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「KDDI∞Labo」第10期、運送業に革命もたらす「軽 town」が選ばれる

農業、宇宙、スポーツ、多希に渡る分野のスタートアップも

 KDDIは、スタートアップやエンジニアを支援する「KDDI∞Labo」の第10期の「KDDI∞Labo賞」として、運送業で荷主とドライバーのマッチングをはかるサービス「軽 town(けいたうん)」を選出した。

 運送・物流に革命的な変化を加えるのではないかという視点で選ばれた「軽 town」だが、ローンチ済サービスのさらなる発展を目指したKDDI∞Labo第10期では、農業や宇宙など、幅広い分野のサービスが集まっていた。本稿では、印象的なサービスもあわせて紹介しよう。

軽 town

 「KDDI∞Labo賞に」選ばれたCBCloud社の「軽 town」は、UBERの物流版とも言えるサービス。下請け、孫請けという構造で、ドライバー1人を手配するだけでも平均30回電話するという手間のかかる運送業界で、荷主とドライバーを直接繋げてスピーディな配送を実現し、さらに中抜きの手数料を抑える。荷主と配達先にはよりスムーズな物流を実現し、ドライバーの収入アップにも繋がる。

スマホアプリでの依頼確認画面
発注画面

 かつて国交省に勤務していた創業者は、運送会社を経営していた義父が亡くなったことを契機に会社の経営に乗り出したが、アナログで非効率的な作業手順、あるいは下請けに次ぐ下請けという構造から変革の必要性を痛感、「軽 town」を開発することになった。

 すでにサービスは開始されており、現在、荷主は20社、ドライバーは350人。つい最近では、荷主から全国600店舗への荷物の配達という依頼が発生し、「軽 town」ではそのうち250カ所への配達を請け負った。ドライバーとして登録できるのは、黒ナンバー(貨物軽自動車運送事業の申請)を取得している人になる。発注時にその内容が発注書に記され、受取側でその内容をチェックすることで荷抜き・盗難を防ぐ格好。ドライバー、荷主への評価を行う機能もある。

評価画面

リアルにインパクトを与えるサービスたち

 KDDI∞Labo賞にこそ選ばれなかったものの、他の参加者のサービスも粒ぞろいだ。

動画でレクチャーしやすく「SPOCH」

 凸版印刷やマイクロソフトがアクセラレーターとなった「SPOCH(スポック)」(スプライザー社)は、スポーツ中の動画にコメントを入れられるアプリ。スポーツ中の動きは言葉で表現しづらく、動画で観るだけでは0.1秒進むと場面も異なってしまう。そこで特定のシーンにタグを入れてブックマークし、そこにコメントを入れるだけで、特定の場面を探しやすくなるほか、選手同士でもアドバイスしやすい。

 すでに27種目128団体で利用されており、部費・会費で運営される団体で6500億円の市場があると指摘。現役プレイヤーだけではなく親やOBも利用できれば裾野拡大にも繋がる。まずはiOS版が提供される。利用料は2016年内に限り無料という。

ARで家具を選ぶ「RoomCo」

 「RoomCo」は、20ブランド90万点もの家具データを収録し、ARで部屋の中に家具を置いた場合、どうなるか確認できるアプリ。実際の部屋だけではなく、図面(間取り図)の上でもシミュレーションできる。

Bluetoothタグを使った「MAMORIO」

 年間に財布の落とし物が警察に届けられるのは2242万件という実績を披露し、「なくす、をなくす」というキャッチコピーを掲げるのがIoTデバイスの「MAMORIO(マモリオ)」。今回は会場参加者の投票による「オーディエンス賞」にも選ばれた。

 1年玉サイズの小さなタグが大きな特徴。財布やカバンに入れておくことで見つけやすくする。ユニークなのはクラウドトラッキングという機能で、他のユーザーと一緒に落とし物を捜せるという。

 「MAMORIO」はいわゆるビーコンであり、他のタグとの通信は行わない。サーバー側で全てのタグの情報が集約され、「MAMORIO」を利用するユーザー(スマートフォン)が増えれば増えるほど、街中にある他のユーザーの「MAMORIO」の現在地もわかりやすくなるという仕組みだ。ちなみにクラウドトラッキングで自分の持ち物を探すことは、他のユーザーには通知されない。

米作りに欠かせない水をコントロール「paditch」

 笑農和(えのわ)の「paditch(パディッチ)」というサービスは、米作りにおいて、田植え~収穫という4~5カ月の間、水管理しやすくするための仕組みを提供する。

 現在は、まず水田の水を管理する小型の水門を提供、遠隔地から水門の開閉を可能にした。タイマーによる開閉も可能となっている。

 米作りでは、複数の水田を所有している場合、水門の開閉を行うために移動するだけで6時間も費やす農家もいる。あるいは深夜・早朝に水門の開閉作業を行うこともある。しかし「paditch」を設置すれば、開閉作業を手元のスマートフォンで操作できる。

