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KDDI、つくばで実施中のドローン・ロボット配送実証実験を公開

実証実験で飛行するドローン

 KDDIは、茨城県つくば市などで実施している自動操縦ドローンを使った実証実験の模様をプレス向けに公開した。

 この実証実験は、KDDIとKDDIスマートドローン、ティアフォー、Psychic VR Labが共同で1月19日から3月31日まで実施しているもの。内閣府の「スーパーシティ型国家戦略特区」に指定されたつくば市の協力のもと、内閣府からKDDIが受託した「先端的サービスの開発・構築等に関する調査事業」として実施されている。

 実施されている実証実験は、自動操縦ドローンを使ったPCR検体の輸送、自動操縦ドローンと自動操縦ロボットを使ったフードデリバリーの2つで、それぞれについてさまざまな要素が検証されている。

PCR検体運搬の実証事件のドローン。ACSL社製のPF2-LTE。ドローンが飛行する高度は5Gの電波が飛んでいないのでLTE(4G)が使われる

 自動操縦ドローンについては、「有人地帯における目視外飛行」いわゆるレベル4に分類されるものを想定している。レベル4のドローンは2022年12月からの新制度で日本国内でも飛行が可能になったが、現状ではレベル4の認証を受けた機体が存在しないため、実証実験では自動操縦を行うものの、地上に監視員を配置して実施されている。

1つの画面で3つのドローンを同時にオペレーションしている

 今回使われているドローンは、4G回線に接続し、視界外にいるオペレーターが飛行状況やリアルタイム映像などのモニタリングを行うが、基本的にはGPSによる位置情報を元に、あらかじめ指定されたルートを自動飛行する。リアルタイムの操作が不要なので、1人のオペレーターが複数のドローンのオペレーションを担当できる。

 飛行するのは高度40〜60mほどで、速度は秒速4m程度(時速14.4km)。飛行距離は、PCR検体運搬の実証実験では0.3kmほど、フードデリバリーの実証実験では1.5kmほどとなっている。2つの実証実験は運搬するものの重さなどが異なるため、使われている機体も異なっていて、フードデリバリーで使われている機体は15kgのペイロードを搭載して15分の飛行が可能と、そこそこ大きなドローンだ。

つくば臨床検査教育・研究センターのつくばi-Laboratory

 PCR検体運搬の実証実験は、筑波大学エリア内、「筑波メディカルセンター」から「つくばi-Laboratory」への約0.3kmで行われている。これは検体を採取した診療所からPCR検査機器のある施設へ運搬を行うという想定だ。

PCR検体はバイオハザードマーク付きのポーチに入れて運ばれる

 規模の大きな検査機器を持たない小さな病院では、採取した検体を別の施設に持っていって検査を行う。通常は診療受け付けの終了後、その日、採取した検体をまとめて検査機関に持っていく、というようなイメージだ。そうなると必然的に検査結果が出るのは翌日以降となる。今回の実証実験は、ドローンで検体を即座に運搬できるようにして、もっと迅速に検査を得られるようにする、という想定となっている。

こちらは屋外でオペレーションするためのタブレットの画面。飛行中はFPVの映像も見られる

 輸送するものの重量に対してコストや重要性が高く、ときとして迅速性が求められる医療分野では、輸送用ドローンは相性が良い。検体だけでなく輸血や薬品なども空輸できれば、山間部などの小さな診療施設の能力も向上させられる。

 この実証実験では、ドローンの運用に加え、運搬による検体への影響なども検証されているが、XRによって「空の道」の可視化するという実証実験も行われている。

高度40m程度だと言われないとドローンが飛んでいること自体に気がつきにくい

 ドローンによる運搬が行われているエリアは、筑波大学のキャンパス内とも言えるような場所で、歩行者、自動車ともにそれなりに往来のある市街地だ。しかし当たり前だが、どこにドローンの飛行ルートがあるのかは、ドローンが飛んでいなければわかりにくい。それどころか、高度40m以上ともなるとそこそこの大きさのドローンでも羽虫程度のサイズにしか見えないので、音はすれど姿は見えず、という状態にもなりがちだ。

SATCHアプリを使うと飛行ルートがAR表示される。主に街路樹の上が飛行ルートに設定されていた
アプリは周囲の風景からユーザーの位置を推定してAR表示させるので、たとえば飛行ルートの真下に近づけばAR上の表示も直上に近づく

 そこで今回はKDDIが提供するスマホアプリ「5G XR VIEWER SATCH X powered by STYLY」を用い、ドローンの飛行ルートをAR機能で確認する、という実証実験も行われている。こうしたシステムを使うことで、市街地でのドローン飛行に対する地域住民の理解を高める考えだ。ちなみにこちらのアプリ、App StoreやPlayストアで配信されていて、実証実験中は現地にいけば誰でも利用できる。

フードデリバリー実証実験に使われるPRODRONE PD6B-Type3。最大ローター軸間距離1624mm、本体重量20kg、最大ペイロード30kgという大きめのもの
今回の実証実験では、この弁当セットが2つで2.5kgほどが運ばれた。炭酸飲料の運搬は試していないとのことだが、筆者としてはクラフトビールの運搬にも対応していただきたい

 フードデリバリーの実証実験は、飛行ドローンと配送ロボットの組み合わせで食品などを運搬することを想定している。具体的な内容としては、牛久市のスーパー「フードスクエアカスミ牛久刈谷店」からつくば市の「宝陽台自治会館」までの約1.5kmを飛行ドローンで運搬し、そこで荷物を積み替え、配送先の住宅までは地上を走行する配送ロボットを用いる。

地上側で運搬を担当する川崎重工製の自動配送ロボット。内部に荷台がある
実証実験では配送ロボットは随行員付き

 こちらの実証実験も現行の法制度の制限から、ドローンは必要な箇所に監視員を配置し、配送ロボットも監視員が随行する形で実施されている。地上を走行するロボットは現状、みなし歩行者となるが、2023年4月に道交法が改正されると、無人の自動運転(レベル4)による「遠隔操作型小型車」として走行できるようになる。

ドローン複数台の同時運航について
複数ドローンやほかのデータとの連携にはデータ連携基盤の整備が必要となる

 また、今回の実証実験では複数台のドローンの同時運航についても検証が行われている。実環境では1人のオペレーターが複数台を制御するだけでなく、複数の事業者がさまざまなドローンを同じ空域で運用したり、ヘリコプターなどの従来からある飛行体も同じ空域に混在することになる。そうした環境での適切な管制や運航管理についても、今後の実用化に向けて必要なものとなる。こうした運行管理システムをどう構築するべきか、といったことも、こうした実証実験で検証する重要な要素だ。

 今回の実証実験で実施されたドローン運搬の実用化については未定で、今後検討する、というような段階だ。そもそも法整備が始まったばかりなので、こうした実証実験をもとに法制度を調整したり、使われる機材も開発されることになる。

 そもそも現時点では、こうしたドローンや配送ロボットを使うにあたり、どれだけの省人化ができてどれだけ安全性が担保できるかも実証実験で検証している段階だ。それらを踏まえ、経済的・安全性的に商用化に値するかを検討されていく。