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2017年のMVNO業界はどうなる? 市場調査とMVNO4社が語る展望
OCN、IIJ、ビッグローブ、mineo担当者が課題や対策を議論
2017年1月23日 17:59
MMDLaboは、「MMD研究所」によるMVNO市場の調査結果の解説や、MVNO事業者4社を招いたパネルディスカッションを行うイベントを開催した。同社の市場調査を元に、2016年のMVNO市場の動向や、明らかになりにくいMNPの内訳、各社が語る特徴や今後の課題が語られ、2017年の展望が示された。
MMD研究所の吉本浩司氏からは、2016年のMVNO市場の動向が総括され解説された。“格安SIM”などとしてMVNOのサービスを知っているかという認知度については、認知、サービス認知、内容理解、利用検討など細かく分けて調査されており、いずれも1年前の調査より向上。単純な「認知」は83.3%と高くなり、具体的なサービス名を聞いたことがあるといった「サービス認知」についても51.2%と過半数を超えた。利用検討も22.6%に上り、吉本氏は「キャズムを越えた」と指摘する。
“メイン端末”として格安SIMを利用する割合が増加しているのも2016年の特徴で、直近では伸び悩んだものの、1年前と比較すると53%増で、市場全体の5.8%になった(ワイモバイルは除く)。これが1割になるのが市場規模などの面でも節目になる様子で、今後も注目されるという。
MVNOにおける市場シェアはサービスごとに分けて明らかにされ、直近ではmineoとUQ mobileが大きく伸びていると最新の動向についても言及している。
データ通信専用SIMが先行してきたMVNO市場だが、音声通話プランは2016年の契約に限ると、その割合は音声通話SIMが7割ぐらいになり、「この比率は今後も高まっていくだろう。メインケータイが増えている」(吉本氏)とする。
性年代別の調査でも、2016年はそれまでの大まかな傾向からの変化が顕著になり、女性や、若い世代に格安SIMが広がっていることが数字でも示された。また若い世代はスマホのヘビーユーザーであることも多く、7GB以上の大容量プランが契約される割合も増加している。
大手キャリアからのMNPの内訳
MVNOをMNPで契約するのか、新規で契約するのかといった回線にまつわることも調査されており、最新の結果が明らかにされた。
それによれば、大手キャリア(ワイモバイルを含む4キャリア)からMNPで乗り換えたユーザーは35.1%、4キャリアを解約して新規で契約したユーザーは20.3%、既存の契約を残したまま新規契約(≒2台持ち)が32.6%、格安SIM同士でMNPが1.1%などとなり、おおまかに新規が65%、MNPが36%という割合になった。
MNPの内訳についてもMMD研究所の調査結果として明らかにされ、MNPはNTTドコモとソフトバンクのユーザーの割合がやや多い傾向。一方、4キャリアを解約してから新規に契約するケースでは、ドコモが割合として少なくなり、ワイモバイルが比率として増加する。
音声通話SIMに限るとMNOからのMNPは68.8%と7割近くになり、ドコモ、au、ソフトバンクの割合はそれぞれ約2割で、概ね似たような割合になっている。
女性、若年層が増加
こうした2016年の調査結果を元にした2017年の展望については、吉本氏は、「メイン端末としての利用やMNPが非常に増えており、今後も落ちることはない」と、勢いが継続すると予測。
その上で、女性や学割が終わった新社会人ユーザーの増加を予測し「20代は爆発するかもしれない」と予想したほか、端末セット売りの増加、SIMロックフリー端末市場の拡大などが継続するとした。
また、音声通話SIMではサービスやブランドを予め決めてから契約に臨んでいるユーザーが多いという傾向が明らかになっており、ブランド認知も“戦場”になり、音声通話SIMの契約が多い店頭も、MVNO専用ショップの拡大などが重要になるとした。
こうしたMVNO同士の競争に加えて、大手キャリアの迎撃、大手キャリアのサブブランドといわれるサービス(ワイモバイル、UQ mobile)の攻勢、総務省の施策が、市場の行方を決めるポイントになるとしている。
