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山と海と人混みでも、Starlinkで「つながらない」をなくすKDDI

 KDDIは18日、東京都内で米スペースXの衛星ブロードバンド「Starlink」を用いた海上向けサービスの開通セレモニーを開催した。

左から東海大学 山田氏、KDDI 松田氏、スターリンクジャパン 内田氏、KDDI 髙木氏

海上でのStarlink活用

 海運会社や漁業関係者、客船を運行する事業者からの緊急時の連絡手段、船員向けに家族との連絡や動画など娯楽、乗客向けWi-Fiサービスを提供したいという声に応えたもの。

 「Flat High Performance」というアンテナを用いることで、省スペース化を実現。東海大学の海洋調査研修船「望星丸」が搭載船の第1号として決定した。東海大学 理事の山田清志氏は、同船が一般人や海洋関連の学部以外の学生も乗船する機会があることから「Starlinkがあることで活動に広がりが出る」と評価。災害医療の実証実験を実施している望星丸では、Starlinkもその実証のなかで活用する予定で山田氏は「そこで得られた知見は大学として広く社会に公開していく」とした。

 18日に都内で実施されたStarlinkの海上における開通セレモニーでは、スターリンクジャパン カントリーマネージャーの内田信行氏も参加し、カウントダウンに乗せてボタンを押下した。現時点での提供エリアは日本の領海内にとどまるが今後、領域外でのサービス提供も視野に入れている。

Starlinkのアンテナを搭載する船舶
153Mbpsを記録した。海に出て移動しても同じような速度で通信できるという
左=海上用。右=地上用。遮へい物の少ない海上用のアンテナは首振り機能を持たない

 Starlinkのネットワークを業務に用いる企業・自治体は徐々に増えており、建設現場での状況把握に利用する大林組やドローンでの点検などを実施する飛島建設の例が紹介されたほか、さまざまな自治体からも注目を集めている。

 KDDI ソリューション事業本部 ビジネスデザイン本部 副本部長兼事業創造本部 副本部長の髙木秀悟氏は、多くの自治体から声がかかっているとしたうえで「KDDIではサステナブルの地域社会づくりのため多様な声に応える」と語った。

山岳地帯にデジタル技術

 同社では「つながらない」をなくすとして、Starlinkでエリア拡大を試みてきた。KDDI 取締役執行役員 パーソナル事業本部 副事業本部長兼事業創造本部長の松田浩路氏は、同社がStarlinkについてスペースXと共同で取り組みを進めてきたことを説明。2022年12月には、au基地局のバックホールにStarlinkを活用する取り組みを発表。静岡県熱海市の初島を皮切りに、徐々に適用範囲を広げる。

 さらに登山者の宿泊施設である山小屋でも携帯電話サービスを提供する。初島のような離島のほか、山小屋が所在する山岳地帯では、光ファイバー回線の敷設が難しく携帯電話サービスが利用できないケースが多い。一方で衛星通信を活用する場合、光ファイバーなど、地形などの制約にしばられず携帯電話のサービスエリアを構築できるメリットがある。

 特に山小屋では、登山者のみならず山小屋の運営者側も通信サービスを活用できるため、キャッシュレス決済の導入など「山岳DX」の加速が期待される。KDDI 事業創造本部 LX基盤推進部長の鶴田悟史氏によれば、山小屋での利用は当初、長野県の白馬などを中心に11カ所での導入を進め、最終的には「日本百名山」などに代表される場所を中心に100カ所での導入を目指す。具体的な導入スケジュールについては明かされなかったものの、できるだけ早い段階での対応を進めていくという。

Starlinkが5G対応、沖縄もエリア化

 Starlinkでは、エリアを拡大する仕組みとして「衛星間通信」を導入。周辺に地上局がなくとも、Starlinkの衛星同士でメッシュネットワークを構築するかたちで通信をリレーする。

 ひとつの衛星がカバーするエリアは限られており、地上局が周辺になければ通信がつながりづらくなる。そこで衛星間通信を導入すると、いったん近くの衛星と通信しその後、衛星同士が通信を中継し、通信をつなげつづけられることから、Starlinkのエリアに沖縄県が含まれるようになった。

 あわせて、Starlinkの5G対応も発表された。通信速度が目に見えて早くなることはないものの、5Gのカバレッジ向上や5G SA時代、VoNRへの対応が進むことを見据えた対応という。

人混みの中でも取り組み

 人里離れた場所のみならず、人口密集地帯での対策にもStarlinkを導入している。代表されるのはいわゆる「音楽フェス」などで、多くの人が密集する場所では、通信が混雑することにより通信速度が遅くなったりつながらなくなったりというケースが多い。

 現在では、イベント会場内の飲食店や物販でもキャッシュレス決済が一般的で、通信がつながりづらいとスムースな利用を妨げる懸念がある。Starlinkで「フェスWi-Fi」を提供し、通信混雑緩和を図る取り組みが「JAPAN JAM 2023」で実施された。

 JAPAN JAM 2023ではおよそ3万人のユーザーに利用され、最大同時接続数は3555人に及んだ。KDDIでは今後「フジロックフェスティバル '23」や「ロッキンジャパンフェス 2023」などでもフェスWi-Fiを提供する予定という。

 ソフトバンクも法人向けStarlinkの提供を表明するなか、KDDIの優位性を他社に先駆けてきた「スピード」と見る松田氏。あわせて「Starlinkを活用したサービスラインアップは厚みをもって作り上げてきた。認定Starlinkインテグレーターとして、一歩先を行くユースケースづくりをしていく」と決意を示した。