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ジブリの世界に「音」で入り込む、KDDIとジブリパークが描く「音響世界」

 愛知県長久手市にあるテーマパーク「ジブリパーク」で「高精度位置情報」と「音」を活用したイベント「ジブリパークの音響世界」が始まった。11月2日~4日、15日~17日で開催される。料金は1500円。

ジブリの世界に入り込める

 数々のジブリ作品に登場する風景を再現しながらも「音」による演出が困難だった、ジブリパークでこれまでとは一味違う体験ができる。内容は、イヤホンをつけてBGMや効果音を楽しみながらジブリパーク内を散歩するというシンプルなイベント。しかし、その仕掛けは凝ったものとなっている。

帽子は持参するリュックの上に載せるとちょうど良い

 イヤホンの音はどこでも鳴るというわけではない。たとえば、ある場所に近づくと、その場にあわせた音楽が流れる。こうしたポイントは「音の芽」と呼ばれている。パークの入口付近では早速、ガイダンスの一環として誰もが知るキャラクターの声が聞こえてくる。仕掛けのための道具が収まっている入れ物も、ジブリ作品の雰囲気にあったデザインだ。

 イヤホンはShokzの「OpenFit」。耳をふさがないタイプで軽量なため、着けていることを忘れるような装着感で楽しめる。同行者の会話や足音などリアルな音とイヤホンからの音響が混じって聞こえるため、臨場感が高い。もともとが緑豊かな環境ゆえに、鳥の鳴き声や風で枝や葉がこすれる音も聞こえるが、それが音響の世界の一種なのか本物の音なのか曖昧になる感覚がより一層、ジブリの世界への没入感を高めてくれる。

 地球屋(「耳をすませば」に登場)の付近ではバイオリンの演奏を楽しめるが、立体音響により、バイオリンの音は地球屋の方向からしか流れてこない。このように、本当にそこから音が流れてきているかのような仕掛けもあり単なるBGMで終わらせず、体験により深い味わいを持たせている。

 音の芽はパーク内のそこかしこにある。わかりやすい場所はもちろんだが、思ってもみなかったところが音の芽だった、という発見も多い。どこでどんな音がするかは明記しないが、ぜひ実際に訪れて確かめてみてほしい。

KDDIの高精度位置が支える

 この体験を裏側で支えているのが、KDDIの高精度位置情報技術だ。GNSS信号に補正情報を組み合わせることで通常、数m単位の誤差が生じるところを数cmレベルにまで精度を高める。

TORQUEが用いられているのは熱への耐久性などの観点から

 体験者が装着する帽子やショルダーバッグは、音響再生のアプリがインストールされたスマートフォンやGNSSコンパスとそのアンテナなどが収まっている。デバイスはKDDIが開発したもので、無理なく身に着けられるサイズになっている。高精度な測位技術は仕組みとしては新しくはない。しかし、ここ数年で小型が進んだことなどもあり、今回のジブリパークの音響世界のようなサービスに結びついた。

 KDDI 先端技術統括本部の伊藤学氏は、音響再生アプリについて「チューニングして没入感を与えられるよう、作り込んでいる」と話す。音響の世界は一定のエリアに踏み込むとそこにあわせた音が鳴る仕掛けだが、単にある場所に近づくだけではなく「3秒留まる」などで音が鳴るなど細かな制御がなされている。ある場所では、効果音はランダムに散りばめており、人によって聞こえ方も変わるのだという。

 KDDIによる高精度位置情報のエンタメへの活用は、ラリージャパン 2023で競技車両の走行軌跡をデジタルツインで再現するというかたちでも行われていた。ほかにドローンなどで利用実績があり、ビジネスとエンターテイメント両面で展開する。

ジブリパークに“音”をもたらす

 ジブリパークが位置するのは愛知県長久手市。2005年に「愛・地球博」の開催地の跡地に建設された「愛・地球博記念公園」(モリコロパーク)の園内だ。一般的なテーマパークとは異なり、公共の公園内にあることから、大音量で音楽やSEを流すことは難しい。

左=KDDI 先端技術統括本部 先端技術企画本部 システム戦略部 無線通信サービスグループ 伊藤学氏。右=同 マーケティング統括本部 マーケティング企画部 マーケティング企画2グループリーダー 長井栄子氏

 しかし、音楽はジブリ作品にとって欠かせない魅力のひとつ。そこで今回、KDDIとジブリパークとが協力して耳でも楽しめる新しい体験がスタートした。音楽をプロデュースしたのは音楽家の岩崎太整氏。これまでも、映画「竜とそばかすの姫」や「巨神兵東京に現る」などを手掛けた。ジブリパーク特有の制約が新感覚の体験を作り出したかたちだ。

 2023年11月の実証実験を経たうえでのサービスのスタートを切った。KDDIによれば、実証実験での満足度は93%と高評価を得ている。今回のサービスは会期としては短い。しかし、KDDI マーケティング統括本部の長井栄子氏によれば、ある程度の準備期間を用意して、体験できる日数を増やしていくという。多くの来場者が同時に利用する際の運用体制を整えたうえで、体験できる機会を増やしていく考えだ。

【お詫びと訂正】
 記事初出時、今後の方針について時期に触れておりましたが、誤りでした。お詫びして訂正いたします。