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5Gでプロ野球観戦はどう変わるのか?
KDDIの自由視点映像リアルタイム配信を体験
2018年6月28日 09:37
KDDIと沖縄セルラー電話は6月27日、沖縄セルラースタジアム那覇において、5Gを活用した自由視点映像のリアルタイム配信の模様を報道関係者向けに公開した。
両社では、6月26日に同システムの実験を実施。それが成功したことを受け、27日に披露することになった。同スタジアムでは、前日と同じ北海道日本ハムファイターズ対福岡ソフトバンクホークスの公式戦が開催されており、その模様が5G経由で配信された。
両社では、スタジアム左翼に5Gの基地局を設置。照明用の鉄塔に1塁側スタンドをカバーするアンテナ2つと3塁側スタンドをカバーするアンテナ2つを取り付け、それらから28GHz帯の700MHz幅を使った電波を吹いた。
同様の設備を用いて50台の端末に対して映像を配信する実験はすでに実施されていたが、今回はより難易度が高い自由視点映像のリアルタイム配信にチャレンジすることになった。
スタンドには16台の4Kカメラを設置。それらのカメラで撮影した映像は、球場内の一室に特設のサーバールームに転送され、GPUサーバーを用いて映像をリアルタイム処理し、それを5G経由でスタンドの10台のタブレット端末に配信した。
処理としては、16台のカメラで撮影された映像は、自由視点映像用の3Dデータにリアルタイムで加工されていく。それをタブレット1台ごとに1台ずつ用意された配信用サーバー上でユーザーのリクエストに応じたアングルの映像に変換し、端末に送信するという流れ。
今回は実験ということもあり、端末1台につき配信サーバーが1台用意されるという、かなりリッチな環境となっているが、商用化する際にはもっとコンパクトなシステムにする必要はあるだろう。
実際にスタンドでタブレットを用いて自由視点映像を視聴してみたが、遅延は0.5秒ほどに抑えられていた。こうした映像配信においては、動画のエンコードやデコードに時間を要するため、通信を要因とする遅延以上に映像処理をいかに高速に行うかが課題となる。それが0.5秒ほどで済んでいるだけでもかなり優秀だが、途中で複雑な映像処理を行っていることを考えると、大きな進歩と言える。
KDDI総合研究所では、複数のカメラの映像から選手を抽出して3Dモデル化し、あらかじめ用意した背景テクスチャーにそれを重ねて表示するという「自由視点VR」方式を開発。今回の実験では、この技術を用い、実際にはカメラ映像が無い角度の映像をリアルタイムに作り出していた。
ただ、オブジェクト(物体)の数が増えると処理が複雑になるため、今回の実験ではバッターボックス付近のみが視聴できるゾーンとなった。また、撮影していない角度の映像を作り出すといっても、ピッチャーマウンド側から見たような映像は出力できず、エンターテインメントとしての迫力という点では課題が残る。
今回はリアルタイム配信に重きが置かれ、画面上のボタンを押せば自由視点映像を10秒間録画できるようになっていたが、スロー再生することなどはできなかった。実際にスタジアムや遠隔地でこうしたサービスを利用するとなると、自由視点映像をさらに加工して、見ごたえのあるシーンを演出する必要があるだろう。
ロシアで開催されているサッカーのワールドカップでは「VAR」(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の導入が話題になっているが、自由視点映像の精度を高められれば、ストライクかボールか、スイングしたか止まったか、といった判定も行えるようになる。実際、27日の試合では、ビデオ判定でセーフと判定されるようなクロスプレーがあったが、こうした微妙な判定も簡単に行えるようになるかもしれない。
実のところ、商用化にあたっては、28GHzという直進性が高い周波数帯を扱う点も非常に難しい。アンテナと端末の間に人間のような障害物があると、電波が遮られて通信できなくなってしまう。このため、鉄塔から横に向けて電波を吹くよりも、天井にアンテナを設置して下に向けて電波を吹く方が遮蔽物の影響を受けにくいことから、スタジアムのような施設においては、後者のような方法がエリア整備に有効だと考えられるという。
さまざまな課題は残るものの、「ワクワクを提案し続ける会社」を目指すというKDDIらしいデモだった。