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ソフトバンクは「みずほPayPayドーム」の通信品質をどうやって向上させているのか
2024年6月15日 07:00
一度に数万人が集い、一喜一憂するたびにスマホで写真や動画を送ったり、メッセージをやり取りしたりする。そんな場所の代表例と言えるのが、球場・スタジアムだ。
スポーツの試合、はたまたアーティストのライブなどがあれば、多くの人が集まって通信することになるが、もし繋がらなければ楽しい時間の反動となって、ユーザーの満足度も下がってしまう。
携帯各社は球場・スタジアムの通信環境の対策に取り組むなか、今回は「みずほPayPayドーム福岡」におけるソフトバンクの取り組みを取材した。
4万人が一度に集う
プロ野球チームの福岡ソフトバンクホークスの本拠地であるみずほPayPayドーム福岡は、プロ野球の試合では、約4万人まで収容できる。コンサート・ライブとなれば、フィールドにステージや客席が設置され、さらに集う人数は膨らむ。
今回の取材で筆者が足を踏み入れたのは、ドーム上部にある、とある通路。観客席の上の階にあたる場所で、実は携帯電話各社の通信アンテナが数多く設置されているのだ。
ドーム球場内部には、外にある基地局からの電波が基本的に届かない。ドームではない球場であれば、周辺にあるビルの屋上から球場へ電波を届けるといった手法もあるようだが、外部から隔絶されたドーム内でつながるようにするには、内部に向けたアンテナが必要になる。
ソフトバンクが用意するドーム内の基地局設備は、4G LTEと5G。プラチナバンド、1.7GHz帯、2.5GHz帯と3.5GHz帯のMassive-MIMO、3.4GHz帯、3.9GHz帯のMassive-MIMO、そしてミリ波と、保有する周波数をふんだんにつぎ込む。
ソフトバンクの場合、球場内をカバーするアンテナは2カ所に集中して設置されている。その2カ所にある設備は、さらに左側をカバーするアンテナ、右側をカバーするアンテナと“ハの字”のように設置されている。つまりは、おおまかに4つのセルに分かれていることになる。
これらのアンテナ群も限られたスペースに設置しなければならず、球場という場所だからこその難しさといえる。
ホークス本拠地だからこそ求められる品質
ホークスの本拠地であるみずほPayPayドーム福岡は、春~秋、主催試合があるたびにホークスファンや対戦相手のファンが訪れる。
そのなかで、ソフトバンク回線を使う人からすれば、「ホークス本拠地でソフトバンク回線が使えないなんて、あり得ない」と考える人は多いはず。
だからこそ、多数の周波数、そしてさまざまなパラメーターの調整で、最適な通信品質の実現を追求していると語るのは、ソフトバンク エリア建設本部九州ネットワーク技術部の津野和己氏と、塚木健太郎氏の2人。
そんな2人が、1年で一番、注力するのは「開幕戦」。プロ野球シーズンが始まるタイミングは一番観客が訪れる日だ。
開幕前にはオープン戦があり、それなりに観客が訪れるが、本シーズンの開幕とはやはり違う。そこで品質対策チームを悩ませるのは「前シーズン終了時~開幕」までにどれだけ通信量(トラフィック)が上昇したのか、推測しなければならないということ。
特に昨今は、ショート動画などで通信量が増え、さらには最近5G端末も広がってきた。通信量が日増しに拡大する状況であり、シーズン終了~開幕のおよそ半年でどれくらい増えるのか、その予測に応じた対策に取り組むのが腕の見せどころになる。ちなみに今春の開幕戦は、5G環境を充実させるといった対策を実施し、見事、クリアしたのだという。
試合中のスマホの使われ方
多くの人が集まるみずほPayPayドーム福岡だが、ユーザーのトラフィックに特徴はあるのか。
津野氏と塚木氏によれば、プロ野球の場合、イニング間の通信量は一瞬で増加する点が、都心部の繁華街などと大きく異なる点という。
一方、コンサート・ライブは、始まる前と終了時が一番通信量が増える。これは、「これからライブだ!」あるいは「楽しかった!」といった投稿などをする人が多いであろうことは、容易に想像がつく。
街のサービスエリアは、さまざまな人が訪れては去っていき、どんなふうに通信量が移ろうのか、という点で難しさがある。
一方で、ドームのような環境は、最大人数(と市場シェア)からユーザーの規模感はある程度計算できるかもしれないが、それでも「本拠地だからこそ求められる品質の高さ」という高いハードルがある。
津野氏と塚木氏は「みずほPayPayドーム福岡でも、ソフトバンクは体感品質を重視している」と説明。ここ最近のソフトバンクの通信品質を評価する声が多いなか、「永遠に続く課題かもしれないが、これからも最適な環境づくりを目指したい」と語っていた。