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KDDIの離島支援「しまものプロジェクト」、岡山県笠岡諸島で開始

 KDDIは、サステナビリティの一環としてNPO法人離島経済新聞社と共同で進める「しまものプロジェクト」を、岡山県笠岡市の笠岡諸島を対象として開始した。

しまのもプロジェクト開始の記者発表会。左からKDDI 中国総支社 管理部長の小野隆氏、岡山県笠岡市の小林嘉文市長、NPO法人かさおか島づくり海社 理事長の鳴本浩二氏、離島経済新聞社 統括編集長の鯨本あつこ氏。両サイドを固めるのは笠岡市のゆるキャラ、カブニくんとカブ海さん

離島を支援する「しまものプロジェクト」

 「しまものプロジェクト」はKDDIとNPO法人離島経済新聞社と協力し、各地の行政や事業者、NPO法人とも連携しつつ。過疎化や高齢化の進行している離島の活性化に取り組むというものだ。

笠岡諸島の産品。海産物が多いが、桑製品や「ぶんず」という豆など農産物もある

 「しまものプロジェクト」では主に、離島の事業者が作っている産品を島外で展開することを支援する。特産品を使った商品の企画やマーケティング、食品の衛生管理などについての事業者向け講座「しまものラボ」を行ない、さらにau WALLET Market内の「しまものマルシェ」で商品販売や情報発信をする。

 KDDIの「しまものプロジェクト」はこれまで、北海道の利尻島、東京都の伊豆大島、兵庫県の家島諸島、長崎県の壱岐島、大分県の離島地域、鹿児島県の喜界島で行なわれていて、岡山県の笠岡諸島を対象とする今回は7件目となる。

「しまものプロジェクト」の内容
KDDIは経営戦略の一環としてサステナビリティ活動に取り組む
笠岡諸島の「しまものラボ」では瀬戸内ブランドコーポレーションと連携する
これまでの参加者の声。地元の個人事業者だとたどり着きにくい情報やリソースが提供される
笠岡諸島の小飛島で作られている「ぶんず」(緑豆)。かさおか島づくり海社はこうした産品の販売も行なっている

 岡山県笠岡諸島の「しまものプロジェクト」としては、まず笠岡諸島の事業者を対象とした講座「しまものラボ」を開始する。笠岡諸島での「しまものラボ」の初回はNPO法人のかさおか島づくり海社が参加し、産品ブランディングや販売戦略の講座が行なわれた。2回目以降の参加者については、今後、行政とかさおか島づくり海社が窓口となり事業者に声がけをして集めていく。

 「しまものラボ」の講座は今後、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理をクリアする」と「産品ブランディングや販売戦略を学ぶ」をテーマに2回ずつが開催される。講座にはKDDIグループ内でECサイトを展開するauコマース&ライフや株式会社瀬戸内ブランドコーポレーションが協力する。

しまものラボの風景。講座にはiPadが貸し出され資料を映したりするのに使われていた。もちろんau版セルラーモデルだ

 ちなみにHACCP(ハサップと読まれることが多い)は食品の製造や販売を行なう事業者が安全管理をする手法のこと。日本では2020年に法律が施行され、小規模な事業者にも義務化されるので、たとえば「地場産品の瓶詰め」のような商品を作る地元の小規模事業者にも適用されることになる。そうした小規模事業者だと情報収集しにくい商品の衛生管理についても講座が行なわれる。

 「しまものマルシェ」としては、au WALLET Market内にある特設コーナーで、「しまものプロジェクト」に参加した地域の産品が扱われる。現在はまだ笠岡諸島の産品は扱っていないが、「しまものラボ」の講座終了後、順次販売されていく見込みだ。

auコマース&ライフがサポートする
auスマートパス向けの商品モニターやKDDI社員への試食会アンケートなど、KDDIのリソースをマーケティングに活用する
株主優待にも採用されている
au WALLET内だけでなく、KDDI本社ビルでも「KDDI離島応援マルシェ」を開催

笠岡諸島ってどんなところ?

笠岡市駅近くにある古城山公園から眺めた風景。右に広がってる平野は干拓地で元は笠岡湾の一部だった。中央の山々は元は笠岡諸島の神島である

 笠岡諸島は岡山県笠岡市に属する島だ。笠岡市は岡山県の南西端にある市で、西側は広島県の福山市に隣接し、東側は東側は岡山県浅口市、倉敷市、岡山市と並んでいる。笠岡市に新幹線の駅はないものの、JR笠岡駅は福山駅(新幹線の駅がある)まで14分ほどと交通の便も良い。

