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KDDIと三井物産、高精度人流データで新会社「ジオトラ」設立――スマートシティ推進に向け協力

 KDDIと三井物産は、人流データ分析で新会社「GEOTRA」(ジオトラ)を設立した。今後、スマートシティなどの推進に向けて人の移動手段や目的、時間の予測が可能なプラットフォームを提供する。

左から三井物産 米谷氏、ジオトラ 陳内氏、同 鈴木氏、KDDI 森氏

一人ひとりの位置情報を把握

 ジオトラが提供するのは、AIや位置情報データを用いた人流データ分析の「地理空間分析プラットフォーム」。人流データ「GEOTRAアクティビティデータ」のほか、それを閲覧できるWebダッシュボード、ユーザーと一緒にデータを分析などをするアナリティクスリソースも用意され、データ取得から分析までをワンストップで提供する。

 ジオトラ 代表取締役社長の陣内寛大氏は、人の動きをあらゆるイベントにつながるもっとも基礎的な情報と位置付け「これまでもより精度の高いデータ・シミュレーションツールを提供することが、日本が抱える課題の解決の突破口につながる」と語る。

 GEOTRAアクティビティデータは、GPSの位置情報に加えて、地図・交通データ、公的統計データ、POIデータに機械学習モデルを組み合わせたもので、従来の人流データよりも細部までを可視化していることに特長がある。

 これにより、人々が何に乗って、どこへ何の目的ででかけたのかという、従来では難しかった、生活者一人ひとりの導線を把握できるようになっている。

 用いられる大元のデータはau位置情報だが、分析の際には生データをもとに人工的に作られた「合成データ」を用いる。このためGEOTRAから得られる人流データは、統計的に正しいものの実在の人物の行動ではないため、追跡しても個人の特定は不可能という。

ジオトラのWebダッシュボードのデモ。丸の内の勤務者の居場所を示しており人口密度が高いのが黄色で示されたエリア
日比谷公園の来園者の移動経路
大手町付近の勤務者の17時以降の移動の様子

 Webダッシュボード上では、性別や目的別、時間など細かなパラメーターでの絞り込みが可能で、サービスごとのニーズに柔軟に対応できる。さらに、過去の人流分析のみならず、将来の予測も可能にしている。新駅や新商業施設の建設やMaaSなどのサービス計画時の効果予測に役立てられるという。

 陳内氏は、ジオトラの将来的な展望について「将来的にリアル空間上のさまざまなデータに対象を広げ、日本が抱える大きな課題や今後進めるべきアジェンダに対し、地理空間上のデータ活用のパイオニアとして強く貢献することを目指す、今後にぜひ期待してほしい」とコメントした。

モビリティ分野などでも展開へ

 三井物産 代表取締役副社長執行役員CDIOの米谷佳夫氏は、同社の戦略について説明。三井物産では、DX戦略を6つの要素に分けて定義づけており、今回のKDDIとの取り組みはそのうちの「エネルギーソリューション」に分類されている。

 エネルギー関連は、ヘルスケア・ニュートリションとマーケット・アジアと並ぶ同社の注力事業のひとつ。再生可能エネルギーや水素などに加えてICT技術によるスマートシティでも積極的に展開していく。同社は海外でもスマートシティ事業に取り組んでおり、今後の海外展開の可能性も示唆しつつ「海外で同種の取り組みをしている事業者もおり、個別の地域の状況を見ながら検討していきたい」とした。

 KDDIと三井物産は、2021年3月に街の人流を再現する都市シミュレーターの開発で協力しており、多くのニーズがあったことから、今回のジオトラ設立で商用展開に至った。今回はスマートシティ事業での取り組みとされているが今後、モビリティ分野などでもさらに取り組みを広げていくかまえを見せた。

 KDDI 取締役執行役員専務 森敬一氏によれば、KDDIとウィラーによるMaaS「mobi」などにも、ジオトラの技術を取り入れていく可能性もあるとして、すでに展開されているサービスでもより高精度化された人流データの活用が期待される。

 都市シミュレーターは「未来のまちづくりに寄与するもの」と森氏。リアル世界からのデータをサイバー空間上にアップロードし分析、ふたたびリアル世界へ還元し、さまざまな事業へ使われることを想定している。

まちづくりには未来予測が必要

 陣内氏によれば位置情報データそのものは、ほかの通信会社からも提供されているものの、一人ひとりの導線までもが把握できるデータの提供は国内では初。これまでの都市開発でもアンケートなどをベースとした予測データは利用されてきたものの、古い情報にもとづいているなどの課題があった。そうした上でビッグデータに基づいた都市の未来予測という点において独自性があるという。

 また、KDDIではこれまでもau位置情報の人流データを提供しており300の自治体で利用されてきた実績を持つ。「(まちづくりには)未来予測をしていくのが非常に大切」という森氏。

 ジオトラとこれまでのサービスとの差分点としては「未来予測というところ。いろいろな要素をかけ合わせて先々のシミュレーションができる。これはKDDI単独ではできない。そういった意味でいろいろなニーズに応えられると考える」とした。

  今後、両社ではそれぞれが持つ強みをかけ合わせたスマートシティの創造に向けて取り組んでいく。