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KDDIとWILLERの「mobi」はどんなサービス? KDDI高橋社長が語る「移動を感動に変える」狙いとは

左からWILLER 代表取締役の村瀨茂高氏、KDDI髙橋誠社長、KDDI 事業創造本部の松田 浩路本部長

 KDDIとWILLER(ウィラー)が、2022年1月より、スマートフォンアプリで乗降予約できるモビリティサービス「mobi(モビ)」を共同で提供すると発表した。両社では合弁会社の「Community Mobility株式会社」を設立し、新会社が4月1日から「mobi」の運用を担う。

 ルートが柔軟に変わるコミュニティバスのような「mobi」の運営に、なぜ、通信会社のKDDIが参画することになったのか。そこには、社会課題の解決策としての展開や、5G以降の通信サービスの活用シーンの広がりが背景にある。

「mobi」とは

 「mobi」は、タクシーやバスとは異なり、ユーザーが近くにある乗車場所と、目的地近くの降車場所をスマホアプリで選ぶと、近くにいる「mobi」の車に乗れる、というサービスだ。

出発地と目的地の場所を選ぶ

 公共交通のように利用できるもので、“仮想的なバス停”と言えるスポットが用意されつつも、一般的なバスと異なり、その乗降場所はかなり多い。

 複数のユーザーが利用する乗り合いバスのようでいて、その乗降場所がユーザーの現在地近くにできることから、自家用車やタクシーのような感覚でありながら、比較的、割安な公共交通として利用できることが大きな特長だ。

 サービスそのものは、今夏、WILLERがスタートしたもので、その詳細は、僚誌「トラベル Watch」のレポートに詳しい。そして、今回、KDDIが参画することになって以降のサービス内容や、料金体系(30日5000円、都度利用は1回300円、小学生以下150円)も、従来版と変わらない。

KDDI高橋社長「コミュニケーションを担うからこそ、できることがある」

 サービス内容や料金が同じ状態で、新たなスタートを切る「mobi」だが、KDDIが参画することでいったい何が変わるのだろうか。そして、なぜモビリティサービスを手掛けるのか。

 22日の記者説明会に登壇したKDDI代表取締役社長の髙橋誠氏は、プレゼンテーションの冒頭、「コミュニケーションをお客様にお届けしている私たちが、人の移動についても、できることがあるのではないか」と語る。

 auで掲げられている「ずっと、もっと、つなぐぞ。au」というスローガンを示す髙橋氏は、ウィズコロナ時代でリモートワークが増える中でも人々がどこかへ移動することは変わりなく、「ベビーカーを押す人、通勤通学する人、運転するのが難しくなってきた人」と誰にとっても、安心して自由に外出できる生活を目指したいと説明。

 コミュニケーションを担うKDDIだからこそできることがある、と語り、「移動を感動に変えていく」というテーマを掲げた。

KDDIの「人流データ」を活用

 では、KDDIが提供する具体的なものは何か。

 そのひとつとして、髙橋社長は「人流データ」を挙げる。

 KDDIの人流データは、携帯電話の位置情報をもとにしたもので、個人が特定されないよう匿名化されつつ、商圏エリアの分析などで活用されている。

 KDDI 事業創造本部の松田 浩路本部長は、生活圏のなかで完結する移動を、地図上で表現したイメージを披露。モビリティに適したデータを抽出し、「mobi」の“バーチャルバス停”の策定に活用できると語る。

 たとえば人流データをもとに、東西には移動しやすいが、南北には移動しづらい地域を見つけられれば、南北の移動を促進できるよう「mobi」を展開することもできる。そうしたエリアを見つけていくことは要望を受け付けるほか、自動化でも進めていく。

 こうした人流データの活用は、「政府の掲げるソサエティ(Society) 5.0そのもの。サイバーのデータを分析して、現実に活かしていく。そこでKDDIが活躍できないかと考えた」と髙橋氏は説明する。