OCN、IIJ、ビッグローブ、mineo担当者がポイントを語る
OCN、サービス見直しやサポート強化
「OCN モバイル ONE」を提供するNTTコミュニケーションズ(NTT Com) 担当課長の中山賀王氏は、2016年後半の特徴として、音声通話SIMが伸び、販売の半数を占めるまでになったことや、5GB以上の利用が増え、支払われる利用料の平均額も上がっていると指摘。2017年は、利用動向の変化を踏まえたサービスの見直しに取り組むとし、品質改善やサポート強化も重点項目として挙げた。
IIJ、フルMVNOで自由度の高いサービスを投入
「IIJmio」などを提供するインターネットイニシアティブ(IIJ)担当課長の佐々木太志氏は、2016年のトピックとしてau網を使うサービスの開始や通話定額オプションの提供などを紹介。
2016年には「フルMVNO」の提供を表明したのも“初モノ”が多いの同社の特徴とし、「広範な自由度でサービスを設計できるようになる」と紹介。「2017年の下期には恐らくサービスを開始できる。当初はデータ通信で始めるだろう」とした。
2017年の展望については「多様化」がカギになるとし、「大手3キャリアは(施策が)似通ってくる。そうでないものを目指すべき」と語り、フルMVNOや独自のSIMカードの発行で独自の取り組みを加速させていく方針。同社は大容量プランについても「何か出せるといい」(佐々木氏)ともしている。
佐々木氏はまた、不正利用防止や青少年保護、災害対策など「社会的な信頼も磨いていかなければならない」とも指摘している。
BIGLOBE、エンタメフリー・オプションは2月に対象サービス追加
「BIGLOBE SIM」を提供するビッグローブ 事業部長の中野雅昭氏は、サービスの特徴のほか、2016年11月から、独自に調達したiPhone 6などのiPhoneの取り扱いを開始し、好評を得ていること、さらにiPhone SEも追加したことなどを紹介。
利用動向については「1人平均でデータ通信量は1.6倍に増えた。5割以上が動画を見る機会が増えたと回答している」として、こうした課題や不安に応える有料オプションとして「エンタメフリー・オプション」を提供、YouTube、Google Music、Apple Music、AbemaTVの4つのサービスがカウントフリーになるというもので、2月にはさらに1つのサービスが対象になることも明らかにされた。具体的なサービス名は今後明らかにされる。
ビッグローブでは、AbemaTVなどコンテンツ提供者側でも、ユーザーがスマートフォンのパケット消費を気にして利用を抑制してしまうのは課題として認識されているとし、こうした不安を解消する役割や立ち位置で、積極的に取り組んでいく方針。
パネルディスカッション、MVNO市場の課題とは
2016年を振り返って、市場の課題というテーマが掲げられると、NTT Comの中山氏は「認知が一気に広がった印象で、1台目需要が増えた。これから加入されるユーザーにも、より安全・安心できるように取り組んでいく必要がある」と指摘。
IIJの佐々木氏は「SIMフリー端末が増え、ケースなど周辺アクセサリーも伸びて、業界を賑やかす原動力になった」とする一方、「遠くに雷が鳴りはじめたような、緊張感のある年だった」と振り返り、「MNOのサブブランドが攻勢を強め、また犯罪利用など悪い面も取り上げられるようになった。安心・安全への取り組みでも要注意の年になった」と、事業面、社会面での課題に警戒感を隠さない。
「伸びているといっても、このままで市場全体の15%、25%までいくのかというと、それは難しい。例えばiPhoneを取り扱えるといっても、多様性の面からは疑問だ。MNOと同じようなものを売っていると危機に瀕していく。直ちに危機が訪れるわけではないが、これまで通り伸びるかというと、危ういところはある」と、大手キャリアとは異なる多様性を打ち出すことが重要になるとする。
ビッグローブの中野氏は「全体として認知が非常に高まっている」とやはり認知度の向上に手応えを感じた様子。一方で、世代間にはまだ認知に乖離があるとも指摘した。