 笠岡諸島は瀬戸内海に浮かぶ離島で、だいたい20kmくらいの範囲に有人島が7つあり、JR笠岡駅に近い住吉港から毎日数便の定期連絡船が就航している。所要時間は、最大の北木島は高速船で36分ほど、もっとも遠い六島(むしま)でも定期船で1時間程度。北木島と白石島にはフェリーも1日数便が就航している。

 島の大きさはバラバラだが、たとえばもっとも大きい北木島(きたぎしま)は面積7.5平方キロ、周囲18.3km、集落間の移動には車が必要なくらいの広さがあり、約900人が居住している。笠岡諸島全体では約1600人の住人がいて、各島にはいくつかの集落があるが、商店は各集落に1軒あるかどうかというくらいで、飲食店も少なく、通年営業していなかったり予約が必要だったりする。

北木島の採石場跡地。地下50mほどまで掘られているが、雨水が溜まっている。こちらは通常は非公開だが、観光向けに公開されてる採石場もある

 島の産業としては、北木島がかつて、「北木石」で知られる石材産業で栄えていたが、現在は海外からの安い石材におされ、採石場は2カ所しか稼働していない。笠岡諸島は平野が少ないので、農業は盛んではない島がほとんどだ。自家消費のために畑を維持している住民は少なくないが、住民の高齢化に加えて海を渡ってきて繁殖しているイノシシによって畑が荒らされることもあり、畑もやめてしまう住民も少なくない。

 笠岡諸島は優良な漁場である瀬戸内海に囲まれているが、大きな漁港は交通の便の良い本州や四国側にあるので、笠岡諸島の港が漁港として大きいわけではない。しかし漁業は行なわれていて、各島の港には漁船が多く停泊し、島内の食事処では季節ごとに獲れたての魚介類をたくさん食べることができる。

 観光業はそれなりに盛んで、夏場は海水浴などマリンスポーツが楽しめる島も多く、とくに白石島の海水浴場は県内でも有名だという。

北木島で見かけたイノシシへの注意喚起。ワナを仕掛けて駆除しているというが、漁師はいても猟師のいない島なので、山狩りというわけにはいかない
北木島はいまでの石材業が多く、石材加工が行なわれている。石はほかの地域から持ってきて、溶岩プレートなども加工している
北木島で作られている灰干し製品。笠岡諸島近海で獲った魚を石材業の技術を活かして灰干しに加工している。見た目が新鮮なまま水分が飛んでいるのも特徴
こちらは灰干しのための砂。三宅島から持ってきた岩を石材業のノウハウを活かして砂状に加工し、魚の水分と臭みを吸収させるのに使っている。魚は笠岡諸島産
真鍋島の集落の道。かなり狭く、普通の車が入れる場所は限られる

 今回はKDDIの招待により、真鍋島に泊まり、島内の様子を見ることができた。真鍋島は笠岡諸島では3番目に大きな島で、集落は2つあるが、人口は300人に満たない。瀬戸内海のど真ん中にあり、古くは「本州から5里、四国から5里」ということで「五里五里」とも呼ばれた。歴史があって史跡も多く、とくに近年は猫の多い島としてネットなどで有名になったこともあり、外国人も含めた観光客がそこそこ訪れる。笠岡諸島では唯一となる下水処理施設もあることから、本州とあまり変わらない生活のできる島でもある。

 産業としては、かつては菊の栽培が盛んだったが、現在はほとんど行なわれていない。真鍋島の集落を歩いてみると、古い家並みはそれ自体が観光名所となるくらい美しいが、住民がおらず半ば放棄されたような建物もチラホラ見られた。国内のほかの離島や山間部同様、真鍋島も過疎化や高齢化が進行している。

 こうした離島を支えようというのが、「しまものプロジェクト」の狙いだ。こうした地域で特産品を作る事業者は、規模が小さく、全国流通のノウハウに乏しいことも少なくない。そうした事業者に全国流通や商品マーケティングのノウハウやリソースを提供し、離島での産業を活性化させる。

 産業が活性化すれば、若い世代も島を出ずに、地元で働くという選択肢も出てくる。KDDIでは地方創生に取り組むことで、各地域や企業と協業しつつ持続的成長の可能なビジネスモデルを構築し、社会課題の解決に貢献していく。

真鍋島。山には木々が自生しているが、かつてはほとんど菊の畑だったとか
昭和24年築の真鍋中学校。まだ使われているが、授業の邪魔にならない範囲で見学できる
真鍋中学校の裏手は高台になっていて、集落と海が見渡せる。海の向こうは本州だ
かつて盛んだった菊の栽培は、いまはごく一部の住民が裏庭で行なう程度となっている
JA(農協)では生鮮食品や日用品を扱っている。季節によっては島で採れたゴーヤなどが持ち込まれる
真鍋島には猫がたくさん居るが、基本的にみんな「さくら耳」の避妊手術済み