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MVNOは低迷しているのか、格安SIMの現状とこれからの展望は

 MMD研究所が開催する「MVNO勉強会 第8回」にオプテージ(mineo)とイオンリテール(イオンモバイル)、ソニーネットワークコミュニケーションズ(SNC、NUROモバイル)が参加。MVNOの現状や今後の展望についてパネルディスカッションが交わされた。

「低価格」へのニーズ根強く

 MMD研究所 吉本浩司氏によれば、メイン回線としての通信サービスのシェアトップはNTTドコモ。サブブランドである「ahamo」もあわせると34.4%を占める。MVNOはワイモバイルや楽天モバイルをわずかに上回る9.7%という。

 その内訳としてはNTTコミュニケーションズの「OCN モバイル ONE」が首位で18.4%。以降、楽天モバイル(MVNO)、mineo、IIJmioと続く。ユーザーからの満足度は、MNOを入れてもMVNO各社は高い水準にあるといえ、ユーザーが他人にそのサービスをすすめたいかを示す「NPS」も高い事業者が目立つ。

 通信品質や手厚いサポートが魅力のMNOに対して、低価格がメリットのMVNO。しかし、近年では政府の値下げ要請に応えるかたちでMNOからサブブランドというかたちで低価格な料金プランが提供されている。知名度や消費者心理からMVNOはこうした、MNOの低価格攻勢に苦戦を強いられているという見方もある。

 実際に、MMD研究所が示す資料によれば2020年を境としてMVNOのシェアには低下が見られる。その要因としては2020年10月に、KDDIがUQ mobileを吸収したことにある。これにより、統計上はMNOのシェアとして数えられるようになった。この年は、MVNOサービスを展開していた楽天モバイルがMNOに参入するなど、大きな動きがありこれも統計上のMVNOのシェアを下げた要因と吉本氏は説明する。

 「低価格プラン」という見方で、MNO各社のサブブランドも加味すれば格安SIM市場のシェアは右肩上がりと言える。苦境がささやかれるコンシュマー向けのMVNO市場だが「安い通信を使いたいというニーズは下がっていない」と見解を述べる吉本氏。参入事業者の増加に伴い、競争が激化する一方でMVNOが得意とする安さへのニーズは根強いと分析した。

 MVNOのユーザーに対する満足度は高いという同社の調査結果に触れつつ「MVNOは評価されており、ユーザーニーズも捉えているが競争が激しくなっている。ここからの戦略が重要」と今後の見通しを示す。

MVNOにとっての2022年、コロナ禍の影響

 新型コロナウイルスの影響が色濃く残った2022年、MVNO業界はどう変わったのか。オプテージの福留康和氏は、スイッチングコストの低廉化や物価高などに起因する節約志向の高まりから、携帯電話料金の見直し志向が高まっているのではと見解を述べる。

 反対に、イオンリテールの井原龍二氏はユーザーの変化は感じなかったとコメント。通信障害や楽天モバイルの0円プラン廃止などによる短期的な盛り上がりはありつつも「ユーザーの裾野が広がったわけではない」として、出戻り的な状態なのではと指摘。一方で店頭では、MNOやその系列からの乗り換えを見かけるようになったと、徐々にMVNOへの関心が広がりつつある実感を語った。

 SNCの田中直樹氏は、新料金プランが出始めたあたりから流動性が高まったとコメント。コロナ禍でオンライン化が進んだことからWeb中心で集客するNUROモバイルにとっては追い風になったと語る。今後はモバイルトラフィックの増加や5Gによるリッチコンテンツの普及が進むと展望を示した。

 コロナ禍はMVNOにとってプラスだったのか。もともとWebでの契約がほとんどのmineoでは特段影響はなかったと福留氏。反面、NUROモバイルではコロナ禍でWeb上で各社を比較して加入するというユーザーが多くなったとプラスの向きがあったという。イオンモバイルは9割近くが実店舗での契約。しかし、食料品など生活に直結する商品を販売する都合上、店舗はオープンしていたことから打撃は受けなかった。各社による戦略やユーザー層の違いが浮き彫りになっている。

