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人の代わりにAIが基地局設定をカスタマイズ、ソフトバンクが開発した「Large Telecom Model」とは
2025年3月26日 14:14
ソフトバンクは19日、基地局の設定などを行う通信業界向けの生成AIの基盤モデル「Large Telecom Model」(LTM)の開発を発表した。ソフトバンクの業務に導入することで、人の手による作業を削減し、業務効率化を見込む。26日、その報道陣向けに説明会が開催された。
高い精度で動作、ミスやコストを削減
LTMは、ソフトバンクが開発した生成AIモデル。ソフトバンク 先端技術研究所 先端無線統括部 基盤&AI室の田村峻氏は、従来は専門家が行っていた仕事をAIが代替することで運用の効率化やコスト削減などが見込めると話す。
ベースモデルのAIに基地局の位置や周波数、パラメーターなどソフトバンクのネットワークの設定データや電波強度、スループットといったパフォーマンスデータなどソフトバンクの持つデータを追加学習させた。さらに、想定されるシチュエーションごとにファインチューニングを施す。
現在は基地局のRAN(無線アクセスネットワーク)設定をする際、専門家が経験と知識をもとに設定・シミュレーションし、それぞれの基地局にあわせてチューニングしている。LTMはこうした業務を人間に代わって担うことが期待されている。ほかにも設備の保守運用に加えてマーケティング戦略の考案など、セールス業務への適用も視野に入れる。
イベント時の輻輳対策を想定したケースでは、輻輳が想定されるエリアでセルエッジ付近のユーザーをほかのセルに移すなど、RAN設定の最適化にLTMを用いたところ、94%の精度で最適化したいパラメーターを正しく出力することができた。
加えて、RAN設定をすべて自動で生成するという想定でも検証を行った。新ビル建設による電波強度対策のため、新たな基地局の設置やRAN設定にLTMを用いたところ、91%の精度でRAN設定を正しく出力できたという。
ソフトバンクの実運用に基づきチューニング
一般的に業務に組み入れられるAIは、大規模言語モデルではない各業務向けのAIモデルがありLLMと組み合わせて使われることが多い。この場合、LLMは人間にとって使いやすくするための自然言語インターフェイスの役割を果たすのみで、田村氏は「頭は非常に良いが、経験のない新任者」と表現する。
LTMは、LLM作成の段階からソフトバンクの固有データなどをまとめて学習しているという点が特徴で、田村氏は「頭が非常によく、専門的な経験・知識を兼ね備えたエキスパート」と説明。将来的には、専門家を完全に代替できる可能性に加えて、技術的な専門知識とセールスの知識を兼ね備えるなど、人間以上の存在となり得る可能性もあるという。
今回は「基地局の設定」を目標に開発が進められている。使用するデータは、RANの設定データやパフォーマンスデータなどのソフトバンクの持つ実運用から得られたデータのほか、ITUや3GPPの標準化仕様書などモバイル通信に関する専門的な知識、変調・復調などシミュレーションデータもあわせて学習した。
さらに、日本全国に学習用エリアと評価用エリアを設定。それらをもとに、LTMでRAN設定を最適化した。現状のRAN設定やパフォーマンスをLTMに入力し、どのRAN設定をどの値にするか、その場合のパフォーマンスを予測した値に対して、ソフトバンクの専門家による過去のデータに基づき、最適化シナリオを作成してファインチューニングが施された。
実運用のなかでは、モデルサービスを作り、APIとして提供する。また、ほかのシステムと組み合わせることでAIエージェントとして利用するほか、ソフトバンクのAI-RAN統合ソリューション「AITRAS」のAIと、RANのオーケストレーターや外部と連携する仕組みも検討されているという。
ソフトバンク内のみでの利用が想定されているが、田村氏はまずは自社内で完成度を高め、効果などが見極められれば外部への販売の検討に意欲を示した。現時点では、コンセプト実証を終えたところで、田村氏によれば今後はモデルとデータの規模拡大、使用事例で得たノウハウをほかのケースでも応用する。その後ソフトバンクの実業務に取り入れることで運用効率化や省人化などを見込む。