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AI時代に必要なインフラのカギは“分散化”、ソフトバンク宮川社長が語る「AIとエネルギー問題」

 ソフトバンクとSB C&Sは、法人向けイベント「SoftBank World 2023」を10月3日~6日に開催した。4日には、ソフトバンク代表取締役社長の宮川 潤一氏が基調講演を行い、ソフトバンクとしてのAIとの向き合い方について講演した。

 孫 正義氏の講演後に登壇した宮川氏は、聴講者を気遣いながらも、孫氏も触れたコンピューターによる産業革命を取り上げる。

 コンピューターが登場したのは、140年ほど前。単純な作業や事務作業を自動化するところから始まり、この単純作業を担うだけだったコンピューターが、インターネットとつながり、そして近年のAI時代に突入してきた。

 一方、宮川氏によるとAIの研究は実に60年前からすでに始められており、60年前からの技術といえるAIについて孫氏が主張する「あと10年でAGI(汎用AI)が登場する」というものをそのまま当てはめると、あと10年で社会実装が進むことになる。

 宮川氏は、物事が考えられてから実装されるまでのサイクルがどんどん早くなってきているととらえている。

 たとえば、蒸気機関が実用化された第一次産業革命では、紀元前1世紀に誕生した見せ物から実際に動力源になったのは18世紀になってからだった。

 第2次産業革命では、ゲーリケが摩擦起電気の発明から白熱電球として実用化されるまで210年の年月がかかっている。

 第3次産業革命においては、コンピューターの先祖となるバベッジの機械式計算機の設計からIBMによるコンピューターの実用化まで140年かかっている。

 これが、第4次産業革命といわれるAIの研究から10年後に社会実装が進むとすると、70年で実用化まで進むことになる。

 一方で、コンピューターの性能(半導体の集積率)はムーアの法則によると1.5年で2倍の進化を遂げると言われている。ところが、機械学習で活用されているGPUは3~4カ月で2倍進化するとされており、2025年頃にはAIが人間の頭を越える計算になってきていると宮川氏は分析。

 AIがもたらす産業革命について宮川氏は「自律化」と「最適化」であると定義する。

AI社会に向けて、企業がすべきもの

 来たる「AI社会」に向けて、宮川氏は、企業経営者が中心の聴講者に対して「我々はどんな準備が必要になるのか? 何をしていくべきなのか?」と問いかけ、今回の講演の本題へ話は進む。

「富岳」3800システムが将来必要に

 AIについて「実はたくさんの電気を食べる、チップも高額なものを使っているので、効率的に使わなければいけない一方で、チップを稼働させるための電力をどのように確保するかを考えなければならない」と指摘。

 AIで重要な機械学習では、膨大なデータを処理するために多くの電気が消費される。日本におけるデータ処理に必要な能力は、2020年では6エクサFLOPSだったのに対し、2040年には989エクサFLOPSまでいくと宮川氏は説明。ところが、AGIや生成AIなど新しいAIを含めてあらためて計算したところ、2030年時点ですでに1600エクサFLOPSという数字が算出されたという。

 たとえば、6エクサFLOPSの計算能力は、日本のスーパーコンピューター「富岳」14システム分であり、先述の1600エクサFLOPSでは3800システム分になってしまうとし、これだけのプロセッサーを動かす電気は、もはや日本でまかなうことができないとしている。

 宮川氏は、電力の確保とともに「エネルギー効率を少なくとも今の数十倍にする」ことと「自然エネルギーの新規開発」が必要になると指摘する。

計算能力確保の先を行く中国

 宮川氏は、「中国が非常によく考えてやっている」とし、中国の事例を紹介する。古くから農業や工業分野での改革を、広い国土を横断して実施してきた中国は、現在計算能力確保のために「東数西算」という取り組みを実施している。

 これは、これまで人口が集中している東部にデータセンターなどを置いていたものを、自然エネルギー開発がすすむ西部に計算基盤を整備し、国全土を結ぶことで全国を一体化してクラウド化するもの。2021年~25年までに全土で約60のデータセンターを設置し、累計約60兆円もの投資を行うという。

日本でのやり方

 宮川氏は、日本でも同様に都市部を中心にデータ処理するデータセンターがあり、消費電力も都市部に集中している現状があると指摘。「東京が電力のブラックアウトになる際に、(ソフトバンクが)その引き金を引く会社になってしまうかもしれない」とし、データ処理拠点を地方に分散化する取り組みを行っているという。

 あわせて、クリーンエネルギーの開発もすすめることで、民間でできる範囲のことはすべてやっているとアピールする。

 加えて、階層構造でデータ処理を分散化しつつ、複数の計算基盤を並列処理することで、データ処理の効率化を図り、日本全土に配置したデータセンターを、まるで1つのサーバーに見えるようにソフトウェア設計に取り組んでいるとする。また、自然災害が多い日本でもあることから、リカバリーが効く、冗長性があるものにすることも示された。

社会実装に取り組んだ企業は成長する

 宮川氏は、これまでの産業革命時に機関車や白熱電球、蓄音機や映写機、電話など実用化を後押しする製品を発明した偉人は、会社を設立し、現在に至るまで大きな会社となっている企業が多数あると紹介。

 たとえば、電話を開発したベル電話は後のAT&Tとなり、軍用コンピューターを作業向けに開発した会社はIBM、第3次産業革命を牽引した企業では、スマートフォン(iPhone)を普及させたアップル(Apple)やEコマースを普及させたアマゾン(Amazon)などがある。

 新たなテクノロジーが社会実装される、そしてそれが第1次~第3次産業革命につながっていくことを見れば、今回のAI革命では、労働の概念が、移動の概念が、教育の概念がそして医療の概念が変わると指摘。現在は、この産業革命の入口であるとし、日本企業にもまだまだ十分チャンスがあると考えを述べた。

 AIがもたらす第4次産業革命について宮川氏は「始まったばかりで、AIというものを多くの人々がまだ理解しきれていないと思う。ということは、まだまだ全員にチャンスがある。AIは驚くほどのスピードで進化している」とし、今後小さい企業が急成長することもありうるということを示唆。無論、宮川氏率いるソフトバンクに関しても「変わらなくちゃいけない」と自らを鼓舞した。

 宮川氏は「世界の企業はAIと共存する社会へ動き出している。そういう企業たちとどう戦うか。」と問いかけた上で、「秒単位で成長するAIと向き合う企業として、傍観する側にまわるのか? 牽引する側にまわるのか? が一つの分かれ道。ソフトバンクは牽引側にまわりたい」とコメント。

 「今を生きている我々の想像力で、未来の常識を作っていくと思う。AIは恐れてはだめ。どのみち来るAIと今後ともに暮らしていくこと、優れたAIと暮らすとどうなるのか、AIと一緒に仕事をするというのがどういうことなのか、それを思い描けた企業だけがこの時代の牽引役になれる」とし、聴講者への期待の言葉とした。