 水位の管理は米作りにおいてどのような役割を果たすのか。たとえば田植え直後だと、水を深く張ることで太陽光が水田の底に届きにくくすることで雑草が生えにくいようにコントロールする。そこで苗が長さ15cm程度であれば水深は13cm程度にしたいのだという。また日中、太陽光で温められた水をそのままにしておくと米は高温障害で不作になる。最近は米作りを行う地域でも気温が年々高くなっており、適切な水温を維持するためにも深夜・早朝だけでは足りず、さらに水をタイミングよく入れ替えていく必要があり、そこで水門を操作することになる。水温を維持するためのノウハウは米農家であれば把握しているそうだが、そうした部分もpaditchを使うことでデータ化でき、今後は新たに米農家になる人へ活用してもらうことも視野に入れる。

 また次のステップとして、米を赤外線で撮影すれば必要な水の量も判別できるとのことで、ドローンなどで水田を撮影して必要な水量を把握できるようにする。

 笑農和によれば、10ヘクタール(5ヘクタールは東京ドーム約1個分)まではトラクターなど必要な機材が1台で済むとのことだが、それ以上になると新たに投資して機材を追加するかどうかの判断に迫られるという。30ヘクタールになるともはや個人レベルでは管理できないとのこと。現在、農家の高齢化などで放棄された農地は増えている。IoTを駆使することで、より少人数で、農地が点在している場合でも大規模な生産が可能になると見込む。つい先頃、NTTドコモや新潟市などがドローンを使った水稲管理実証実験に進んだが、「paditch」は今すぐ導入可能な手段という印象だ。

50個の超小型衛星を打ち上げ「AXELGLOBE」

 アクセススペース社の「AXELGLOBE」(アクセスグローブ)は、一辺50cm、重さ100kg、一般的な衛星の1/100のコストで打ち上げられるという人工衛星ビジネスを提供する。JAXAの事業も受託している同社は、50機の人工衛星を打ち上げて、地球上をくまなく観測できる。そこで得られた衛星写真を人工知能で解析するとのことで、データベースへアクセスできるプラットフォームを提供する。

 たとえば保険や先物業界には農作物の収穫状況を、流通業には倉庫建設候補地の絞り込みなどのデータが得られるようにする。KDDI∞Laboを通じてパートナー企業との繋がりを模索しており、アマゾンジャパンとクラウド環境におけるデータ管理方法の検討などを行い、衛星写真のJPEG画像を一般公開するサイトも26日、開設された。

訪日外国人が観光すれば通信量をもらえる「traveltech」

 大阪市が協力した「traveltech」は、今回、訪日外国人向けのSIMカードを提供するサービス。追加容量の購入、APN設定のウィザードなどができるアプリが提供されている。そうしたSIMカードはすでに多く存在するが、「traveltech」が面白いのは、「訪日外国人が観光スポットや店舗を訪れると利用可能な通信量が増える」という仕組み。近隣の店舗からプッシュ通知があり、店舗でQRコードを読み取るという流れになっており、送客料が通信量に転嫁される格好だ。

 大阪市によれば2016年1月~7月の訪日外国人は26.7%増。インバウンド消費が単なる購入から、体験(コト)の消費に移ったと分析する。そんな訪日外国人にとってSIMカードの調達は大きな課題。2020年度には訪日外国人を倍増させると政府が目標を掲げていることも、市場性の高さを示す。

KDDI髙橋氏「実証実験、事業連携に繋がるケースが出てきた」

KDDIの髙橋氏

 KDDI代表取締役副社長の髙橋誠氏は、第10期という節目を迎えた今回、参加するスタートアップの分野がスポーツや農業、物流、宇宙など多岐にわたってきたと説明。

 これまでのKDDI∞Laboでは、スタートアップの創業をサポートする狙いが大きかったが、成長支援というフェーズに足を踏み入れたという。そこで∞Laboの卒業生である企業などからレクチャーをしたり、事業連携や資金調達の成功率を上げるためプレゼン力の向上を図ったりした。

 スタートアップ企業から、社会にインパクトのある新事業の創出と成長を目指す一方、本当にインパクトを打ち出せるかが課題。そこでプログラムのなかでパートナー企業に提案したりKDDI社内でタッチ&トライを行ってフィードバックを得た。その結果、前期ではゼロだった実証実験や事業連携のケースが第10期では、複数出てきた。

 新規事業を作り出せという掛け声は既存企業のなかにもある。そうした企業がサポートしに、KDDI∞Laboに集まってきた感があると髙橋氏。既存事業はすでに大きな規模になっているなかで、それに匹敵する新規事業を作り出すことは難しい。KDDI∞Laboを通じてスタートアップという存在を活用できることは、新規事業を自社内で成長させるというプレッシャーを受けずに新たな展開を図れるため、大手既存企業にとっても歓迎する状況のようだ。

第11期の展開は

 現在の日本のスタートアップ環境は、技術力のある起業家を支援しようとする動きが産官学のなかである、と髙橋氏。

 KDDI∞Laboでは、毎期、新しいことをやらないと許されないとした同氏は、11期での取り組みとして韓国スタートアップとの取り組みとして、韓国貿易投資振興機関(KOTRA)と連携する。今秋、ベンチャーキャピタルが集うイベントに、KOTRAに声をかけたところ100社以上が名乗りを上げたとのことで、数社、東京でのイベントに招待する。またサンフランシスコにある拠点に加えて、2016年10月、韓国に拠点を設ける。

 第11期では大学との連携も進めていく予定。新たなパートナーとしてJ:COM、全農、ソニーミュージック、電通が加わるという。