア圏内にし、端末から遭難者の存在や位置情報を取得する」機能と、ユーザー端末がGPS圏外の場合に「携帯回線の電波を送信し、端末からの受信感度情報を参考に位置を推定する」機能が搭載される。
どちらの機能も、ユーザーの端末に専用アプリ「HELPA」がダウンロードされ、バックグラウンドで起動されている必要がある。アプリが必要な理由について、今回の研究を主導した東京工業大学 工学院 特任教授兼ソフトバンク 基盤技術研究室 フェローの藤井 輝也氏は「プライバシーに配慮した結果」とし、山菜採りや登山を始める際にダウンロードし、待機状態にしておいてもらいたいと説明する。
携帯回線/Wi-Fiを利用した遭難者捜索
携帯回線で捜索
携帯回線を利用した遭難者の捜索システムは、ソフトバンクが利用している900MHz帯の一部周波数を活用する。いわゆるプラチナバンドと呼ばれる周波数を利用することで、ほかの周波数帯よりも土砂や雪などの障害物に強いため、土砂災害時などでも利用しやすくなる。
流れとしては、「ドローン基地局で周囲を通信エリア化」し、「遭難者の端末を通信圏内」にする。遭難者の端末は、「オンラインになると自身の位置情報(GPS)をシステムのサーバーに送信」することで、遭難者の位置情報を確認することができる。
遭難者の位置情報を検索するためには、ユーザーの電話番号で検索できる。
藤井氏は、プラチナバンドを利用しているNTTドコモとKDDI、ソフトバンクの3キャリアでは技術的に利用できるとしつつも、ソフトバンクが利用する周波数のみ利用できる免許を利用しているため、現状はソフトバンク回線のみで利用できるとコメント。また、個人的な考えと前置きした上で、「ソフトバンク以外のキャリアも、同様の取り組みを行うことができる。(災害時のような)命に関わる場合は、競争はなしでいいのではないか」との考えを示した。
捜索隊の位置情報も取得/確認可能に
これを応用し、捜索する消防隊などの位置情報も同一の画面で確認できる。遭難者と捜索隊の位置情報を確認しながら、捜索隊に適切な支援ができるようになると藤井氏は説明する。
GPSの電波が届かない遭難者を見つける
ここまでは、遭難者の端末が送信する位置情報に基づいた捜索支援の仕組みだったが、遭難者が地中や雪中に埋まっているケースでは、先述の方法が利用できない。
GPSの電波は、空が見通せない場所では電波が弱くなり、端末が自身の位置情報を計測できない場合がある。たとえば、スマートフォンのナビアプリを利用中、トンネルに入ってしまうと位置情報が受信できず、正しくルート案内できないことがある。
障害物でGPS電波を拾えない場合でも、携帯電話の電波であれば受信できる場合がある。この支援システムでは、携帯電話の電波の受信強度に基づき、遭難者の位置を推定し、捜索を支援する。
仕組みは、「ドローン基地局から電波を発射」し、「受信した遭難者の端末から『受信した電波の強度』を基地局に送信」、「支援システムでその強度を地図に落とし込み、一番強度が高かった位置を遭難者の場所と類推する」流れで、捜索支援を行う。
強度を地図に落とし込む際の位置情報は、ドローン基地局の位置情報に基づいた情報を利用する。このため、遭難者の端末がGPS電波を受信できなくても、位置情報を類推することができる。
なお、遭難者の端末に携帯電話の電波を届きやすいよう、ドローン基地局を通常よりも低空で飛行させるが、網羅的にドローンを飛行させるためには、長時間飛行させなければならないという。このため、地上から通信回線や電源を供給する「有線ドローン」を利用する。
山間部などでは、「有線ドローン」のケーブルが樹木など地上の障害物に引っかかってしまう場合も想定されることから、今回のシステムでは、ケーブルを中継し基地局ドローンにケーブルを空中で架線する中継ドローンも活用する。
端末を持たないユーザーに対して
これまでの取り組みは、何かしらの端末をもった遭難者の捜索を支援する取り組みであったが、一方で共同研究機関である「羊蹄山ろく消防組合消防本部」から「山菜採りに行く人たちは、スマートフォンなど大事なものは車に置いて出かけてしまう」とし、端末を持たないユーザーへの支援要望があったという。
端末を持たない遭難者の救助支援として、ドローンに指向性スピーカーを搭載し、遠隔で呼びかけられるシステムを開発した。