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農業×IoTで稲作農家の負担を軽減~IIJが取り組みを紹介

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は、IoT技術を活用して農業の負担軽減に取り組んでいる。5日、「IIJ IoTサービス」事業説明会にて紹介された。

 IIJは農林水産省のプロジェクトとして、静岡県の5つの大規模農家の水田にて、大規模な実証実験を行っている。目標はIoTを活用して稲作農家にとって大きな負荷なっている「水管理」の負担を軽減することだ。

 水管理とは、稲の生育状態にあわせて水田の水位を調整すること。特に収穫直前の9月には、稲の状態を見つつ2~5日単位で水を出入を繰り返す「間断水管理」という手順がある。稲の状態を見るには実際に水田に行く必要があり、水田への水の出し入れは、用水路のバルブをひねって行う必要がある。大規模な稲作農家では、点在する水田を数百枚も管理しているケースがあり、この「間断水管理」は、特に負担となっていた。

LoRaWANのゲートウェイ。3本の長いアンテナがLoRaWAN用、短いアンテナはLTE用。高い場所に設置すれば最大30km程度をエリア化可能

 IIJは、農業ベンチャーの笑農和(えのわ)や農研機構、農業事業者、自治体と協力し、「水田水管理ICTコンソーシアム」を結成。実際に水田に行かなくても水管理や生育状況監視ができるシステムの開発に挑む。

 具体的には、水田の各所にセンサーを設置し、水位や水温のデータを収集。用水路のバルブには笑農和が開発する自動給水弁を取り付け、遠隔制御で水を出し入れできるようにする。

 センサーや給水栓の制御には、低コストな通信規格(LPWA)の1つ「LoRaWAN」を活用。LoRaWAN基地局(ゲートウェイ)を1つ設置することで、水田の周囲の半径数kmをカバーする。数十~数百個のセンサーや給水栓から集めた情報は、LTE網を通してクラウドに送信。アプリからデータを閲覧したり、自動給水弁の開閉を指示できる。

LoRaWANアンテナのSIMスロット
IIJ社内では観葉植物でIoTデバイスを検証している
低価格なセンサーでは誤差や不良品の検出も必要となるという

設置コストの低減も目指す

IIJ ネットワーク本部 IoT基盤開発部長 齋藤透氏

 これまで農業でのIT活用が進まなかったのは、IIJで農業IoTプロジェクトに取り組む齋藤氏によると「単純に、儲からないから」。1つの水田から収穫できる米はおよそ10万円程度。一方で現在のセンサーデバイスは1基あたり10万円程度と値が張るという。

 このプロジェクトでは、水田に設置するデバイスの低コスト化も主眼にあり、供給価格にしてセンサーが1万円以下で、自動給水弁が4万円以下という、大幅な価格低減が目標だ。加えて、農家が簡単に扱えるようにするためには、デバイス自体の信頼性を高める必要がある。

 齋藤氏は「実際に水田に設置してみると、机上の計算では発生しなかった事態に課題に遭遇する」と語る。ゴミや虫の侵入による計測精度の低下など、農薬や風による劣化など、実現の上での課題はまだ多いという。このプロジェクトでは2019年度までの3年間を通して、システムの量産化を目指す計画だ。

 また、プロジェクトの成果は「水田水管理ICTコンソーシアム」によって標準化。ゲートウェイやデバイス間通信の規格化も進められる。農業ベンチャーやIoT専門のMVNOなどの参入も促し、市場を活性化させるのが狙いという。

“フルMVNO”ならではの強みとは

 農業IoTの例からも分かるように、「IoT」のサービスを実現するためには、センサー、ゲートウェイ、デバイス管理、ネットワーク、クラウドなどさまざまな技術要素が必要とされるが、「IIJ IoTサービス」では、一貫して提供できるフルラインナップを揃える。SIMカードは1枚から契約でき、基本料金は月額300円。1MB当たり0.2円の従量課金制のシンプルな料金体系を採用している。

 また、IIJは加入者管理設備を自社で備える「フルMVNO」として、2018年3月より新サービスを提供する。フルMVNOは、SIMカードの発行管理や開通・停止をMVNO自身で実施できるというものだが、これはIoT分野でも強みとなるという。

 例えば、農業IoTの場合、閑散期はゲートウェイのLTE通信を利用する必要がない。自社で回線の開通管理できない「ライトMVNO(一般的なMVNO)」では、使用しない期間も回線提供元に対する料金が発生するため、その分をMVNOかユーザーが負担する必要がある。フルMVNOであれば、遠隔で回線を停止・再開できるので、使わない時期は料金がかからないサービスも実現できるという。

 IIJでは農業IoTのほかにも、LPWAによる電力メーターやコネクテッドホームなど、IoTサービスを多数展開。「IIJ IoTサービス」以前のものを含めて、現時点で200以上のプロジェクト実績を持つ。

 また、同社の法人向けモバイルサービスでは、スマートフォンやパソコンでの利用数とIoT/M2Mの利用数が2015年を境に逆転しており、現在はSIMカード3枚のうち2枚はIoT用途となっている。多くの実証実験を通して、IoTの技術的課題は明確になってきたとしつつも、IoTを活用し、新たな付加価値を付けていくようなサービスは、これから本格的に登場していく見通しだという。