中野氏は回線速度による快適さについて「MVNOとして大きな課題がある」という認識で、今後も取り組んでいく方針。「多様性という意味では、大手やMVNOと同じ事をやっていてはダメ」と、IIJとの佐々木氏の考えにも賛同している。
KDDIによる買収が発表されているビッグローブだが、業界再編について聞かれ「起こると思う」(中野氏)。KDDI子会社になった後の同社のサービスについては、「現状のサービスは提供を続け、今まで以上に価値を提供できるようにする。具体的にどうするかはこれから検討していくことになる」とした。
ケイ・オプティコムの上田氏は、「ここ数年は伸びる。利用検討まで行って欲しいという思い」と認知度の向上に努めている様子で、「その中でも安心感や信頼感も大事かなと思い、施策をうっている」とする。
4社それぞれの課題は
2016年の取り組みを100点満点の自己評価で聞かれると、ケイ・オプティコムは92点、ビッグローブは80点、IIJは60点、NTT Comは80点という評価に。
ケイ・オプティコムは端末ラインナップの拡充や、回線増強を課題として挙げたほか、同様にビッグローブはCMなど認知度向上のための施策の強化、IIJはイノベーティブな取り組みの結実と実用化などを課題として挙げる。
特にIIJは、ビジネスとしては順調で合格点とするものの、「イノベーションという観点では辛い点を付けざるを得ない」(佐々木氏)を厳しい評価。フルMVNOによる取り組みが控えているとあって、「2017年は(革新的な取り組みで)取り返していく。上積みして、度肝を抜く」と意気込みも覗かせた。
総務省の庇護下から“独り立ち”の必要性
2016年は携帯電話業界全体が、総務省主導の施策に大きく影響された年となったが、MVNO業界でみると、基本的には肯定的に捉えられる推移を辿っている。
MVNO業界では2013年にMVNO委員会を設立し、政策提言をとりまとめて積極的に発信したことで、総務省に声が届くようになったという。そこで提示された内容はおおむね実現できる見通しになっており、「MVNOの伸びが市場に競争を生むという、総務省の意向と合致していた」(佐々木氏)。
これまでは、ある意味で総務省の施策や方針に護られていたというが、「しかし、これからは独り立ちしていく必要がある。我々自身がキャリアと渡り合っていけるように、競争のフェーズを進歩させてないといけない」(佐々木氏)と、順風満帆ではない様子も指摘。
一方で、「サブブランドをMNOがフルバックアップするとなると、我々の独力で互角に渡り合えるかは、難しいところだ。総務省の力を借りながら、(問題点として)話題にしていかなければならない」(佐々木氏)と、豊富な資金力のサブブランドの事業者には、対抗する術が限られていることも認めている。
学割に対抗? 「勝負しない」
4社に対する、会場の記者からの質問では、MNO各社が力を入れる「学割」に対抗するのかと聞かれたが、4社は一様に対抗しない方針を示している。
IIJの佐々木氏は、「高校生や大学生などの若年層や、学割は、大手キャリアが強いところ。そこで正面きって勝負するつもりはない」と明言。ビッグローブの中野氏も「今から何かするつもりはない。ISPサービスや家族向けの施策は、3月には間に合わないが、やっていきたい」とした。ケイ・オプティコムの上田氏は「キャリアの学割は、固定回線や家族の加入など条件が厳しい。学生に限ったことではなく、ファーストスマホとしてや、選びやすいプランを用意したい」などとした。
このほか端末ラインナップについて、FREETELや楽天モバイルなどで、オリジナルのSIMフリー端末や「honor8」など独占提供の端末が特徴のひとつになっている点について聞かれた。
各社からは、「MVNOとして、端末で差別化するのは難しい曲面になっていく。オリジナルモデルは考えていない」(IIJの佐々木氏)、「オリジナル端末の計画はない。なるべく魅力のある端末はあればいいと思う」(ビッグローブの中野氏)、「頭の片隅にはあるが、積極的には考えていない。SIMフリー端末でもマルチキャリアでいいものが出てきている。arrowsの“オリジナルカラー”は好評だったので限定でも響くものはある」(ケイ・オプティコムの上田氏)などと語られ、オリジナルの端末の開発には慎重な意見が聞かれた。