ニュース

「江の島」「巣鴨」はどこから人々が訪れた?――KDDIが提供する「Location Analyzer」で見える化

 新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため、外出自粛が呼び掛けられるなか、政府では携帯電話会社提供のビッグデータをもとに人出の増減情報を開示している。

 それらは基地局やアプリから得られる情報が元で、スピーディに人数の増減を把握できる。そうした中で、KDDIは自治体向けに「KDDI Location Analyzer(以下、KDDIロケーションアナライザー)」というサービスの無償提供を開始した。GPS情報にユーザーの居住エリアや年齢層を組み合わせられるビッグデータで、自治体にとっては、どんな来訪者がいるか把握することで、訪問自粛などの呼びかけをより効果的に実施できるなどのメリットが考えられる。

 本誌では、4月中旬ごろの週末で、人出が増えたと指摘が挙がった江の島などについて、訪問した人々を可視化できるかKDDIへ質問したところ、KDDIロケーションアナライザーの仕組みや提供できる機能を取材する機会を得たので今回ご紹介しよう。ご教示いただいたのは、KDDIサービス統括本部 パートナービジネス開発部 データ戦略グループ マネージャーの清水大介氏だ。

KDDIロケーションアナライザーとは

 KDDIが技研商事インターナショナルとともに提供する「KDDIロケーションアナライザー」は、携帯電話の位置情報をもとに人々の動きをビッグデータとして可視化し、観光地の分析や、商圏エリアの分析などマーケティングでの活用に向けて提供されてきた。

 利用にあたっては、「My au」などのアプリを利用する際、ビッグデータとして活用してよいかどうか承諾を得る。名前や住所など個人情報としての属性は扱わないが、ざっくりとした居住エリアや年齢層、性別と組み合わせたデータとして分析できる。たとえば「観光地の○○にはA県のB市から来ている人が多い」といったことがわかる。いわば、マーケティングにおける“ペルソナ”のようなイメージだろう。

 GPSをもとにしているため、10mのメッシュという高い精度での情報となり、道路単位で通行量の推計などもできる。なお、KDDI社内では一般的な個人情報よりもさらに一段高いレベルの情報として扱っている。同意を得ているのはauユーザーのうち数百万人で、そのデータをもとに国内にいる人々の動きへ統計上、推定している。

 他社の同様のデータでは1時間ごとのデータであることが多いが、KDDIロケーションアナライザーは、GPSでの計測であることから数分間隔で取得できる。

 ただし、もし調査したい場所の人口(居住者、勤務者、来街者)が少なければ、ゼロとしてカウントすることもある。これは少人数しかいない場所では、いくら個人情報を秘匿したとしても、「あの人が訪れたのかな?」と類推できてしまう可能性があるため。そうしたリスクを避けるため、少人数のデータはあえてゼロとカウントするようにしている。それでも人口が少ない場所で計測したい場合は、調査機関を長くすることで、データを集めて分析に使えるようにしているという。

巣鴨や江の島、週末訪れた人はどんな属性?

 今回、取材では巣鴨と江の島、新宿という3か所のデータを披露していただいた。いずれもKDDI Location Analyzerで何がわかるかを示すもの。KDDI側はあくまでデータ提供であり、それをもとにどう推察、分析するかは受け手側で行う。

 本稿ではわかりやすくご紹介するため筆者自身の印象を多少交えていることをご承知いただきたい。また、ご紹介するデータは週末のみの集計で、前後の増減は含まれていない。

巣鴨のお昼は60代が多い

 まず巣鴨の状況はどうだろうか。今回は4月11日(土)、12日(日)のデータ(両日9時~21時)を確認した。巣鴨の商店街から1km圏内での状況だ。

 データによると、一番人出が多い時間帯は14時台(グラフは30分ごと)。なおKDDIロケーションアナライザーでは、10代のデータは取得していない。

 時間帯によって、巣鴨を訪れている人の年齢層は異なるものの、一番人が多い14時台、突出していたのは60代以上の人数だ。お昼過ぎや夕方は40代の人数が増えており、これは日常の買い物に出かけているのかも、とつい考えてしまう。

江の島を訪れた人

 次いで、神奈川県の観光名所のひとつ、江の島を見てみよう。KDDIロケーションアナライザーでは、計測したい場所を地図上で指定して「ジオフェンス」を設定し、そこの出入りを計測する。

 4月18日~19日(9時~21時)のデータを見ると、20代の来訪者が最も多かったことがわかる。男女比で見ると、20代は特に男性の割合が高い。

 続いて、同期間、江の島を訪れた人々がどこからやってきたのか見てみよう。ジオフェンスで囲った部分を訪れた人々の居住地を推定、分析したところ、江の島がある藤沢市がトップ。次いで近隣の茅ケ崎市や鎌倉市からの人が多かった。

 そのあとに続くのは、相模原市緑区、横須賀市、相模原市中央区、横浜市戸塚区など。多くは神奈川県内での移動ながら、東京や埼玉からの移動も見受けられた。

 当時の首都圏は、4月18日は大雨、19日は晴天という天候で、特に19日は江の島のほか湘南海岸方面に多くの人が訪れたと報じられ、藤沢市観光協会は22日付で「観光に来られるのをご遠慮いただきますようお願いいたします」とメッセージを発表した。

 KDDIのデータからも、江の島からやや離れた地域の人が訪れていたことが判明し、観光目的だったかも、と推測できる格好。クルマのナンバープレートなどではなく、携帯電話の契約者情報をもとにしたビッグデータであるため、より詳細な分析もできそうだ。

西新宿の状況は?

 最後は、オフィス街や店舗が多くある西新宿の状況だ。日付は18日、19日の週末。ここでは、道路単位での状況がわかるようになっており、今回注目したのは、KDDIのビルも近くにある甲州街道のあたり。高層ビルが立ち並ぶエリアがすぐそばという場所だ。

 グラフを見ると、週末のためか、12時ごろから人出が増え、夕方にピークを迎えている。男女比で見ると半々に近い構成だ。

 これを「居住者」「勤務者」「来街者」で区分すると、勤務者の比率が多い印象を受ける。調査対象の道路は、人がある程度多いことを示す赤色になっている。ちなみに都庁周辺は緑色(人が少ないことを意味する)で、週末ということもあってか、違いが浮き彫りになった。

前日比をスピーディに、属性をもとに詳細な分析はじっくりと

 内閣官房のサイトで開示されてきたNTTドコモや、ソフトバンク傘下のAgoopのデータは、属性はまったく使わず、人の多さのみ算出する形。その分、スピーディに情報を提供でき、たとえばドコモでは、以前まで1日かけていたデータ開示が、最近では当日15時の状況を21時過ぎには開示するまでになってきた。

 こうした人出の情報は、多くのメディアで伝えられ、「極力8割削減」という緊急事態宣言が目指す接触機会減少に向けた指標として扱われている。

 KDDIもまた、そうしたデータは政府へ提供しているとのことだが、別のツールであるKDDIロケーションアナライザーを自治体向けに提供することになった。

 個人はわからないようにしているものの、ある程度の属性を見える化することで、より正確な情報をもとに、冷静な議論と具体的な対策を検討するための材料にできそうだ。