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IIJら、水田の水管理にICTを活用する実証実験の成果を報告 「田んぼの様子を見に行く」負担を軽減

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は、水田に水位センサーを設置し、水稲栽培における水管理作業の低コスト・効率化を図る実証実験を2017~2019年度に行い、その成果を発表した。

 実証実験は農林水産省のプロジェクト「革新的技術開発・緊急展開事業」として、静岡県袋井市、磐田市の水田約75haにおいて行われた。

IIJ IoTビジネス事業部 副事業部長の齋藤透氏

 IIJは、農業ベンチャーの笑農和(えのわ)や農研機構、農業経営体、自治体と「水田水管理ICTコンソーシアム」を結成し、水管理にかかるコストを削減することを目標に、研究代表機関として研究を進めてきた。

 水稲経営においては、田植えや収穫などの多くの作業で機械化が進められ、大幅に省力化が進展しているが、水管理はいまだに手作業。水稲栽培の労働時間の26%が水管理を占めているという。

 水管理は、おもに稲の生育状態にあわせて水田の水位を調整する作業。一定時間ごとに全ての水田の稲の状態や水位を目視で確認し、水田への水の出し入れは用水路のバルブをひねって行う。大規模な稲作農家では、多数の水田を管理しているケースがあり、特に負担となっていた。

 また、農業従事者が減少するなか、1人あたりの農地面積は急激に増加しており、従事者の負担も大きくなっていることから、水稲経営の大規模化には水管理の省力化と、低価格で操作しやすい水管理システムの開発が求められていた。

システムの構成

 実験では水田の各所にIIJが開発した水田センサーを設置し、水位や水温のデータを収集。用水路のバルブには笑農和が開発した自動給水弁を取り付け、スマートフォンやタブレットなどのブラウザ上で動作するシステムから水位の確認や給水弁の遠隔制御が行える「ICT水管理システム」を開発した。

水田に設置するセンサーや自動給水弁

 データの収集や自動給水弁の制御はLPWA規格のLoRaWAN基地局(ゲートウェイ)を通じて行われる。LoRaWAN基地局は自宅などに設置することを想定しているが、ソーラーパネルと組み合わせて電源を得られない環境でも動作させることが可能。

LoRaWAN基地局

 センサーや自動給水弁は乾電池で駆動し、1度電池を交換すれば、電池を交換することなく1シーズン中稼働できる。また、自身で組み立てて簡単に設置でき、導入時の負担もかからない。

笑農和 代表取締役の下村豪徳氏

 水管理システムはスマートフォンやタブレットなど、ブラウザが利用できればどこからでも利用できる。水位や水温の変化がグラフで確認できるほか、スケジュール設定による給水弁の自動制御も行える。

 たとえば、夜間に水栓を開放し、水位に応じて水栓を閉めるという設定や、収穫直前期に行われる、稲の状態を見つつ3日ほどの間隔で水の出し入れを繰り返す「間断水管理」という作業にも対応する。

自動給水弁システム(本体)
自動給水弁システム(通信ボックス)

 3年間の実証実験を経て、水管理にかかる移動距離や水管理にかかる時間の大幅な削減が確認された。システムを使用した農業経営体からは、水管理が効率的に行えるようになり、空いた時間で別の栽培管理などが行えるようになったといった好意的な意見が得られたという。

Aプランニング(農業経営体)の増田勇一氏
農健(農業経営体)の砂川寛治氏

 静岡県では今後、給水だけでなく排水管理や河川水位の観測など、農村地域におけるさまざまな分野でICTを活用し、防災面での利用も検証していく。磐田市、袋井市に加え、三島市でも効果検証が行われる。

静岡県 経済産業部 農地局 主査の生熊進吾氏