ユーザーの生活を変えるサービスとして

 そしてもうひとつ、と続ける髙橋氏は、「契約していただくだけではなく、契約からどれだけ深くお付き合いできるかが課題」とする。

 かねてより髙橋氏は、5Gの普及により、データと価値の提供が循環する「リカーリングモデル」が実現する、と提唱してきた。

 「mobi」は30日5000円というサブスクリプション(定額制)プランが用意されており、髙橋氏は「ここがミソ。2kmの生活圏内で、どういうライフスタイルを提案できるか、WILLERさんと話し合っている」と大切な点だと指摘する。

 WILLER 代表取締役の村瀨茂高氏は「ウィズコロナ、ポストコロナとなって生活様式が大きく変わる。そこに必要とされる移動サービスが非常に重要。KDDIさんの情報やデータをかけ合わせ、新たな行動変容が起きるものや、新しい価値をどれだけ創造できるかが非常に重要」と解説する。

 今夏WILLERのサービスとして始まった「mobi」は、11月末時点での会員数が7284人となっている。

 村瀨氏は、まだ開始から3カ月で正確なデータとは言い切れない、と前置きした上で、ユーザーアンケートの結果、ユーザーの4割は移動総量が増え、7割が「生活スタイルが変わったと回答した」という。

用途は? どこに広がる?

 バス停がなくても、スマホ上で出発地と目的地の近くにある“バーチャルバス停”を指定し、乗降する「mobi」は、どのような利用が想定されているのか。

 生活圏2km程度がエリアとなるため、「たとえば、保育園のあとにスーパー、のように回遊するような移動に使える」と村瀨氏。

 また年齢を重ね、運転免許を返納する人にとっても、気軽に使える。

 定額制のため、乗車回数を気にせず利用できる点もポイントだ。

 とはいえ「5000円はちょっと」と思われる人もいるだろう。

 KDDIの松田氏は、「mobi」の展開に役立つKDDI側の資産のひとつとして、全国60以上の自治体との連携協定を挙げる。

 たとえば少子高齢化は日本全体の課題だが、特に地方では、過疎化がもたらす課題は重く大きいところもある。そうした地域で、すでに乗り合いタイプの公共交通が用意されているところもあるが、「mobi」の仕組みが取り入れられるとすれば、より効率的な運行を実現できる。また、さまざまな地域で、いわゆるコミュニティバスが導入されており、その新しい姿としても「mobi」の活用は、期待される未来像のひとつとも言える。

 さらに高齢者に対してタクシーの助成制度が用意されている地域も少なくない。「mobi」にもこうした制度が適用されるようになれば、ユーザーにとっては利用しやすくなる。

 今回の発表会で、具体的な取り組みまでは語られなかったが、すでに機械学習による公共交通の運行ルートの最適化は、さまざまな事業者が実証実験を進めており、それらの中でも「mobi」は、一足早く商用サービスに踏み込んだ存在と言える。

 「移動の格差を解消し、持続可能な社会をつくりたい」と意気込みを見せたWILLERの村瀨氏は、地方と都市部、それぞれのニーズがあり、必ずしも人口密集地だけのサービスではない、と説明。エリア拡充についても、KDDIが参画したことでのスピードアップが期待されているほか、WILLERの村瀨氏も「行政を話し合いながらしっかり進めたい」とする。

 今年4月からWILLERと話し合いを重ねて、意気投合したという髙橋氏は、「5Gはこれから、全ての産業に染み込んでいく。さまざまな産業で通信が活用されることになる中で、今回のサービスも通信が組み込まれるサービスであり、交通のプロであるWILLERをパートナーとして展開するもの」と説明。

 会場で披露された車両には「Respect You, au」と添えられており、髙橋氏は「プロデュース、サポーティングなど他の言葉も考えた。しかし、パートナーさんや、その向こうにいるお客さまの生活自体をリスペクトしていこう、ということで、『auだけ』にこだわらないことを柔らかくお伝えしたいと考えた」と述べ、パートナーシップを組みながら、通信を活用するさまざまな分野へ今後も取り組む姿勢を示した。