 コロナ禍からも脱却しつつある昨今、MVNO業界はどう進んでいくのか。SNCの田中氏は「いろいろなスマホの使い方が生み出されていく」と予測する。「MVNOとして自由度の高いサービスを出せる。ニーズにマッチしたものを展開していきたい」とした。

 イオンリテールの井原氏は、これまでのMVNO業界を「アーリーアダプター層で伸びてきたが、そこを超えられていない」と評価。「乗り換えの手続きに不安がある」層や「今のままでいい」という層を、これまでの施策で取り込むのは難しいとも指摘する。「ahamoに乗り換えればその次が見える。MNOからMVNOは相当な壁があるが、ひとつ(サブブランド)を挟むと壁が低くなる」とMNOのサブブランドについて、MVNOへの障壁解消にもつながると説明。「乗り換えやすさ」をアピールすることがチャンスにつながるとした。

 オプテージの福留氏は、厳しい競争環境は今後も続くと見通しを示す。スペックだけではない独自の価値が重要度を増すと語った。ユーザーとのコミュニケーションを重視するmineoでは、コミュニティサイト「マイネ王」を用意するなど特徴的なサービスを提供している。

「副回線」や「1円スマホ」問題

 障害対策や自然災害の発生を見据えて、KDDIとソフトバンクはそれぞれのネットワークに相互乗り入れする「副回線オプション」の提供を開始した。あくまで、これは両社間のサービスで、両社の回線を利用するMVNOであっても利用はできない。

左=オプテージ 福留氏。右=SNC 田中氏

 イオンリテールの井原氏は、ユーザーの利便性を考慮すると良い取り組みと評価。その一方で「事業戦略的な取り組みともとれる。両社の回線を使うMVNOも含めて考えてもらえれば」と語る。SNCの田中氏も「MVNOに対してどう提供されるのかに関心がある。提供のかたち次第ではMVNOとして新たな価値を生み出せる」とコメント。NUROモバイルはメイン回線としてのユーザーが多いが、同社が今後提供予定のeSIMとの組み合わせに期待を寄せた。

左=イオンリテール 井原氏。右=MMD研究所 吉本氏

 さらに、昨今問題視される「1円スマホ」問題にも言及。公正取引委員会は、業界の実態を調査したうえで、独占禁止法で定められる「不当廉売」にあたるおそれがあると結論付けている。イオンリテールの井原氏は「安く買えること自体に問題はない」としたうえで、公取委の結論を「適切に報告された」と語る。MNOの寡占が続いていた携帯電話業界では「1円携帯」はひとつの商慣習だったが、小売事業者もSIMフリースマートフォンを販売している現代では、もはや当てはまらなくなった現状を訴える。スマートフォンに限っては、高いものが安く売られているという現実に「安く作るメーカーの努力が報われない。そういう意味でも(今後)正しい市場になっていくのでは」とした。

今後への期待

 オプテージの福留氏は、2023年を「ファンファースト」な年と位置づけ、新たなサービス提供へ向けた姿勢を見せる。mineoでは、ユーザーとサービスを共同で生み出すという取り組みも実施している。2月に発表された「広告フリー」などを例示しながら今後、ユーザー自身もまだ気づいていない潜在的なニーズにリーチすると、新たな機能提供への意欲を示した。

 SNCの田中氏は、3月にスタートした新プラン「NEOプランW」を「スマホをアクティブに使う方へ」とアピール。高品質なNEOプランと価格を重視したバリュープラスの2本立てでニーズに応える。バリュープラスユーザーに向け、NEOプランの品質を体験できる「NEO トライアル」も用意し「ユーザーにフィットしたかたちで契約できる環境を求めていく」とした。

 イオンリテールの井原氏は「ユーザーの“リアル”な声をしっかりと聞きながらサービスを作ってきた」とこれまでを振り返る。今後、2023年の新型iPhone登場までにeSIM対応をかたちにしたい考えも明かす。「我々ならではの安心で格安なサービス・サポートを提供していきたい」としたほか、イオングループのシナジーも生かした仕組みづくりへの熱意を示した。

【お詫びと訂正】
 記事初出時、一部登壇者の方の氏名に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。