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AI時代の課題は「電力」――CEATECで語られた"次の一手”はオールフォトネットワークと「ワット・ビット連携」
2025年10月16日 06:00
幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催されている技術見本市「CEATEC 2025」で14日、「AI時代のデジタルインフラを支えるオール光ネットワークのミライ」というセッションが開催。ハードとソフト、インフラ、行政のさまざまな面からオール光ネットワーク(APN)の未来をテーマにキーパーソンが現状の課題を率直に指摘し、期待される解決策について語った。
参加者は、総務省国際戦略局技術政策課長の松井正幸氏と、さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏、ソフトバンク次世代社会インフラ推進室長の淺沼邦光氏、1FINITYフォトニクスシステム事業本部長の松井秀樹氏、ソニー技術開発研究所次世代通信技術戦略担当シニアディレクター・IOWN Global Forum ユースケース作業班議長の伊東克俊氏。モデレーターは、日経BP日経ビジネスLIVE編集長の堀越功氏。
データセンターと電力供給バランス
デジタルサービスの提供に欠かせないデータセンターだが、AI時代ではより高度な演算能力、推論能力が求められ、データセンターに要求される能力や計算量などのスペックが指数関数的に上昇している。これを受けて、国内でもデータセンター需要が上昇してきているが、言わずもがなデータセンターは多くの電力を消費して稼働している。電力会社によっては、2030年までに原子力発電所9基分の電力を使いたいという申し込みが来ていることもあるという。
加えて、新規で建設する際に近隣住民から反対の声が上がることもあり、データセンター建設にあたって課題が多いのが現状だ。
ソフトバンクの淺沼氏は、同社のデータセンター建設について「分散型の次世代インフラを掲げている。北海道の苫小牧に300メガワットの大規模データセンターを建設している。この300メガワットも計画当初は大きなものだと思っていたが、現在ではギガワットクラスのものが世界で登場してきている」と説明。電力供給ができるか、という点で土地を探すのが非常に難しくなってきていると語る。
さくらインターネットの田中氏は、ハイパースケーラーによる開発について言及する。田中氏曰く、データセンターが多く集まる千葉県印西市では、土地だけでなく電気の枠とセットにして販売するケースが多く、外資系の企業が高く購入するケースが多くなってきているという。電力の取り合いが発生している一方で、実際はそこまで電力が使われておらず、「新しい企業が現れず、電気が召し上げられている状態」と指摘する。
加えて、住民の生活圏に巨大なデータセンターを建設する点にも「全国でデータセンターが作りにくくなる。事業者にも自制を促したい」とする一方、「外資系の企業だと“自制”だけでは動かないので、国でも規制を求めていきたい」とした。
お金がデータセンター投資に流れる時代に
田中氏は、続けてデータセンターへの投資が集まってくると指摘する。現在は、都心のマンションなど不動産への投資が多いが、ある程度限界が見えているマンションや倉庫の家賃収入から、大きなリターンが見込めるデータセンターへの投資が増えてくると田中氏は分析。米国などでは、電気代が高騰しており、データセンターへの投資が市民生活に影響を与えてくると予想、電力需要の増加を予測して大きな発電所を作るなど、データセンターを分散配置していくべきだと訴えた。
さくらインターネットでは、北海道石狩にデータセンターを建設している。田中氏は、データサーバーのCPUなどの減価償却が大きく、地方にとって「税収面でもありがたい。昔は雇用とも言われていたが、最近の地方は雇用しようにも人がいない。人は少なくて済むが税収が多いので、地方でも喜んでもらっている」と、地方創生面でも分散配置に期待が大きいとした。
政府の立場からはどうか? 総務省の松井氏は、AIとどうやって社会を共創していくかに取り組んでいるとし、AIを持続できるようにするためには、まずはインフラ面に対して考えていかないといけないとした。
その上で、電力供給能力の拡大については「今後需要に追いつけなくなる一方、電力網への投資には時間がやはり掛かる」と説明。長期的な視点で計画を立てていかないと、社会全体が混乱してしまうと指摘し、総務省としても官民で連携し、地方自治体の声も聞きながら取り組みを進めていきたいとした。
ワット・ビット連携
データセンターを分散する上で、土地のほか、先述の電力供給力と通信が必要不可欠だ。電力インフラの整備には時間が掛かる一方、通信インフラには柔軟性がある。
そこで、電力供給能力に余裕がある場所にデータセンターを建てて、そこに通信を敷設するようにすることで、この問題が解消できないかと議論されている。今回のAPNのようなネットワークを活用できれば、これまでデータセンターの立地が多かった都心部周辺から、距離の影響を受けずにデジタルインフラが整備できる。
これら電力と通信、データセンターが一体となり、電力と通信インフラを連携させて効率的に社会基盤を構築する取り組み「ワット・ビット連携」が、一部で進められている。
九州でワット・ビット連携を進めている1FINITYの松井氏は、データセンターを集中させてデータを効率的に処理するメリットは認めながらも、「もう持たなくなってきている」と、日本だけでなく世界でも共通の課題になっていると指摘する。
分散処理でもこのメリットを活かすには、分散配置されたデータセンターをいかに一体的に運用していくかに掛かっており、APNにより、一体的に処理をして効率性を高めることが期待されている。
ソニーの伊東氏は、サービス面について言及。エンターテイメントでは、世界で500万人以上が同時接続していたり、ライブバーチャルイベントなどで1万2000人が同時に利用していたり、「負荷を分散させる」と「即時性を必要とするエッジコンピューティング」の両面での分散コンピューティングが必要という認識を示した。その一方で、経済効率性もデータセンター運用ではポイントとなり、このバランスがこれから直面する課題になるとした。
「単なる分散」ではダメ、異業種を巻き込んだ議論も
一方、さくらインターネットの田中氏は「単なる分散ではダメ」と指摘する。東京や大阪にデータセンターを集中させる必要はないが、需要が固まらないとインフラの整備が進まないとし、100km圏内の地域をいくつか指定し、そこに集中的にインフラを整備することで、ビジネス面でも有効だとした。
これまでも、データセンターの東京一極集中が問題になってきており、近年は関西のデータセンター比率が高くなってきていると田中氏はコメント。過度の集中は大きな問題だとした上で、東京から大阪への移転は比較的うまくいったとし、この勢いのまま、全国3~5箇所で土地建物だけでなくサービスとセットで移転していくことで、状況がかなり変わっていくだろうと話した。
ソニーの伊藤氏は、ワット・ビット連携でデータセンターの利用コストが下がることに期待する。さまざまなアーティストが活躍するエンターテイメント業界にとっては、安価なプラットフォームにより、さまざまなアプリケーションが増加するのではないかと話す。提供コストが下がり、コンテンツが増加し全体の利用が増え、コンピューティング基盤を提供する事業者や通信事業者にとっても収入が増えるサイクルができあがるとし、「1つの業界だけで物事を語るのではなく、マクロエコノミクスの観点で語っていかないと、なかなか車輪が動かない」と指摘した。
AIにより多くのメリットを享受しつつある一方、エネルギー問題など、平時の生活が脅かされれば、まさに本末転倒な話だ。だからといって、他国に遅れを取ってしまえば、他国依存が強くなるだけでなく、経済的負担、ひいては安全保障上の問題になりかねない。APNはこれらAI時代における課題解決に重要な技術で、Beyond 5G/6G時代を支える基盤技術として、より早い実用化を期待したい。















